第24話 おいは父のわざを盗んだばい

文字数 463文字


 翌日、道場で兵乃進が二本の剣を構えてみると、剣は自律的に勝手に動いた。そう武蔵の二刀流と同じように二本の剣がそれぞれに躍ったのである。
 兵乃進は興奮して叫んだ。
「おいは父のわざを盗んだばい」
 それは些かの稽古も必要なかった。ただあの水を飲んだだけで、幻のわざが復活したのである。
 そして一月後、あの藩主の前での御前仕合。そこで兵乃進は武蔵の二天一流を完全に再現した。
 わざを会得した兵乃進がわざの継承に固執せず商いに至ったのは、こちらのわざ、すなわち他人のわざを盗むわざの方に高い価値を見出したからであった。
 兵乃進は本家の遺品や二天一流の真似事をする弟子たちを横目に、この水の正体を自分の子子孫孫だけの秘め事とした。
 秘め事を受け継がなかった子子孫孫に若葉八雲と梶原文治があったわけであるが、二人とて生まれる位置が変わっていたら野球でなく「伎売(わざうり)」を生業(なりわい)としていたかもしれない。
 彼らがここに結び合わされたのは、他人のわざを盗む商いをお終(しま)いにしてしまいたかったからだろうか。それを兵乃進は草葉の陰から思っただろうか。
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