第11話

文字数 825文字

 玄太はさっきから赤い風呂敷が気になっていた。
(いつからあそこにあるんだろうか……何が入っているんだろう……)
 寝室の電気を消して、居間に一つだけ小さい明かりをつけた。リクは10分もしないうちに小さな寝息をたてはじめた。玄太はリクが寝入ったことを確認して二階へ上がった。
 箪笥の引き出しを開け赤い風呂敷を取り出した。念の為、他の引き出しを確認してみたが、空だった。玄太は胡座をかいて包みの前に座り、フーッと一息吐いて風呂敷をほどいた。
 そこには村の歴史と表紙に書かれた二十ページほどの冊子と一冊のアルバムがあった。
 アルバムにはゆり子の両親、祖父母の写真が丁寧に整理されていた。日付や場所、コメントも書いてある。そして終わりのページに幼少期のゆり子も写っている。一番最後の写真は、水辺の前での集合写真だ。よく見ると忍び沼と書かれていた。
(あれ?この場所は裏山の畑か……)
見覚えのある木が奥に写っている。ゆり子が生前、大事に作物を育てていた畑のようだ。山頂の手前にある少し平らな開けた場所で、ゆり子はイモやネギ、菜っ葉などを作っていた。自分たちが食べる分だけは庭で採れた無農薬のものがいいと言って、ほぼ毎日のように通っていた場所だった。
(でも、あの場所に沼はないよな……)
 玄太は不思議に思いながら、冊子のページをめくると、そこにはこんなことが書かれていた。
[何年かに一度、大雨の時だけ現れる幻の沼ーー忍び沼]
 中央にある杉の木は、土砂崩れに耐えて一本だけ残ったことから村を救った守り神として崇められていた。そして、その土砂崩れ以降、大雨の時には木の周囲に溜池のように水が溜まるようになり、麓の村に濁流が発生することは無くなったという。水は数日で乾く。木の根っこ部分に深い穴が開いていて、神の国への通り穴といわれていた。最初は村人が恨みつらみを叫んでいたようだが、ある時、願い事を叫んだところ叶ったため、御利益があると、その穴に神頼みする慣習ができた。
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