第14話 あのことをうっかり喋ってしまったんだ
文字数 953文字
若葉の住まいは杉並の荻窪駅に近いタワーマンションだった。この住まいもシーズン中に不動産屋から勧められてローンで購入したらしい。大半の支払いはまだであるが、若葉はもうここを売るつもりでいる。その理由はすぐにわかった。
マンション地下駐車場から降りるなり、どこから湧き出てきたか見たところ取材記者らしき無遠慮な者たちが一斉に群がった。後からふらつきながら降りる僕には見向きもしない。彼等は若葉を取り囲んだ。
「
「シリーズ後入籍ですか?」
「プロポーズはされたんですか?」
「すでに別邸を購入されたとの噂がありますがどちらに?」
矢継ぎ早の質問にも若葉は黙って歩を進める。僕はその輪から離れて彼の反応をぼんやりと眺めている。しかし若葉は何も語らない。
僕はさっきの車内での彼の衝撃的な告白からまだ醒めていなかった。しびれる感覚で彼の言葉を
若葉は言った。
「あちこちで
ハンドル握る彼から僕はオービス(速度違反自動取締装置)のことでも言っているのかと思った。だが話の展開からオービスのことではないだろうと思ったので、
「なにを?」
と尋ねた。
「自宅にも仕掛けられているかもしれない」
自宅なら間違いなくオービスではないな。
「なにを?」
もう一度尋ねた。
「めったなことは家では話せないんだよ」
「だからなにをさ?」
僕は少しイラついた。
「うん、盗聴器をね」
落ち着いた存在だと思っていたが案外と面倒な奴かもしれない。
だが、彼が車の中で話したがる訳がこれでわかったが、しかしどうして野球選手がそこまでプライバシーを侵害されなきゃならないんだ。しかも自宅の中にまで。僕は憤りを覚えた。野球選手はタレントじゃないんだ。いやタレントだって自宅に盗聴器仕掛けられたら訴えていい。すると若葉は意外なことを呟いた。
「犯人は居候(いそうろう)だよ」
いそうろう? かみ合わない会話を僕はまき戻す。
「もいっかいたのむ」
「カーラが仕掛けてるんだ」
若葉からはじめてその名が出た。やっぱり同棲してたんだな。しかしそんなことより・・・
「どうしてそんな犯罪めいた事ことを!?」
「
あのこと
をうっかり喋ってしまったんだ」