文字数 673文字

神社の裏から伸びる山道を歩く。

道は裏山の山頂に向かっている。山頂には小さな社がある。
この辺りの人達は、小さなこの山を「御山(おやま)」と呼んでいる。

僕は狐と一緒に歩く。狐は僕の前を歩く。時々、立ち止まって僕を待つ。
僕は息を切らしながら狐に続く。


山頂の社でお参りを済ませると、見晴らしのいい場所で座った。
今日は風も無くて、本当に暖かい。
汗をかいたから暑い位だ。
僕は上着を脱ぐ。

リュックの中から魚肉ソーセージを出すと、それを折って狐の前に置いてやる。
もう一本は僕が齧る。

「サトル、俺を迎えに来たのか?」
狐は言った。
「うん」
僕は頷いた。
「そろそろ迎え入れようかと思って。流石に。もうあれから何年も過ぎたから・・・それに4月からは高校生だし・・」
僕は言った。

狐は自分のソーセージを食べてしまった。僕のソーセージをじっと見る。
僕は齧り掛けのソーセージを折って狐の前に置いてやる。
狐はそれを食べる。

「お前はもう寂しくないのか?」
ソーセージを食べ終わった狐が尋ねた。
「うん。大丈夫だ」
僕は答えた。
狐はその透き通った目でじっと僕を見詰めた。そして首を横に振った。
「・・・まだ、駄目だな。まだ、お前は頼りない」
そう言った。

「マジで・・?」
僕は情けない顔で狐を見た。
狐はふふんと鼻で笑った。


僕は狐から海に視線を移した。
海は果てなくどこまでも広がる。眼下には細々とした家並みと新緑の森や白い花が見えた。
僕は海岸沿いに続く道を指で辿る。ずっと南の方に。
そこにある街。あの白い建物が僕の通っていた小学校だった。
僕はこの町にある祖父の家で小学校4年生の5月から3月までを過ごしたのだ。
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