文字数 2,161文字

目の前の広い道に出る所にトラバーが二本バツ印に設置されていた。
工事現場で使う様な「通行止め」のスタンドに括り付けて。

柏木はエンジンを切った。
僕達は車を出て無言でそれに近付いた。
トラバーを避けて広い道に出ると、看板があった。
「倒木の為に通行止め」
僕達はじっとそれを見る。
トラバーは針金でスタンドに固定されていた。

「スタンドごと動かすか・・」
柏木は言った。
「柏木、さっきの青い車って・・・」
柏木は僕を見る。
「いいから、まず車を出さないと・・」

スタンドには砂袋の重しが付いていた。それを除ける。
ずずずとスタンドを引き摺る。
と、向こうからバイクのエンジン音が聞こえて来て、三台のバイクがやって来た。
群馬ナンバーのバイク。それが僕達の前で止った。
一人がヘルメットを外して言った。
「どうしたんすか?」
「済みません。そっちを抜けて行ってください。ちょっと車を出さなくちゃならないので」
僕は言った。

男達はバイクから降りてスタンドを動かすのを手伝ってくれた。
「ここ、通って来たんすか?」
男が道を覗き込む。
「・・はあ・・」
「ここ、通れるんすか?・・倒木の為、通行止めって書いてありますよ」
一人が暗い森を覗き込んで「・・・すげえ道だな」と言った。
「いや、何とか通って来ました。でも、お薦めはしません」
僕は言った。
「入り口は普通だったのですが・・・・こういうのって本当に困りますよね」


柏木は車を動かして道に出した。
「あれっ。TTS。すげえな。どろどろっすね」
「こんな所、外車で登ってきたんすか?・・・ひえ~。すごいっすね」
ライダー達は言った。
「・・・・」

またスタンドをずずずと引きずって元に戻した。砂袋を置く。
「この先の見晴らし台に行くんすか?」
ライダーの一人が言った。
「いや、○○神社に・・」
柏木は答えた。
「ああ。俺達もそうっす。秘境のパワースポットらしいっすね」
もう一人が言った。
「そうらしいですね」
僕は言った。
「頂上のパーキングにバイクを止めて、ちょっと戻るみたいっす。横道があってそこを40分くらい歩くと社があるって書いてあった。入り口に石碑があるみたいっすよ」
「ああ・・。成程」
僕は答えた。
男は興味深そうに言った。
「その神社、人を拒むらしいっすよ。呼ばれた人だけが行けるらしい。・・・そんな事言われたってねえ。こっちにだって都合があるんだから。そんな訳には行かないっすよ。平日は仕事があるんだから。ねえ?」
「はあ・・・」


「ところで、この道は広かったですか?」
柏木は尋ねた。
「ええ。まあ普通。ちゃんと二車線ある。・・お宅ら、東京からでしょう?東京だとちょっと大回りになりますね」
彼等は答えた。
僕達はどんなに遠かろうが構わなかった。たとえ一晩中運転したとしても。

「快適なドライブロードっすよ。景色も良かったし。・・・多分、頂上の見晴らし台や土産屋とか・・・・その為に作った道なんじゃないかな?山の頂上に店とか休憩所があるって書いてありました」
「そうなんですか」
「神社はそこから歩いて40分もあるでしょう?なかなか、そこまで行きませんよね。余程の神社好きじゃ無ければ」
彼等はそう言ってあはははと笑った。

一人が空を見上げる。
「あれ?・・・さっきまで天気が良かったのに、雲が出て来た」
「本当だ。・・そう言えば、俺の買った本にこう書いてありましたよ。拒みたい時には天気さえも操るって。当たってんじゃん。もうすげえな。びっくりだよ」
男は「マジかよ」を繰り返す。
「・・本当だ」
僕達も空を見上げる。

「中々辿りつかないで、俺達もグルグル迷いましたよ。あっちこっち。ようやくたどり着いた。もう少しっすよ。」
「分かりました。有難う御座います」
「じゃ、お先に」
そう言って群馬ナンバーのライダーズは走り去った。
「有難う御座いました」
僕達はその後姿に声を掛けた。


車に乗って神社に向かう。
「あの、青い車は何だったの・・・?」
僕は言った。
「わざわざ、通行止め外して入って来ないよね」
「あのスタンド一人で動かしたんですかね。・・・で、通った後でまた戻した・・・?一人で動かせない事は無いけれど・・」
「うん・・」
「どこか道、他にありました?他からやって来たとか・・・」
「いや、あの道だけだと思う」
・・・

「倒木って、きっとあれだよね。あのでっかい木」
「多分・・・」
「二か所、倒木があったって事?」
「さあ・・?」
「まさか、あの木を・・」
柏木はちらりと僕を見て笑った。
「いや、ないない」
「そうだよな」
僕も笑った。

脇道があった。
そこにもトラバーでバツ印が付けられていた。
柏木は車を止める。
「これが近道ですね」
「そうだね」
車を発進させた。

もう少しで頂上だ。
でも、残念ながら雲に邪魔されて壮大な景色は見えなかった。


僕は石碑を探す。
ライダーズが歩いて来る。僕達に手を振って道を曲がって行く。
僕も手を振り返す。

「ああ、あそこですね」
柏木は言った。

「お陰様で何とか行けそうだね」
僕は言った。
「はい。何とか。苦労の末に」
柏木は苦笑した。


「道、教えてくれたね」
僕は言った。
「はい」
「とてもフレンドリーなドライバーだったね」
「はい。とても」
柏木は答えた。

「柏木。僕達は呼ばれたのだろうか?それとも拒まれたのだろうか?」
僕は聞いた。
「うーん。・・・何とも言えないですね」
柏木は前を見たままそう言った。
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