第1話 戦力外通告

文字数 815文字


第1章「戦力外通告」

文治(ぶんじ)、すまねえが来季のうちの構想におまえはない」
 わざわざブルペン裏に連れて行かれて三島2軍監督から告げられた言葉がこれだった。
「えっ! どういうことですか!?」
「わかんだろ」
「わかりませんよ、なにおっしゃってるのか」
「ったく。そのあたりの読みが甘えから外されんだ。いいか、おまえはうちでは戦力外なんだよ」
 そうあっさり言われると、返す言葉が見つからない。でも僕はねばった。
「いえいえ、僕まだ投げれますよ!」
「おまえは投げたいだろうが、うちで投げる場がないってんだ」
「まだ試してみたいボールもあるし肘の状態もよくなってきてます!」
「それを待ってる余裕がない」
 おいおいまだシーズン途中だぞ。こんなタイミングで言うかよ。
「上では右の中継ぎが不足してますよね。そこをなんとか僕が頑張って・・・」
 三島さんは怖い顔して言った。
「ぜったい行けん」
 そんなダメだししなくたって。
「わかんないじゃないですか!」
 怖い顔をもっと厳つくして三島さんは僕に詰め寄った。
「俺を誰だと思ってんだ」
 これ以上抵抗したら殺されるんじゃないかと思った。だけど諦めきれない。殺されない程度に抵抗はしたい。
「三島さんでしょ208勝投手の。わかってますよ三島さんの現役時代の偉大さは。でも三島さんは右の先発。僕はリリーバー。役割がそもそも違うし・・・」
「ったく。だからプロで通用しねんだよ」
 それまでらしくもなく抑えていた僕への気遣い(?)みたいなやつが取り払われた。けどこれがいつもの三島さんだ。
「タマ放るのに、右や左や、先発やリリーバーなんて関係ねえ! 目の前のバッターと殺し合いの真剣勝負なんだよ!!」
 プロの指導者が言うかね、こんな乱暴なこと。この根性論にさんざん付き合わされてきたんだ。いまどき珍しいよ。現代野球に根性論だけで選手を育成しようとするなんて。でも僕の立場ではそんなこと言えない。悔しかったら上(1軍)に上がってみろだ。
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