文字数 1,146文字

 僕達がのろのろと進んで行くと青い車も僕達に気付いていたらしく、林の中に頭を突っ込んで待っていてくれた。
青い軽自動車。
随分古い。傷だらけだ。
「ギリギリだな・・・。でも、軽で助かった」
柏木は言う。
僕は車を降りた。
車を誘導する。
青い車はもっと左に寄ってくれた。車が木に擦るが、気にしていないみたいだ。
「あの・・・擦っていますけれど・・」
僕が言うとドライバーは「平気、平気。もう傷だらけだし」と言った。

僕は自分達の車の左端を見る。
「路肩が弱い」の文字が頭に浮かぶ。
車と車の間は数センチ。お互いにドアミラーを畳んで、すれ違う。
僕は思わず手に汗を握る。
青い車のドライバーは窓を開けて言った。
「行けそうですか?」
「何とか」
柏木が答えた。

ようやく通り抜ける。
みんなでほっとする。
青い車はご夫婦らしい。
奥に座っている女性は帽子を被っているせいで顔が見えない。
彼女は真っ直ぐ前を向いている。

「この先、どの位ありますか?」
向こうのドライバーが尋ねたので、「40分程度です」と答えた。
「ずっとこんな感じ?」
「そう。ずっとこんな感じ」
「回れる所、有りました?」
「いや、無理ですね」
相手のドライバーは深いため息を付く。
「参ったな・・・」
そして僕達に言った。
「もう少し行くと広い道路に出ますから。あと少しだから頑張ってください」
「有難う御座います」
「それでね。この先、分岐があるんですよ。で、右に行ってください。左が近道と書いた看板が有るけれど、左は大きな木が倒れていて行き止まりです。絶対に右ですからね。ナビが左と言っても右ですから」
初老のドライバーはそう言った。
「分かりました。有難う御座います」
僕は頭を下げた。
「じゃあ」
「お気を付けて」
僕達は出発した。
後ろを振り返ると青い車は無かった。もう、行ったらしい。
「何か親切な人だったな」
僕は言った。
「でも、隣にいた奥さん?ずっと前を向いていましたね。ちらりともこっちを見なかった」
柏木は言った。
「それがちょっと不思議っちゃ、不思議・・・」

「ムカついていたんじゃないの?旦那がこんな所に入り込んで」
僕は返した。
少し進むと大きな木が根元から折れて倒れていた。
それは捩じれて道の向こう側に転がっていた。
「凄い木が倒れてるな」
「病気だったんですかね?」
「道を塞がなくて良かった」
そんな事を言いながら通り過ぎる。

 10分程進むとさっきのドライバーが言っていたように分岐があった。ナビは左を指示した。「近道」の看板が倒れている。

「良かったね。さっきの人達に聞いて」
僕は言った。
暫く行くと森が開けて来た。
「あっ、柏木、今、道があった」
僕は歓喜の声を上げた。
ようやく広い道路に出られる。
「あれ?」
僕は言った。
「えっ?」
柏木も言った。
柏木はそこで車を停めた。僕達は暫し茫然と前を見詰めた。
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