第15話 マニアック・ティーチャー
文字数 2,346文字
夏休みが明けて一週間が過ぎた。
N高校で目立たず地味子 として生きているさみはピンチを迎えている。
「時野 さみ! また居眠りかっ!」
数学教師より体育教師がむいているんじゃないかという衣笠砂羽 が、さみを怒鳴りつけた。
さみははっとして目覚めて謝ると姿勢を正す。
仕方がない。さみは「魔法少女ミラクルらぶりん」として昼夜を問わず平和を守っているのだ。主に夜。しかも夏休みが明けてから。
おのれ、トォバァジャめ。
そして笑っているクラスメイトたち。
滅べ、人類。
僕はバット。さみの相棒さ!
今はさみのカバンに毛玉のマスコットとしてぶら下がっている。
しかし困ったなぁ。地味子 として生きていかなくてはならないさみが居眠りキャラとして定着しつつある。
最悪なことに放課後、担任でもある衣笠砂羽 に呼び出された。
さて、どうしたものか。
生徒指導室で教師からの説教をきき終えたさみが廊下へ出ると太郎丸 がいた。
これからたまたま帰るところです、みたいなことを言っているが昇降口は反対だ。
太郎丸 、君の浅はかな思惑に天使のさみは気がつかないけれど、僕のこのマスコットとして開きっぱなしでドライアイ、むしろ砂漠のデザートアイはごまかされない。
さて、どうしたものか。
談笑しているさみと太郎丸 に衣笠砂羽 が顔をしかめている。
その時だった。
〈カウント・スタート〉
〈スリー〉
〈ツー〉
〈ワン〉
〈ゼロ〉
いったい誰が?
まあ、さみが白い靴下を履いていたら、間違いなく太郎丸 なんだろうけれど。
そう思いを巡らせている僕の目の前でまばゆい光に包まれたのは太郎丸 だった。
光がおさまると彼はぴちぴちのブラウスにタイトなスカートからすね毛の生えたあしをのぞかせていた。
なんということだろう。
僕のデザートアイにまた別の形でダメージが加わった。
「わあああああっ!」
「きゃああああっ!」
太郎丸 とさみが悲鳴をあげるのは同時だった。
この仲良しめ。
「これって …… どういうこと?」
後遺魔法「ラブカウント」が発動すると、あたりは魔法空間に包まれる。
僕はさみのカバンのキュートでプリティなマスコットの姿から羽をはやした丸っこい、これまた別の形でキュートな姿になっている。
その僕を見るさみの瞳は信頼の現れだ。
おまけで太郎丸 も見てきているが。こっちを見るな。
「おそらくだけれど、さみの魔法の力は強大だ。魔女トォバァジャの魔法『ラブカウント』を歪んだ形で発動させたのかもしれない」
そう言いながら僕は太郎丸 の背後の衣笠砂羽 が気になって仕方がなかった。
彼の表情は混乱。そして次にとる行動は決まっている ──。
「太郎丸 くぅーんっ!」
「うわあああああっ!」
後ろから抱きつかれた太郎丸 は華麗とも言える仕草で衣笠砂羽 の腕をほどくと彼を一本背負いした。
廊下の床はタイル。してはいけない音を立てて衣笠砂羽 は白目をむいて横たわった。
そう、太郎丸 は武道の心得がある。これは ── チャンスだ。
「さみ、早く学校の外に出るんだ」
「え?でも ……」
青い顔をしている太郎丸 をちらりと見て、さみはもう一度、僕を困ったように見つめる。
「大丈夫。太郎丸 のことは僕にまかせて。『ラブカウント』がどんな形で歪んでいるかはわからない。君が今すべきことは早くこの魔法を解くことだ」
「うん!太郎丸 君、大丈夫だから。あとでね!」
そう言って、さみは駆け出していった。
太郎丸 は泣きそうな顔で僕を見ている。
「太郎丸 。君のおじいちゃんは道場をもっている。そして君はそこの門下生だ。素人を武術でケガさせたとあっては君はもちろん、君のおじいちゃんもとっても困ったことになるよね」
僕は愛らしい丸い瞳で太郎丸 をじっと見つめる。
「でも大丈夫! 僕の魔法で何とかしてあげる」
「本当!?」
「本当だとも。でも太郎丸 、忘れないで。さみは『魔法少女ミラクルらぶりん』。友達以上に近づきすぎると君にもこんな困ったことが起きるんだ」
太郎丸 は開きかけた口を閉じて黙って僕の話をきいている。
「今は君自身の問題だけれど、いつかはさみを巻きこむかもしれない。君はさみの初めての友達だ。それを忘れないでね」
〈カウント・エンド〉
さみが校舎から出たのだ。
太郎丸 はまばゆい光に包まれ、光がおさまると制服姿に戻った。
僕も床に置かれたままのさみのカバンについたキュートなマスコットの姿になる。
衣笠砂羽 は床にひっくり返ったままだけれどケガはない。魔法空間で起きたことだからだ。
魔法が解けるとすべては夢のように消えてしまう。
太郎丸 は、さみのカバンを拾い上げると僕を見つめて言った。
「バット、ありがとう」
にこりと人懐っこく笑う彼の笑顔は純真そのものだ。
その瞳には僕を疑う気持ちなど欠片もない。
「太郎丸 、この豆腐みたいな先生は大丈夫! さあ、早く帰ろう。外でさみが待っているよ」
廊下を歩きながら僕も彼に礼を言う。
さみは友達と帰るのを楽しみにしていたんだ、と。
僕は何度も繰り返す。太郎丸 、君が友達でよかった、と。
続く
N高校で目立たず
「
数学教師より体育教師がむいているんじゃないかという
さみははっとして目覚めて謝ると姿勢を正す。
仕方がない。さみは「魔法少女ミラクルらぶりん」として昼夜を問わず平和を守っているのだ。主に夜。しかも夏休みが明けてから。
おのれ、トォバァジャめ。
そして笑っているクラスメイトたち。
滅べ、人類。
僕はバット。さみの相棒さ!
今はさみのカバンに毛玉のマスコットとしてぶら下がっている。
しかし困ったなぁ。
最悪なことに放課後、担任でもある
さて、どうしたものか。
生徒指導室で教師からの説教をきき終えたさみが廊下へ出ると
これからたまたま帰るところです、みたいなことを言っているが昇降口は反対だ。
さて、どうしたものか。
談笑しているさみと
その時だった。
〈カウント・スタート〉
〈スリー〉
〈ツー〉
〈ワン〉
〈ゼロ〉
いったい誰が?
まあ、さみが白い靴下を履いていたら、間違いなく
そう思いを巡らせている僕の目の前でまばゆい光に包まれたのは
光がおさまると彼はぴちぴちのブラウスにタイトなスカートからすね毛の生えたあしをのぞかせていた。
なんということだろう。
僕のデザートアイにまた別の形でダメージが加わった。
「わあああああっ!」
「きゃああああっ!」
この仲良しめ。
「これって …… どういうこと?」
後遺魔法「ラブカウント」が発動すると、あたりは魔法空間に包まれる。
僕はさみのカバンのキュートでプリティなマスコットの姿から羽をはやした丸っこい、これまた別の形でキュートな姿になっている。
その僕を見るさみの瞳は信頼の現れだ。
おまけで
「おそらくだけれど、さみの魔法の力は強大だ。魔女トォバァジャの魔法『ラブカウント』を歪んだ形で発動させたのかもしれない」
そう言いながら僕は
彼の表情は混乱。そして次にとる行動は決まっている ──。
「
「うわあああああっ!」
後ろから抱きつかれた
廊下の床はタイル。してはいけない音を立てて
そう、
「さみ、早く学校の外に出るんだ」
「え?でも ……」
青い顔をしている
「大丈夫。
「うん!
そう言って、さみは駆け出していった。
「
僕は愛らしい丸い瞳で
「でも大丈夫! 僕の魔法で何とかしてあげる」
「本当!?」
「本当だとも。でも
「今は君自身の問題だけれど、いつかはさみを巻きこむかもしれない。君はさみの初めての友達だ。それを忘れないでね」
〈カウント・エンド〉
さみが校舎から出たのだ。
僕も床に置かれたままのさみのカバンについたキュートなマスコットの姿になる。
魔法が解けるとすべては夢のように消えてしまう。
「バット、ありがとう」
にこりと人懐っこく笑う彼の笑顔は純真そのものだ。
その瞳には僕を疑う気持ちなど欠片もない。
「
廊下を歩きながら僕も彼に礼を言う。
さみは友達と帰るのを楽しみにしていたんだ、と。
僕は何度も繰り返す。
続く
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
(ログインが必要です)