第7話 奴らはな、みな昔の自分を捨てて、生まれ変わったんだ
文字数 1,315文字
野球ではずっとエリートだった。頭は悪かったけどこと野球に関してはやればすぐに人並み以上にできた。投げるのも打つのも、チームで一番速く投げれたし、遠くに飛ばせた。それはリトル時代の低学年チームから始まって高校3年生までしっかり僕に根付いていた。エースで4番が当たり前のアマチュア時代だった。頭は悪かったけど大学進学の道もあった。ほぼ無試験・学費免除で迎え入れてくれる有名大学はあまたあったけど、野球するのに稼げないうえ嫌いな勉強で単位を取らなければならない4年間は僕には無駄な寄り道以外の何物でもなかった。それに熱心に僕を勧誘してくれるプロのスカウトの言葉の方に僕の心はなびいていた。
特にスワローズのスカウトの江口さんは、
「君の力ならすぐに神宮で投げられるだろうね」
1軍を約束してくれた。これに乗らないはずがない。
運命のドラフト会議は甲子園での優勝を逃した最後の夏から二ヶ月後だった。準優勝投手の肩書より僕には打者であれ投手であれプロ野球選手の肩書がすぐにでも欲しかった。
ドラフト会議で僕の獲得に興味を示してくれた球団は、スワローズの他、複数球団あった。どの球団も投打どちらも評価してくれてたようだが、スワローズだけは僕の投手としての可能性に期待していたようだ。結局スワローズが僕との契約交渉権を得て、僕は迷いもなくスワローズへの入団を決めた。この時点で僕の投手としてのプロの道が決まった。
バッティングは好きだったけどプロで打つには生半可な練習では通用しない。ピッチャーをやりながらバッティング技術を磨くなど許してもらえるはずがないと思ってた。事実僕にそんな芸当ができる器があったとは思えない。
が、これをあっさりとやってのけてしまった選手がいた。ファイターズで二刀流に挑戦していた
大仁田翔星には僕の奥底に眠ってあった投打での活躍がくすぐられた。もしあの時僕が打者としてスタートしていたらどうだっただろうと。
きっと三島さんは彼のことを言っていたんだ。2つ以上の武器(大仁田君は走塁もあるしスピリットも別格で3つ、4つ、5つ、いや数えきれないほどの武器を持ってる)。だけどそれは無茶だ。あんな選手はもう現れない。僕だってプロの端くれでやってきたからわかる。彼の能力は他と比較にならない。異次元の世界だ。それを真似てできるなら誰だって二刀流に挑戦したい。でも日本のプロ野球でもあの芸当ができる選手はきっとこれからも現れない。僕を除いて。
僕は思い出していた。三島さんが言ったあの2つの言葉を繋げて。
「いまのプロじゃあ1つでも足りねえ。2つ以上なけりゃ、通用しねえんだ!」
「奴らはな、みな昔の自分を捨てて、生まれ変わったんだ」
これって僕に大仁田翔星になれってことなんじゃないかと勝手に想像を膨らます。僕にはもともとその才能があったんじゃないだろうか。三島さんは決してそういうつもりで言ったわけではないだろうが、そう思った方が挑戦しがいがあるだろう。