文字数 1,208文字

「俵コメオ君」
 誰かが僕の名前を呼んだ。
 立ち止って振り返ると、そこに道子がいた。
 学校からの帰り道だった。

「みっちゃん。フルネームで呼ぶのはやめてくれって言ったじゃん」
 僕は言った。
 道子はへへへと笑いながら僕の隣を歩く。
 ふっくらとした丸い顔。ぽっちゃり系の道子とぽっちゃり系の僕。
 身長もあまり変わらない。

 僕達はまるで双子の様だと友達にからかわれる。
 確かに姿形は似ているが、中身は全く違う。
 全てに置いてボンクラの僕と違って、道子は成績優秀、太っていても運動神経抜群、彼女は動けるぽっちゃりなのだ。
 そして我がクラスの学級委員長であらせられる。
 信頼暑苦しい、いや、・・・信頼厚いお方なのだ。
 普段は温厚でにこやかな女子であるが、丸い眼鏡の奥の細い狐目が時折鋭く光る。
 それが半端なく怖い。


 僕と道子は家が隣同士で昔からの幼馴染なのである。
 家族ぐるみの付き合いで、物心付く前から一緒に育って来た。
 僕の方が3か月ほど前に生まれていながら、全てに置いて道子の方が勝っていた。道子はまるで僕を自分の舎弟の様に扱ってきたのである。
「コメオなんて名前付けるから、太っちゃうんだよね。白米食べ過ぎて」
 道子が言う。
「お前が言うか?」
 僕は返す。
 だが、それは道子のATフィールドによって跳ね返されたらしい。
「それも名字が俵だよ?何のギャグだと思うよね。米屋だってそんな名前付けねーわ。(笑)一昨年亡くなった爺ちゃんが付けたんでしょう?一生食うコメに困らないようにって」

「・・・」
「家族の誰も反対しなかったのがすごいよね」
「・・・」
「できないよねえ。お宅の爺ちゃん、亡くなるまで家の中で首領(ドン)だったからさ」
「・・・」
「爺ちゃんの愛を感じるなあ。本当に有難い名前だよねえ」
 道子はにやにやと笑って言う。

 僕は不意に手を伸ばして道子の頭を叩いた。・・・積りで、手は「すかっ!!」と宙を滑った。
 道子がふいと頭を避けたのだ。
「へっへっへ」
 道子はちっちっちと人差し指を振ると、「コメオ如きにやられる道子では無い」と言った。
「喧嘩売ってんのかよ。デブ道子」
 僕は道子を睨む。
「まあまあ」
 道子はぽんぽんと僕の肩を叩く。

 季節は秋。
 街路樹のイチョウが鮮やかな黄色に変わっていた。
 いい天気である。
 今日は先生達の出張があるから、給食を食べて子供は下校。
 僕と道子は家に向かって歩いた。

 信号で立ち止る。
 交差点の向こう側を沢山の人が行き交う。
「ああ・・・今日は、鯉ヶ淵の弁天様の縁日だ」
 僕は言った。
「そうか・・。出店が出ているから、賑やかなんだねえ。コメオ君。ちょっと寄って行かない?」
 道子が言った。
 僕は返した。
「下校途中の寄り道は禁止されています。学級委員長がそんな事をしていいのですか?」
「天気も良いからさ。ちょっとお参りに寄ったって言えばいいじゃん。ちょっとだけ。行こ、行こ」
 そう言って道子は僕の腕を引っ張った。
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