6. 2019年3月23日(土)⑦
文字数 4,060文字
和食を選んだはいいが、北原の奴、特上寿司に加えて、食後にプリンアラモードとチョコレートパフェまで頼みやがった。
丸多は家で上着を脱ぎながら、結局二人分計二万も支払うはめになった、その日最後の会食を悲観的に思い返した。
起動したPCで〈東京スプレッド〉のチャンネルを開いた。すると、いつもと趣向の違う新着動画が、丸多の悶々とした心地を吹き飛ばした。タイトルには「大切なお知らせ」とだけ記されている。
テーブルを囲んで五人が座っている。カメラは台所に固定されているらしい。全員が弔 い合戦でも始めそうな真剣な顔つきでいる。
「モジャ」端に座る〈キャプテン〉が言った。「どういうことか説明してくれる?」
言われた〈モジャ〉はすぐには喋らなかった。重たい空気は、映像を通して丸多の小さなスタンドテーブルにも漏れ出てきた。
「もう潮時かな、って」〈モジャ〉は萎 れた顔をしている。
「もっと詳しく」〈キャプテン〉が辛辣 に言った。〈モジャ〉がそれに答える。
「お前らが面白い奴らだって、俺が世界で一番思ってる自信あるんだよ。高校のときから見てるし、センスは間違いなく抜群だって思ってる」
四人全員が黙って聞いている。〈モジャ〉は同じ様子で続けた。「だけど、百年後の人たちも楽しませることができるか、って考えるとどうかな、って。
シェイクスピアっているじゃん。シェイクスピアっていつの時代の人だったか知ってる?1500年代から1600年代にかけて詩とか戯曲とか書いてたんだよ。考えたら、実際すごくない?だって、400年前に書かれた作品が未だに本屋で売られてるんだよ。2000年代にもシェイクスピアの作品を買い求める人がいるんだよ。
今、俺らがやってることも確かに面白いと思うんだよ。だけど、俺はもっと、何て言ったらいいんだろう、時代にとらわれず、もっと深みのあることをしたい、って思って」
「今、俺らがやってることはくだらなくてできない、と」〈キャプテン〉が言った。
「いや」〈モジャ〉は手を横に振った。「今の活動を否定するつもりはないよ。全ての人がシェイクスピアのような活動をしないといけないわけではないから。お前らのやり方はお前らのやり方でいいと思うんだよ。賞味期限が短い作品が悪いって言ってるんじゃないんだよ。そういうものも世の中にあるべき、とも思うし。
だけど、俺はそろそろ自分のやり方で行きたいと思ったわけ。もっと、後世に残るような作品を独自に創っていきたい、って」
「モジャさん、脱退するんですか」〈モンブラン〉が心配そうに言った。
「具体的に何やんの?」〈ニック〉が横から訊いた。寂しそうな目をしている。
「具体的にはまだ決めてない。ただ、一人で自由に動画作りたいかな。もっと芸術性を意識してやっていこうと思ってる。そうだな、例えば、もっと映像美を追求するような動画を考えてる。まだ漠然としたイメージしかないけどね」
「そっか」〈キャプテン〉は腕を組んで椅子の背に寄りかかった。無口な〈ナンバー4〉は口をつぐんだままでいる。そして、同じように他の三人もそれぞれ、考えるようにして黙り込んだ。
「悪いとは思ってる。ここまでのチャンネル登録者は、俺一人だったら絶対獲得できなかったから。ただ、いつまでも下品なことで笑ってるようなことは続けられないかな、と思えてきて」
「もう東京スプレッドを続ける意思はない?」〈キャプテン〉が訊いた。
「そうだね」と〈モジャ〉。「本当に悪いとは思ってるし、感謝もしてる。だけどこれっきりにしよう」
「撤回するなら今のうちだよ」〈ニック〉が諌 めるようにして言った。
「そうですよ、モジャさん欠けたら痛すぎますよ」〈モンブラン〉の言い方は懇願に近かった。
〈モジャ〉は立ち上がり、何も言わず別室へと歩いていった。残されたメンバーは互いの顔を見合ったが、やはりここでも喋り出す者はいなかった。
「考えてみたけど」部屋から〈モジャ〉の声がした。「やっぱりもう、下品なことはできない」
〈モジャ〉はそう言いながら全裸で出てきた。股間部分には、余計なものがはみ出ないよう、マヨネーズが塗りたくられている。
「下品なのはお前だろ」一同は大声で言い、テーブルを叩きながら大きく笑い合った。
「下品なことはこれっきりにしよう」〈モジャ〉は四人に近づいた。
「どこに映像美があるんだよ」〈ニック〉が笑いで顔を真っ赤にして言った。
「やっぱりモジャさん、ただのアホですよ」〈モンブラン〉は、可笑しさにより出た涙を手で拭いた。
「そういえば」〈モジャ〉は冷蔵庫の扉を開けた。「セロリ買ってあるんだけど、食べる?新鮮なやつ」
〈キャプテン〉は立ち上がり、〈モジャ〉の手の中のセロリを一本取った。そしてその先端で、〈モジャ〉の股間のマヨネーズをすくった。
「はい、全員でじゃんけん」〈キャプテン〉は、まだ笑い足りないようだった。「じゃんけんで負けた奴がこれを喰う」
丸多は動画を閉じた。案の定、「大切なお知らせ」などどこにもない。
「迷宮入りかな」丸多は他に誰もいない部屋の中でつぶやいた。
ここまで独自にかなりの情報を集めてきた自負はあった。警察以外に、これほど深く事件に関わった者は自分の他にいないだろう。だが。
それでも犯人の見当がつかない。あの日、一体何が起きたのか。シルバを殺したのは誰だ。
マウスに触れずにいると、一年半前の関連動画が勝手に始まった。〈シルバ〉が〈シルバ〉として活動再開した頃だな、と丸多は画面をうつろな目で眺めた。
「後輩の未来を占う」と題した動画。〈シルバ〉のチャンネルのものであるため、既に観た記憶がある。
整頓された室内。頭から紫の布をかぶった〈シルバ〉がこぶりな机に向かっている。ありがちな占い師を演じているのだろう、机の上にはよく磨かれた透明な球が置いてある。
「次の方、どうぞ」
〈シルバ〉が言うと、枠外から〈キャプテン〉が足音を立てずに入ってきた。Tシャツにハーフパンツというラフな格好はこのときから変わっていない。また、この頃の彼の髪はまだ黒い。
〈キャプテン〉はやや緊張した顔つきで机の前のスツールに座った。
「お前も」〈シルバ〉はわざとらしく、重々しい声を出した。「スタークリエイターになりたいだろう」
「なりたいです」
「俺もなりたい。どうすればなれるか知っているか」
「どうやったらなれますか」
「こいつが知っている」〈シルバ〉は球に両手をかざした。「これはな、ヒマラヤから取り寄せたパワーストーンで、目を向けた者の未来を映すと言われている」
「すごいですね、これ」
〈キャプテン〉が触れようとすると、〈シルバ〉は声を平常に戻した。
「あ、ダメ、触んないで。十万円もするから」
「十万円?」〈キャプテン〉は火傷でもしたように手を引っ込めた。
「よし、キャプテン。覗いてみろ。そこにお前の未来がある。成功したお前の姿を見出せるか」
〈キャプテン〉は球に顔を近づけた。
「どうだ」〈シルバ〉が訊く。
「いや、自分の顔しか見えないです」
「心の目で見るんだ。もっと、そのパワーストーンのように、心を清らかにして見るんだ」
〈キャプテン〉がさらに顔を近づけようとすると、〈シルバ〉は突然、球を片手で掴んだ。そして頭上まで振り上げてから、それを床に叩きつけた。
その瞬間、〈キャプテン〉は叫び声をあげて、椅子から飛び上がった。
球は割れなかった。大きく跳ね上がった後、枠外へと飛んでいった。
「何ですか、何投げたんですか」〈キャプテン〉の顔はまだ引きつっている。
〈シルバ〉が腹を抱え、笑いながら言った。「ただのスーパーボール」
動画は終わった。
コメント欄をスクロールしてみると、「誰も傷つかない動画」「シルバはルールも守ってたし面白くもあった」「生きてれば今頃、スタークリエイターだったのに」「スターになるところを見たかった」「この才能は戻ってこない」「もっとこの人の動画観たかった」……
死を惜しむこれらの言葉の他に、追悼の文も多く見られた。
丸多はページを一つ戻し、先ほどの〈東京スプレッド〉の動画を表示させた。こちらでは「汚い」「下品」「子供と一緒に観てしまいました」「マヨネーズは股間を隠すためのものではない」「ホントに脱退しろ」「そのうちBANだろ」……
肯定的なコメントもいくつかあったが、それらはこういった膨大なアンチコメントに埋もれていた。
画面を閉じると急激に疲れが襲ってきた。この日、様々な感情に触れたことで丸多の神経はすさんでいた。
明日が日曜日で良かった。
そう思ったとき、鞄の中のスマートフォンが鳴った。裏返ろうとするヒトデの倍程度の速さでそれを取り出した。ただし、画面を見たとき丸多の両目が一気に開いた。通話アプリの呼び出し画面に「cap.」と表示されていた。
「はい」丸多はか細い声で言った。
しばらく応答はなく、複数の男たちの会話が遠くで聞こえた。
「もしもし」気丈だが感情の薄れた声。「丸多さんですか」
「はい」
「東京スプレッドのキャプテンです」
「ええ、ご無沙汰してます」
少し間を置いて〈キャプテン〉が言った。
「丸多さん、この前、ナンバー4と会いましたよね」
6章 年表
2015年4月 〈シルバ(GING)〉〈ちょいす〉と交際。
2015年12月 〈シルバ(GING)〉〈ちょいす〉と破局。
2016年1月 〈シルバ(GING)〉動画投稿開始。
2016年3月頃 〈ちょいす〉半狂乱の動画アップ。
2017年1月 〈シルバ(GING)〉〈美礼〉と交際。
2017年4月 〈美礼〉のオフ会に〈東京スプレッド〉が参加。
2017年5月 〈美礼〉怪我をする。
2017年6月 〈美礼〉死去。
2017年8月 〈シルバ〉正式に〈シルバ〉と名乗る。
2017年8月 〈東京スプレッド〉が〈シルバ〉の動画に登場。
2017年8月 北原 専門学校入学を検討。
2018年8月 〈シルバ〉の死体が見つかる。
丸多は家で上着を脱ぎながら、結局二人分計二万も支払うはめになった、その日最後の会食を悲観的に思い返した。
起動したPCで〈東京スプレッド〉のチャンネルを開いた。すると、いつもと趣向の違う新着動画が、丸多の悶々とした心地を吹き飛ばした。タイトルには「大切なお知らせ」とだけ記されている。
テーブルを囲んで五人が座っている。カメラは台所に固定されているらしい。全員が
「モジャ」端に座る〈キャプテン〉が言った。「どういうことか説明してくれる?」
言われた〈モジャ〉はすぐには喋らなかった。重たい空気は、映像を通して丸多の小さなスタンドテーブルにも漏れ出てきた。
「もう潮時かな、って」〈モジャ〉は
「もっと詳しく」〈キャプテン〉が
「お前らが面白い奴らだって、俺が世界で一番思ってる自信あるんだよ。高校のときから見てるし、センスは間違いなく抜群だって思ってる」
四人全員が黙って聞いている。〈モジャ〉は同じ様子で続けた。「だけど、百年後の人たちも楽しませることができるか、って考えるとどうかな、って。
シェイクスピアっているじゃん。シェイクスピアっていつの時代の人だったか知ってる?1500年代から1600年代にかけて詩とか戯曲とか書いてたんだよ。考えたら、実際すごくない?だって、400年前に書かれた作品が未だに本屋で売られてるんだよ。2000年代にもシェイクスピアの作品を買い求める人がいるんだよ。
今、俺らがやってることも確かに面白いと思うんだよ。だけど、俺はもっと、何て言ったらいいんだろう、時代にとらわれず、もっと深みのあることをしたい、って思って」
「今、俺らがやってることはくだらなくてできない、と」〈キャプテン〉が言った。
「いや」〈モジャ〉は手を横に振った。「今の活動を否定するつもりはないよ。全ての人がシェイクスピアのような活動をしないといけないわけではないから。お前らのやり方はお前らのやり方でいいと思うんだよ。賞味期限が短い作品が悪いって言ってるんじゃないんだよ。そういうものも世の中にあるべき、とも思うし。
だけど、俺はそろそろ自分のやり方で行きたいと思ったわけ。もっと、後世に残るような作品を独自に創っていきたい、って」
「モジャさん、脱退するんですか」〈モンブラン〉が心配そうに言った。
「具体的に何やんの?」〈ニック〉が横から訊いた。寂しそうな目をしている。
「具体的にはまだ決めてない。ただ、一人で自由に動画作りたいかな。もっと芸術性を意識してやっていこうと思ってる。そうだな、例えば、もっと映像美を追求するような動画を考えてる。まだ漠然としたイメージしかないけどね」
「そっか」〈キャプテン〉は腕を組んで椅子の背に寄りかかった。無口な〈ナンバー4〉は口をつぐんだままでいる。そして、同じように他の三人もそれぞれ、考えるようにして黙り込んだ。
「悪いとは思ってる。ここまでのチャンネル登録者は、俺一人だったら絶対獲得できなかったから。ただ、いつまでも下品なことで笑ってるようなことは続けられないかな、と思えてきて」
「もう東京スプレッドを続ける意思はない?」〈キャプテン〉が訊いた。
「そうだね」と〈モジャ〉。「本当に悪いとは思ってるし、感謝もしてる。だけどこれっきりにしよう」
「撤回するなら今のうちだよ」〈ニック〉が
「そうですよ、モジャさん欠けたら痛すぎますよ」〈モンブラン〉の言い方は懇願に近かった。
〈モジャ〉は立ち上がり、何も言わず別室へと歩いていった。残されたメンバーは互いの顔を見合ったが、やはりここでも喋り出す者はいなかった。
「考えてみたけど」部屋から〈モジャ〉の声がした。「やっぱりもう、下品なことはできない」
〈モジャ〉はそう言いながら全裸で出てきた。股間部分には、余計なものがはみ出ないよう、マヨネーズが塗りたくられている。
「下品なのはお前だろ」一同は大声で言い、テーブルを叩きながら大きく笑い合った。
「下品なことはこれっきりにしよう」〈モジャ〉は四人に近づいた。
「どこに映像美があるんだよ」〈ニック〉が笑いで顔を真っ赤にして言った。
「やっぱりモジャさん、ただのアホですよ」〈モンブラン〉は、可笑しさにより出た涙を手で拭いた。
「そういえば」〈モジャ〉は冷蔵庫の扉を開けた。「セロリ買ってあるんだけど、食べる?新鮮なやつ」
〈キャプテン〉は立ち上がり、〈モジャ〉の手の中のセロリを一本取った。そしてその先端で、〈モジャ〉の股間のマヨネーズをすくった。
「はい、全員でじゃんけん」〈キャプテン〉は、まだ笑い足りないようだった。「じゃんけんで負けた奴がこれを喰う」
丸多は動画を閉じた。案の定、「大切なお知らせ」などどこにもない。
「迷宮入りかな」丸多は他に誰もいない部屋の中でつぶやいた。
ここまで独自にかなりの情報を集めてきた自負はあった。警察以外に、これほど深く事件に関わった者は自分の他にいないだろう。だが。
それでも犯人の見当がつかない。あの日、一体何が起きたのか。シルバを殺したのは誰だ。
マウスに触れずにいると、一年半前の関連動画が勝手に始まった。〈シルバ〉が〈シルバ〉として活動再開した頃だな、と丸多は画面をうつろな目で眺めた。
「後輩の未来を占う」と題した動画。〈シルバ〉のチャンネルのものであるため、既に観た記憶がある。
整頓された室内。頭から紫の布をかぶった〈シルバ〉がこぶりな机に向かっている。ありがちな占い師を演じているのだろう、机の上にはよく磨かれた透明な球が置いてある。
「次の方、どうぞ」
〈シルバ〉が言うと、枠外から〈キャプテン〉が足音を立てずに入ってきた。Tシャツにハーフパンツというラフな格好はこのときから変わっていない。また、この頃の彼の髪はまだ黒い。
〈キャプテン〉はやや緊張した顔つきで机の前のスツールに座った。
「お前も」〈シルバ〉はわざとらしく、重々しい声を出した。「スタークリエイターになりたいだろう」
「なりたいです」
「俺もなりたい。どうすればなれるか知っているか」
「どうやったらなれますか」
「こいつが知っている」〈シルバ〉は球に両手をかざした。「これはな、ヒマラヤから取り寄せたパワーストーンで、目を向けた者の未来を映すと言われている」
「すごいですね、これ」
〈キャプテン〉が触れようとすると、〈シルバ〉は声を平常に戻した。
「あ、ダメ、触んないで。十万円もするから」
「十万円?」〈キャプテン〉は火傷でもしたように手を引っ込めた。
「よし、キャプテン。覗いてみろ。そこにお前の未来がある。成功したお前の姿を見出せるか」
〈キャプテン〉は球に顔を近づけた。
「どうだ」〈シルバ〉が訊く。
「いや、自分の顔しか見えないです」
「心の目で見るんだ。もっと、そのパワーストーンのように、心を清らかにして見るんだ」
〈キャプテン〉がさらに顔を近づけようとすると、〈シルバ〉は突然、球を片手で掴んだ。そして頭上まで振り上げてから、それを床に叩きつけた。
その瞬間、〈キャプテン〉は叫び声をあげて、椅子から飛び上がった。
球は割れなかった。大きく跳ね上がった後、枠外へと飛んでいった。
「何ですか、何投げたんですか」〈キャプテン〉の顔はまだ引きつっている。
〈シルバ〉が腹を抱え、笑いながら言った。「ただのスーパーボール」
動画は終わった。
コメント欄をスクロールしてみると、「誰も傷つかない動画」「シルバはルールも守ってたし面白くもあった」「生きてれば今頃、スタークリエイターだったのに」「スターになるところを見たかった」「この才能は戻ってこない」「もっとこの人の動画観たかった」……
死を惜しむこれらの言葉の他に、追悼の文も多く見られた。
丸多はページを一つ戻し、先ほどの〈東京スプレッド〉の動画を表示させた。こちらでは「汚い」「下品」「子供と一緒に観てしまいました」「マヨネーズは股間を隠すためのものではない」「ホントに脱退しろ」「そのうちBANだろ」……
肯定的なコメントもいくつかあったが、それらはこういった膨大なアンチコメントに埋もれていた。
画面を閉じると急激に疲れが襲ってきた。この日、様々な感情に触れたことで丸多の神経はすさんでいた。
明日が日曜日で良かった。
そう思ったとき、鞄の中のスマートフォンが鳴った。裏返ろうとするヒトデの倍程度の速さでそれを取り出した。ただし、画面を見たとき丸多の両目が一気に開いた。通話アプリの呼び出し画面に「cap.」と表示されていた。
「はい」丸多はか細い声で言った。
しばらく応答はなく、複数の男たちの会話が遠くで聞こえた。
「もしもし」気丈だが感情の薄れた声。「丸多さんですか」
「はい」
「東京スプレッドのキャプテンです」
「ええ、ご無沙汰してます」
少し間を置いて〈キャプテン〉が言った。
「丸多さん、この前、ナンバー4と会いましたよね」
6章 年表
2015年4月 〈シルバ(GING)〉〈ちょいす〉と交際。
2015年12月 〈シルバ(GING)〉〈ちょいす〉と破局。
2016年1月 〈シルバ(GING)〉動画投稿開始。
2016年3月頃 〈ちょいす〉半狂乱の動画アップ。
2017年1月 〈シルバ(GING)〉〈美礼〉と交際。
2017年4月 〈美礼〉のオフ会に〈東京スプレッド〉が参加。
2017年5月 〈美礼〉怪我をする。
2017年6月 〈美礼〉死去。
2017年8月 〈シルバ〉正式に〈シルバ〉と名乗る。
2017年8月 〈東京スプレッド〉が〈シルバ〉の動画に登場。
2017年8月 北原 専門学校入学を検討。
2018年8月 〈シルバ〉の死体が見つかる。