第2話 マニアック・マニアック
文字数 3,976文字
彼女の名前は時野 さみ。
N高校に通う地味子 。
黒縁のメガネで美少女フェイスを隠し、さらしで自慢のバストもわからないようにして生きている。
だって、さみはもと「魔法少女ミラクルらぶりん」。
悪の組織クッカドゥを滅ぼした時に首領トォバァジャの最後っ屁、「ラブカウント」という魔法をかけられた。
これは誰かが、さみに欲情すると、その妄想を実現してしまう、という恐ろしい魔法なのだ!
僕は相棒のバット!
丸くかわいい毛玉のぬいぐるみ、さみのカバンのキーホルダーとして今も彼女を見守っている。
さみが成長とともにナイスバディになるにつれてラブカウントが発動し転校すること123回。
もう日本国内に高校がない。
だから今、ラブカウントが発動し発動原因をつくった、さみのクラスメイト笹賀内 太郎丸 をなんとかしないといけないんだ!
職員室前の廊下には、さみの物理魔法「ミラクルぱんち」により意識を失った太郎丸 が倒れている。
「ラブカウント」が発動してしまった、さみはパンツが見えそうな丈のスカートにおっぱいがまろびいでそうなセーラー服、そして白のハイソックス。
ブレザーからセーラー服はともかくとして靴下を黒から白のハイソックスに変える意味がわからないよ。
しかも三つ折りにするとか。
「ラブカウント」が発動すると魔法空間に入る。たとえば今なら高校にいるから高校全体が魔法空間に入って、さみとさみに欲情した人物とだけになる。
つまり今はふたりっきり。
これがこの魔法「ラブカウント」の恐ろしいところなんだ。
妄想を具現化した美少女とふたりきりになる。だから今まで、さみは何度も危ない目にあってきた。そう、貞操の危機。
そのため彼女は「ミラクルぱんち」のほかに「ミラクルきっく」「ミラクルちょっぷ」「ミラクルおおそとがり」「ミラクルともえなげ」「ミラクルじごくぐるま」etc…。
さまざまな物理魔法を身につけて身を守らなければいけなかったんだ!
後遺魔法「ラブカウント」を破るには魔法空間の出口から出なくてはいけない。
幸いにも今回は高校が魔法空間になっている。つまり高校の昇降口から外に出れば魔法は解ける!
「さあ、さみ! 早く昇降口から外に出るんだ!」
「うん」
まろびいでそうなおっぱいを気にしながら、さみは歩き出した。
カバンについた僕もぷるんぷるん揺れる。
うめき声を耳にして、さみが立ちどまった。彼女の目線の先には太郎丸 。靴下にこだわる太郎丸 が起き上がるところだった。
「……時野 さん?」
さみはカバンで胸元を隠す。自然と僕が太郎丸 と向き合う形になった。まるで彼女を守るナイトみたいじゃないか。
「じゃなくて……魔法少女ミラクルらぶりん……」
靴下の違いがわかる男、太郎丸 が言うと、さみが顔を赤くする。
「本当にいたんだ……魔法少女ミラクルらぶりん。俺の夢を叶える天使!」
え、ちょ、靴下は白派の太郎丸 がなんか興奮してる。
なんか拳をつきあげて言ってんだけど。
たしかに、さみは天使だよ。
現役時代の魔法少女だったさみは、それはそれは、かわいかったんだから。でも君の天使じゃないからね?
魔法少女はみんなの天使だよ。
「天使って何?」
ドン引きしてる、さみに太郎丸 は興奮したまま早口で説明した。
なんでも「魔法少女ミラクルらぶりん」はネット上の都市伝説で男の望み通りの痴態をさらしてくれる、ということになってるらしい。
太郎丸 、君の夢は白い靴下なのか。意味がわからないよ。
現役魔法少女時代に秘密裏に活動していたことが仇になるなんて思いもよらなかったなぁ。人の業 って本当に深い。
太郎丸 は鼻息あらく、さみに近づいてくる。やってることは野獣なんだけどガワのおかげで紳士っぽい。
「さみ! 逃げるんだ!」
僕の声で我に返ったさみはくるりと背を向け走り出した。まろびいでそうかなんて気にしていられない。さみは全力で走り出した。でも、悲しいかな、さみは女子。
高校男子、それも長身と言っていい太郎丸 はあっさり彼女に追いついた。
「ミラクルぱーんち!!!」
!!!。なんということだ!
さみの物理魔法「ミラクルぱんち」がいなされた。そういえば、詳しくは知らないけれど、とさみが話してくれたことがあったなぁ。笹賀内 太郎丸 の家は武術の道場を開いていて、お姉さんがひとりに、お兄さんがひとり。道場の師範はおじいちゃんで、お父さんは入り婿で肩身のせまさを感じている、ごく普通のサラリーマン。お母さんが道場の師範代だとか。もちろん太郎丸 も武術を学んでいる。
そうきいたことがあるぞ。つまり彼にはさみの物理魔法がきかない! 大変だ!
しかもミラクルぱんちのせいで、まろびでそうになったおっぱいをさみが恥ずかしがっている。
これでは次の物理魔法が使えない!
幸い見とれている太郎丸 の動きもとまっている。どうする?
僕がさみを助けるんだ!
「!!! さみ! ミラクルきっくだ!」
「え? でも……見えちゃう!」
「大丈夫だよ!太郎丸 の夢の白いレースのパンツは透けてないから! もっと恥ずかしいパンツをはかされたこともあっただろう?」
「え? どんな?」
きくな。乙女にきくな、太郎丸 。君は本当にガワだけ紳士だな。
「さみ! 僕を信じて! 僕はずっと君の相棒だったじゃないか!」
「う、うん……ミラクルき〜っく!!!」
さみが物理魔法「ミラクルきっく」を繰り出す。おっぱいがぷるんとまろびいでそうで、ひらりとめくれたスカートの中に太郎丸 の夢がのぞいている。
そして「ミラクルきっく」を繰り出す足には白い靴下。そう、白い靴下。太郎丸 の夢だ。
「おぶっ!!!」
だから、かわすはずがない。すべてに見とれた太郎丸 に「ミラクルきっく」が炸裂した。
「今だ! さみ!」
「うん!」
さみは全力で走った。走り抜けた。まろびいでるのを気にしてなんかいられない。
彼女は校舎を出たのだ。
〈カウントエンド〉
さみの体が光につつまれ元の制服に黒縁メガネの地味子 に戻る。
さみはほっとして僕に頬ずりをしながら、ありがとう、と言う。
すべすべの肌が気持ちいい。魔法少女ではなくなったけれど彼女は今でも僕の天使だ。
「時野 さん」
背後からの声にびくりとして、さみが振り返ると夢は真っ白、の太郎丸 が立っていた。
後遺魔法「ラブカウント」が解けると、さみに欲情した人物の記憶はとても曖昧なものになる。そう、まるで夢のように。
だからすぐに忘れてしまう。そのはずだ。
「ごめん。俺、どうしてたか知らない? なんか廊下に倒れてたんだけど」
「え? わかんない。私、日誌だしに行ったから」
「そっか、ありがとう」
腑に落ちない顔をしながらも太郎丸 は、さみにお礼を言った。
本当にガワだけは紳士だ。さみが好きだと言っていた、はにかんだような顔で笑う。
「一緒に帰らない?」
「え? なんで?」
さみはそれはそれは嫌そうに顔を歪めて、それはそれは冷たい声で言った。それはそうだろう。さっきあんな目にあわされたのだから。
なぜセーラー服の高校にしなかったのかわからない太郎丸 は、ひどく驚いた顔をした。おそらく彼のガワから考えると断られるのも、こんなに冷たい声で言われるのも初めてなのだろう。
「さようなら」
さみはくるりと背を向けて歩き出した。
僕にはわかる。彼女は失恋した。
気丈にふるまってはいるが傷ついている。
だって、その証拠に最初はカルメンのステップかってくらいカツカツしてた足音が今じゃとぼとぼ力ない。
「ねえ、さみ」
「なに?」
「僕はずっと君の相棒だよ」
「……うん。ありがとう、バット」
そう、僕はさみの相棒だ。ずっと、ずっと彼女を守るんだ。
笹賀内 家。太郎丸 の部屋。
ごろりとベッドに横になりながら太郎丸 は考えていた。
なぜ俺はあんな風に邪険に扱われなければいけなかったんだろうか。
もしかして、時野 さんが、かがんだ時にちょっと、どきどきしちゃったのがばれたんだろうか。……そう、ちょっと。ちょっとだから、きっと大丈夫。
あれ? それから、どうしたんだっけ?
覚えてない。
眼鏡でよくわからないけれど、時野 さんはきっとかわいいはずだ。
一度だけ、遠くから見たことがある。
一生懸命、泥だらけの子供と泥の中のおもちゃを探してて眼鏡にはねた泥をふいていた。手伝おうかと言う前におもちゃがみつかって子供も彼女もいなくなった。
いっつも教室の隅にいるけれど優しい子だ。好きだな、ああいう子。
……でも、あんな風に言われるなんて、なにかしたかなぁ。
ゴミ、いや、虫でも見るような冷たい冷たい目で心底嫌そうに……ああ、なんか。なんか。いらいらもやもやする。
数刻後。太郎丸の部屋のドアが激しく叩かれた。姉の薫子 は出てきた弟に遅い、とゲキを飛ばす。
「何? お姉ちゃん」
「うるさい。『ああ! さみちゃん!さみちゃん! 』って丸ぎこえだ。さみって誰だ?」
太郎丸 は真っ赤な顔で、うるさい、と姉を追い返した。
続く
N高校に通う
黒縁のメガネで美少女フェイスを隠し、さらしで自慢のバストもわからないようにして生きている。
だって、さみはもと「魔法少女ミラクルらぶりん」。
悪の組織クッカドゥを滅ぼした時に首領トォバァジャの最後っ屁、「ラブカウント」という魔法をかけられた。
これは誰かが、さみに欲情すると、その妄想を実現してしまう、という恐ろしい魔法なのだ!
僕は相棒のバット!
丸くかわいい毛玉のぬいぐるみ、さみのカバンのキーホルダーとして今も彼女を見守っている。
さみが成長とともにナイスバディになるにつれてラブカウントが発動し転校すること123回。
もう日本国内に高校がない。
だから今、ラブカウントが発動し発動原因をつくった、さみのクラスメイト
職員室前の廊下には、さみの物理魔法「ミラクルぱんち」により意識を失った
「ラブカウント」が発動してしまった、さみはパンツが見えそうな丈のスカートにおっぱいがまろびいでそうなセーラー服、そして白のハイソックス。
ブレザーからセーラー服はともかくとして靴下を黒から白のハイソックスに変える意味がわからないよ。
しかも三つ折りにするとか。
「ラブカウント」が発動すると魔法空間に入る。たとえば今なら高校にいるから高校全体が魔法空間に入って、さみとさみに欲情した人物とだけになる。
つまり今はふたりっきり。
これがこの魔法「ラブカウント」の恐ろしいところなんだ。
妄想を具現化した美少女とふたりきりになる。だから今まで、さみは何度も危ない目にあってきた。そう、貞操の危機。
そのため彼女は「ミラクルぱんち」のほかに「ミラクルきっく」「ミラクルちょっぷ」「ミラクルおおそとがり」「ミラクルともえなげ」「ミラクルじごくぐるま」etc…。
さまざまな物理魔法を身につけて身を守らなければいけなかったんだ!
後遺魔法「ラブカウント」を破るには魔法空間の出口から出なくてはいけない。
幸いにも今回は高校が魔法空間になっている。つまり高校の昇降口から外に出れば魔法は解ける!
「さあ、さみ! 早く昇降口から外に出るんだ!」
「うん」
まろびいでそうなおっぱいを気にしながら、さみは歩き出した。
カバンについた僕もぷるんぷるん揺れる。
うめき声を耳にして、さみが立ちどまった。彼女の目線の先には
「……
さみはカバンで胸元を隠す。自然と僕が
「じゃなくて……魔法少女ミラクルらぶりん……」
靴下の違いがわかる男、
「本当にいたんだ……魔法少女ミラクルらぶりん。俺の夢を叶える天使!」
え、ちょ、靴下は白派の
なんか拳をつきあげて言ってんだけど。
たしかに、さみは天使だよ。
現役時代の魔法少女だったさみは、それはそれは、かわいかったんだから。でも君の天使じゃないからね?
魔法少女はみんなの天使だよ。
「天使って何?」
ドン引きしてる、さみに
なんでも「魔法少女ミラクルらぶりん」はネット上の都市伝説で男の望み通りの痴態をさらしてくれる、ということになってるらしい。
現役魔法少女時代に秘密裏に活動していたことが仇になるなんて思いもよらなかったなぁ。人の
「さみ! 逃げるんだ!」
僕の声で我に返ったさみはくるりと背を向け走り出した。まろびいでそうかなんて気にしていられない。さみは全力で走り出した。でも、悲しいかな、さみは女子。
高校男子、それも長身と言っていい
「ミラクルぱーんち!!!」
!!!。なんということだ!
さみの物理魔法「ミラクルぱんち」がいなされた。そういえば、詳しくは知らないけれど、とさみが話してくれたことがあったなぁ。
そうきいたことがあるぞ。つまり彼にはさみの物理魔法がきかない! 大変だ!
しかもミラクルぱんちのせいで、まろびでそうになったおっぱいをさみが恥ずかしがっている。
これでは次の物理魔法が使えない!
幸い見とれている
僕がさみを助けるんだ!
「!!! さみ! ミラクルきっくだ!」
「え? でも……見えちゃう!」
「大丈夫だよ!
「え? どんな?」
きくな。乙女にきくな、
「さみ! 僕を信じて! 僕はずっと君の相棒だったじゃないか!」
「う、うん……ミラクルき〜っく!!!」
さみが物理魔法「ミラクルきっく」を繰り出す。おっぱいがぷるんとまろびいでそうで、ひらりとめくれたスカートの中に
そして「ミラクルきっく」を繰り出す足には白い靴下。そう、白い靴下。
「おぶっ!!!」
だから、かわすはずがない。すべてに見とれた
「今だ! さみ!」
「うん!」
さみは全力で走った。走り抜けた。まろびいでるのを気にしてなんかいられない。
彼女は校舎を出たのだ。
〈カウントエンド〉
さみの体が光につつまれ元の制服に黒縁メガネの
さみはほっとして僕に頬ずりをしながら、ありがとう、と言う。
すべすべの肌が気持ちいい。魔法少女ではなくなったけれど彼女は今でも僕の天使だ。
「
背後からの声にびくりとして、さみが振り返ると夢は真っ白、の
後遺魔法「ラブカウント」が解けると、さみに欲情した人物の記憶はとても曖昧なものになる。そう、まるで夢のように。
だからすぐに忘れてしまう。そのはずだ。
「ごめん。俺、どうしてたか知らない? なんか廊下に倒れてたんだけど」
「え? わかんない。私、日誌だしに行ったから」
「そっか、ありがとう」
腑に落ちない顔をしながらも
本当にガワだけは紳士だ。さみが好きだと言っていた、はにかんだような顔で笑う。
「一緒に帰らない?」
「え? なんで?」
さみはそれはそれは嫌そうに顔を歪めて、それはそれは冷たい声で言った。それはそうだろう。さっきあんな目にあわされたのだから。
なぜセーラー服の高校にしなかったのかわからない
「さようなら」
さみはくるりと背を向けて歩き出した。
僕にはわかる。彼女は失恋した。
気丈にふるまってはいるが傷ついている。
だって、その証拠に最初はカルメンのステップかってくらいカツカツしてた足音が今じゃとぼとぼ力ない。
「ねえ、さみ」
「なに?」
「僕はずっと君の相棒だよ」
「……うん。ありがとう、バット」
そう、僕はさみの相棒だ。ずっと、ずっと彼女を守るんだ。
ごろりとベッドに横になりながら
なぜ俺はあんな風に邪険に扱われなければいけなかったんだろうか。
もしかして、
あれ? それから、どうしたんだっけ?
覚えてない。
眼鏡でよくわからないけれど、
一度だけ、遠くから見たことがある。
一生懸命、泥だらけの子供と泥の中のおもちゃを探してて眼鏡にはねた泥をふいていた。手伝おうかと言う前におもちゃがみつかって子供も彼女もいなくなった。
いっつも教室の隅にいるけれど優しい子だ。好きだな、ああいう子。
……でも、あんな風に言われるなんて、なにかしたかなぁ。
ゴミ、いや、虫でも見るような冷たい冷たい目で心底嫌そうに……ああ、なんか。なんか。いらいらもやもやする。
数刻後。太郎丸の部屋のドアが激しく叩かれた。姉の
「何? お姉ちゃん」
「うるさい。『ああ! さみちゃん!さみちゃん! 』って丸ぎこえだ。さみって誰だ?」
続く
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