第11話
文字数 1,853文字
質問『バーで飲む為の嗜み方はありますか?』
回答。
周りの人を不快にさせないことだと、私は思います。
バーというと、どのような店を想像なさいますか。元々、バーは米国で生まれたといわれています。第二次世界大戦後、将校俱楽部に勤務した名バーテンダー金山二郎氏は、かつて『自分はアメリカに一人前にしてもらった』と語っています。アメリカンバーというと日本人が想像するパブのような雰囲気なんでしょうかね。バーカウンターで立ち飲みをし、キャッシュオンデリバリーがバー本来の姿だと思います。名店サンボアの創業者である岡西繁一氏が大正時代に開店させたバーもカウンターで立ち飲みスタイルです。かつて、銀座にあった英国仕込みのジェントルマンなマスターが営む名店トニーズーバーもスタンディングスタイルが基本でした。英国でパブというと飲みながら、おしゃべりをするという社交の場ですが、トニーズバーでナンパなんて行為は絶対にありえません。英国紳士は紹介されるまで、むやみに話しかけたりはしないのです。十九世紀から二十世紀初頭にかけて豪華客船による船旅の黄金期をむかえます。この時期に幾つもの港町カクテルが誕生しました。そして、紳士淑女が夕刻に食前酒を嗜む風習がみられたそうです。現在でも、高級ホテルでは午後のカクテルアワーを楽しむ光景がみられます。ラフに楽しむパブとは一線を画したラグジュアリーなバーシーンが継承されています。きっと、独特の進化を遂げた日本のバーは英国紳士の遺伝子を引き継いでいるのだと思います。
もしも、あなたがバーを訪れた時、店内に他のお客様がいたら、むやみに話しかけないことです。それぞれの方が楽しんでいるお酒の席を土足で踏み込んではいけないのです。バーは人と人との距離感が大切なのです。
私には、数十年前に放送されていた好きなテレビコマーシャルがあります。以下、そのコマーシャルのワンシーンです。
彼と喧嘩した彼女がバーのカウンターで一人、落ち込んでいます。バーテンダーに扮した俳優のピーターフォークが一言、声を掛けます。『映画はお好きですか?映画はいつもハッピーエンドなんですよ』彼女に笑顔が戻ります。
このシーンは、バーテンダーとお客様の距離感を絶妙にとらえた描写だと思います。お客様に『どうした』『こうしろ』と私生活に踏み込み過ぎず、かといって見捨てることもないのです。この距離感が心地好かったりするのでしょう。ホストやホステスが同席して接客するクラブでは、会話も密な関係で接客が近いです。レストランは通常、対面のカウンターではないテーブル席なので、バーカウンターより距離感はあります。キメの細かいサービスがあったとしてもバーカウンターの距離感とは違います。バーは、この近過ぎず遠すぎずの関係が良いのだと思います。
さぁ、それではバーに行ってみましょう。初めての店でもバーは、一人で訪れることをお勧めします。バーでは、むやみに他人の世界に立ち入る人はいません。緊張しながらバーの扉に手をかけて開きます。その場所には、長いカウンターがあるはずです。バーを訪れたならカウンター席を選択しましよう。仲間と一緒にワイワイと話をしてテーブル席に座るのなら居酒屋に行くべきです。無事にカウンター席で、バーテンダーにお酒の注文ができたら、静かに店内を見まわしましょう。一杯目のお酒が手元に届くまで、言葉を発してはいけません。バーテンダーは、あなたの為だけに地上で唯ひとつの飲み物を作っているのです。今、バーテンダーが、あなたの飲み物を調製しています。
カラッ。ドウクゥッ。ドウクゥッ。プシィッ。シュゥ―。ウパァッ―。カァッ、カッ。カァッ、カッ。カァッ、カッ。カァッ、カァッ、カァッ、カァラァ。
コトッ。
目の前に置かれたカクテル。その暖色の灯かりに煌めく飲み物は、あなた自身なのです。
さぁ、バーの時間の始まりです。
バーのカウンターで一杯の酒と対峙する体験。それは自分自身と出逢うことです。その飲み物を口にした時に、あなたにとって貴重な人生の扉が開くのです。バーは自分自身と会話できる場所なのです。
あなたは、そのバーに通い詰めたとします。ある日、よく見かけるお客様と目が合います。互いに軽く会釈をして、直ぐにそれぞれの世界を守るのです。それができたらあなたは、もう、そのバーの常連客です。
バーは店のバーテンダーとお客様が作る心地よい空間なのです。
如何ですか。難しいことはありません。今夜、バーに出かけてみませんか。
回答。
周りの人を不快にさせないことだと、私は思います。
バーというと、どのような店を想像なさいますか。元々、バーは米国で生まれたといわれています。第二次世界大戦後、将校俱楽部に勤務した名バーテンダー金山二郎氏は、かつて『自分はアメリカに一人前にしてもらった』と語っています。アメリカンバーというと日本人が想像するパブのような雰囲気なんでしょうかね。バーカウンターで立ち飲みをし、キャッシュオンデリバリーがバー本来の姿だと思います。名店サンボアの創業者である岡西繁一氏が大正時代に開店させたバーもカウンターで立ち飲みスタイルです。かつて、銀座にあった英国仕込みのジェントルマンなマスターが営む名店トニーズーバーもスタンディングスタイルが基本でした。英国でパブというと飲みながら、おしゃべりをするという社交の場ですが、トニーズバーでナンパなんて行為は絶対にありえません。英国紳士は紹介されるまで、むやみに話しかけたりはしないのです。十九世紀から二十世紀初頭にかけて豪華客船による船旅の黄金期をむかえます。この時期に幾つもの港町カクテルが誕生しました。そして、紳士淑女が夕刻に食前酒を嗜む風習がみられたそうです。現在でも、高級ホテルでは午後のカクテルアワーを楽しむ光景がみられます。ラフに楽しむパブとは一線を画したラグジュアリーなバーシーンが継承されています。きっと、独特の進化を遂げた日本のバーは英国紳士の遺伝子を引き継いでいるのだと思います。
もしも、あなたがバーを訪れた時、店内に他のお客様がいたら、むやみに話しかけないことです。それぞれの方が楽しんでいるお酒の席を土足で踏み込んではいけないのです。バーは人と人との距離感が大切なのです。
私には、数十年前に放送されていた好きなテレビコマーシャルがあります。以下、そのコマーシャルのワンシーンです。
彼と喧嘩した彼女がバーのカウンターで一人、落ち込んでいます。バーテンダーに扮した俳優のピーターフォークが一言、声を掛けます。『映画はお好きですか?映画はいつもハッピーエンドなんですよ』彼女に笑顔が戻ります。
このシーンは、バーテンダーとお客様の距離感を絶妙にとらえた描写だと思います。お客様に『どうした』『こうしろ』と私生活に踏み込み過ぎず、かといって見捨てることもないのです。この距離感が心地好かったりするのでしょう。ホストやホステスが同席して接客するクラブでは、会話も密な関係で接客が近いです。レストランは通常、対面のカウンターではないテーブル席なので、バーカウンターより距離感はあります。キメの細かいサービスがあったとしてもバーカウンターの距離感とは違います。バーは、この近過ぎず遠すぎずの関係が良いのだと思います。
さぁ、それではバーに行ってみましょう。初めての店でもバーは、一人で訪れることをお勧めします。バーでは、むやみに他人の世界に立ち入る人はいません。緊張しながらバーの扉に手をかけて開きます。その場所には、長いカウンターがあるはずです。バーを訪れたならカウンター席を選択しましよう。仲間と一緒にワイワイと話をしてテーブル席に座るのなら居酒屋に行くべきです。無事にカウンター席で、バーテンダーにお酒の注文ができたら、静かに店内を見まわしましょう。一杯目のお酒が手元に届くまで、言葉を発してはいけません。バーテンダーは、あなたの為だけに地上で唯ひとつの飲み物を作っているのです。今、バーテンダーが、あなたの飲み物を調製しています。
カラッ。ドウクゥッ。ドウクゥッ。プシィッ。シュゥ―。ウパァッ―。カァッ、カッ。カァッ、カッ。カァッ、カッ。カァッ、カァッ、カァッ、カァラァ。
コトッ。
目の前に置かれたカクテル。その暖色の灯かりに煌めく飲み物は、あなた自身なのです。
さぁ、バーの時間の始まりです。
バーのカウンターで一杯の酒と対峙する体験。それは自分自身と出逢うことです。その飲み物を口にした時に、あなたにとって貴重な人生の扉が開くのです。バーは自分自身と会話できる場所なのです。
あなたは、そのバーに通い詰めたとします。ある日、よく見かけるお客様と目が合います。互いに軽く会釈をして、直ぐにそれぞれの世界を守るのです。それができたらあなたは、もう、そのバーの常連客です。
バーは店のバーテンダーとお客様が作る心地よい空間なのです。
如何ですか。難しいことはありません。今夜、バーに出かけてみませんか。