文字数 940文字

「山本 トミオ (地獄寺出張所)」
 その家の表札にはそうあった。
「はて・・・?」
 都賀は首を傾げた。

 都賀は入り口の引き戸に手を掛けた。
 鍵は開いていた。
 引き戸を少し開けて都賀は大きな声で「御免ください」と言った。すると奥の方から「ハイ」という返事が聞こえ、どたどたと走る音が続き、ぬっと大男が現われた。
 老齢に差し掛かった男はくたびれた作務衣を付けて、手にはスマホを持っていた。


 都賀は言った。
「済みません。私はH県にあります、○○神社で禰宜をしております、都賀と申します。地獄寺と山神社を目指してここまで来たのですが・・・明かりが付いているのでちょっとお尋ねしようと思って・・。あのう、庭先で結構ですのでテントを張らせていただけますか?」
 都賀は言った。
 男は笑って「ああ。どうぞ。どうぞ。構いませんよ」と返した。

 都賀は「良かった」と言った。
「廃村になったと聞いていたので・・・だれも住んでいないと思っていたのです」

 男は言った。
「いや、住んでいますよ。この林の向こうにもあと2軒、住んでいます」
「あっ、そうなんですか?」
「確かに2年前までは廃村でしたよ。でも、今はウチを含めて3軒、人が住んでいます。限界集落となっていますよ」
 男はそう言った。
 暫くそこで立ち話をしていたが、男は「今、夕飯を作っていた所なんです。何も無いけれど、良かったら一緒に如何ですか?」と言って都賀を招いた。
 都賀は喜んだ。
「本当ですか?これは有り難い。宜しいのですか?是非お願いします」と言って男の後に続いて家の中に入った。


「村の電線を使ってここまで電気が来ているんです。ネットも繋がりますよ。Wi-Fi、良かったらどうぞ」
 廊下を歩きながら男が言った。
 都賀は「いやいや、これは素晴らしい。有難う御座います。・・・ところで地獄寺出張所と言うのは・・・?」と聞いた。
「ああ。今ですね。クラウドファンディングで募金をお願いしているのです。寺を再建するのに。それまで・・」
 そう言うと男は部屋の前で止った。

 障子を開けると、そこに何と、一部焼けてしまった閻魔大王像が置かれていた。肩から頭の半分まで炭化している。
 そしてその奥にすっくと立った地蔵菩薩の像が置かれていた。
 都賀は驚きの目で男を見た。
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