第6話 家族会議

文字数 1,953文字


 笹賀内(ささがない)家。夜も更けた頃。太郎丸(たろうまる)の部屋にボックスティッシュの差し入れを終えた姉の薫子(かおるこ)は階段をおりてリビングへ入った。
リビングの明かりは消えテーブルの中央の燭台で蝋燭が燃えている。
一歩、足を踏み入れると彼女の服は黒のボンテージに黒のアイマスク、腰まである艶やかな長い髪はそのままに赤い唇、クッカドゥの幹部ランバルンの姿となったのだ!
ダイニングテーブルには、すでにほかの幹部たちがそろっていた。
マスクドオーブのほかに魔女アティル、武闘家オーンである。
魔女アティルは道化師のように左右に分かれた帽子をかぶり、ごく普通の主婦のようなエプロン姿だ。武闘家オーンは道着を身につけている。
皆、舞踏会用のようなアイマスクをつけているので正体は不明だ!

太郎丸(たろうまる)がハッスルしているが動物園で何かあったのか?」

ランバルンにきかれたがマスクドオーブはいつものことだろう、と返した。それに納得しランバルンは彼の隣に座る。

「それで、ミラクルらぶりんが、また現れたということだが?」

白い髪のオーンが口を開く。
その隣で急須でお茶を入れながら魔女アティルは、まあまあ、と驚きの声をあげた。

「なつかしいわね。もう5年も前じゃない。クッカドゥの秘密基地をぶっ壊されて……おてんばなお嬢さんだったわぁ」
「後遺魔法『ラブカウント』はまだ破られていない。ミラクルらぶりんは魔法が使えないままだ」

マスクドオーブが言うと、オーンはふむ、と、こちらも白いあごひげをなでる。

「そうか。ならばクッカドゥの復活も近いのう」
「でも、おじ……オーン。クッカドゥがもうできることって何かしら? そもそも私たち、有り余る魔法パワーが溜まってムラムラもやもやするから発散してただけで、何の目的もなかったじゃない」

アティルは皆の前に湯のみを置いていく。

「らぶちゃんと戦うこと3年、あれから5年。もう私のムラムラもやもやは枯れたわ。おじいちゃんだって、当時で枯れつくしたでしょう?」

アティルはマスクドオーブとランバルンへと目を向ける。

源一郎(げんいちろう)薫子(かおるこ)は? まだムラムラもやもやするの?」

ランバルンはばりばりと煎餅を頬張りながら首を横にふる。

太郎丸(たろうまる)の方が、よほどたまっているな」

からからと笑うランバルンの隣でマスクドオーブは沈黙を保っている。

源一郎(げんいちろう)、まだムラムラもやもやするの? 男の子ねぇ。おじいちゃんくらいにならないと駄目かしら?」
「お兄は8年前の方がよほどムラムラもやもやしていた。今の太郎丸(たろうまる)よりハッスルしてた」
「あらあらあらあら。男の子ねぇ」

マスクドオーブは静かに首を横に振る。

「いいや、違う。おばあちゃんが、やる気だ」
「あらあらあらあら。困ったわねぇ」

カウンターキッチンの向こうでイスに座り晩酌をしていた太郎丸(たろうまる)の父、笹賀内(ささがない)壷武良(こむら)が口を開く。

「換気扇、回そうか? 蝋燭はいつまでつける?」
「もういいわ、あなた」

アティルがぱちん、と指を鳴らすと天井のLED照明がつき蝋燭が燭台ごと消える。
彼らも普段の姿、(いな)、正体を現した!
なんと幹部たちは驚くべきことに太郎丸(たろうまる)の家族たちだったのだ!

「たろちゃんだけ魔法が使えないのは、あなたの遺伝よね。かわいそうに」
「すみません……」

壷武良(こむら)はだいぶ薄くなってきた頭をかきながら、妻の父、泰挐(たいだ)へと頭を下げる。

「仕方あるまい。これも時代だ。魔法使いは減っている」

泰挐(たいだ)は、ばりばりと煎餅を食べた。太郎丸(たろうまる)の母、南姫琉(なきる)は、ぱん、と両手を叩く。

「あら! じゃあ、たろちゃんと、らぶちゃんが結婚したらいいんじゃない?」

薫子(かおるこ)が2枚目の煎餅を口に運びながら言う。

「遺伝子的にはよさそうだが太郎丸(たろうまる)は、そこまで考えているのか? お兄は光源氏になるつもりだったのでは?」
「あら! 源一郎(げんいちろう)、そうなの?」

源一郎(げんいちろう)はいいや、とこたえリビングを出て行った。

「お兄、逃げたな」
「男の子ねぇ」

南姫琉(なきる)は、うふふ、と嬉しそうに笑った。

「か弱い女の私たちは肩身がせまいな。早くおばあちゃんが温泉旅行から帰ってこないかな」
「あなたはお土産目当てでしょう?食いしん坊さんね」

南姫琉(なきる)が声をあげて笑う。壷武良(こむら)は自分が魅了された、その笑顔を見て、かわらないな、と口元をほころばせていた。


続く
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