第9話

文字数 913文字

 軽トラが玄太の家に着くとリクは飛び降り、走って墓の前に行き手を合わせた。
「今日は泊めてもらうことになりました。よろしくお願いします」
「リクは偉いな。ちゃんと挨拶ができるんだな」
「うん、できるよ。だって僕の話をお父さんはちゃんと聞いてくれるよ。質問すると夢の中で答えてくれるんだ。だから天国へ行っちゃった人にもちゃんと伝わるんだよ。だからきちんと挨拶はしておかないとね」
 リクは家に上がるとストーブのスイッチを入れた。そして次にテレビのスイッチを入れた。
「この前、おじさんがやってたから」
リクはニコッと笑った。自然な笑顔だった。
「リク、手を洗ってうがいをしたらコタツに入れ」
「はーい」
 リクは素直に玄太の言う通りにした。
「うわーっ、あったかい」
「どうだ、あったかいだろう?出かける前に入れておいたのさ。潜り込めばすぐに体が暖まるぞ」
「うん」
 リクはコタツに潜り込んでチョコレートを頬張りすぐにテレビに夢中になった。
(やっぱりまだまだ子供だなーー)
「リク、そのテレビ番組が終わったら風呂入れ。トイレの奥な。タオルはカゴに用意しておくから」
「はーい」

 玄太は夕食の準備の手を止めた。 玄太はゆり子の両親がまだ元気だった頃、親戚の子供が泊まりに来て賑やかに過ごしたことを思い出した。
(そうだ。二階の箪笥に子供のパジャマがあったかもしれないな……)
 今は使っていない二階の和箪笥を探してみると子供用のジャージと一組の下着が出てきた。
(ちょっと大きいかもしれないが、まぁ、我慢してもらおう)
 服を取り出すと引き出しのその奥に赤い風呂敷に包まれた何かがあった。
(なんだろう……)
手を伸ばそうとしたその時、風呂の扉が開く音がした。
(なんだ、もうあがったのか……カラスの行水だな)
玄太はカゴに着替えを置き、食事の準備を続けた。
五分後、リクは顔を赤くして居間にやってきた。
「おじさん、あったまったよ。ありがとう。着替えた服は今、脱水しています。すみません、勝手に洗濯機借りました」
「なんだよ、そのままにしておけば、後でおじさんが洗濯したのに」
「おじさん、家事は僕の得意分野だよ」
「あっ、そうだったな」
 玄太は少し大きい服の袖と裾を折ってあげた。
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