第2話 おまえにはな、プロでやれる武器が1つもないんだ

文字数 962文字


 スワローズでの最後の1軍マウンドは4年前。高卒ルーキーとしてデビューしてからわずか2年後のこと。その最後のマウンドで投げたのがたった1イニング31球。内容は連続フォアボールとワイルドピッチのひとり相撲、そしてびびって投げた次の球を8番打者にバックスクリーンに叩き込まれた。先発の勝ちを消したに留まらず大事な首位との3連戦の初戦を落とした。ゲーム終了後、監督から2軍で学び直してこいと言われた。仲間からは、おまえの後ろで守りたくないと言われた。
 それから必死で練習した。もう一度1軍に戻るために。それもあってか無茶な投げ込みで肘をやってしまった。投手としては致命傷だ。
 その年は完全に棒に振った。次の年、再起をかけてリハビリに専念した。焦る気持ちを必死で抑え、下半身強化などできることに努めた。投げたい気持ちはあったが、治るまでボールはほとんど握らなかった。
 そしてやっと肘の状態がよくなって投げられる状態となったのが今年。2軍でずっと調整を続けてきた。その矢先の戦力外通告だった。
 三島さんはきっと僕のプロ継続を球団に推してくれたんだと思う。言葉や指導方法は乱暴だけどファームにいる選手には優しい人だから。だけど球団がこれを認めなかったんだろう。うすうすそれに僕も気付いていた。結果が出せない投手にいつまでも金を払い続けてくれる篤実な球団なんてない。スワローズはよく我慢してくれた方だ。
 だから三島さんは怒っているんだ、ヤクルト球団ではなくこの僕に。ここまで我慢してやったのに結果だせない情けないプロ崩れの僕に。
 プロで飯を食うってことは、もらった金以上に働いてチームに貢献するか、ルーキーなら近い将来活躍する才能を秘めているか、或いはファンを喜ばせることができるか、いずれかがなければだめだ。
 僕にはそのいずれもできていない。まだやれますよって言うのは勝手だが、いまのこの僕を欲しいと言ってくれるプロ野球球団はどこもないだろう。戦力外通告は当たり前と言えば当たり前だった。
 三島さんの怒りともとれる次の言葉は、そんな僕のハートにぐさりと突き刺さった。 
「おまえにはな、プロでやれる武器が1つもないんだ。いまのプロじゃあ1つでも足りねえ。2つ以上なけりゃ、通用しねえんだ!」
 言い返さなかった。そのとおりだと思ったからだ。
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