第2話

文字数 843文字

 陽が落ちると人恋しくてたまらなくなった。
 今年の冬はいつになく雪が多かった。年の瀬ということもあって、テレビをつけても一年を振り返っての特番ばかりが放送されていた。
(うるさいな……)
 玄太は小雪の舞うなか、軽トラを走らせ町へ向かった。
 町へ出れば気分が紛れると思ったが、年末の忙しさのなかで、何を見てもまったく楽しくなかった。
 (久しぶりにあの店に行ってみるか……)
 あの店とは、三年ほど前まで二人でよく通っていた飲み屋で、潰れていないとすれば、ママはもう五十才くらいになっているであろう、スナックあいだ。
 その店は古い雑居ビルの地下にあった。外看板の明かりが半分消えかかっている。昔と変わらない狭い階段を降りると木のドアがある。明かりがもれていたのでドアを開けると、店内は閑散としていた。
「いらっしゃい」と女性の声がして奥からママが顔を出した。
「あら、お久しぶりですね。玄太さんでしょ?今日はゆり子さんは一緒じゃないの?」
「あっ、お久しぶりです。ずいぶんとご無沙汰してしまって、申し訳なかったねぇ……ママは元気そうだね」
「えぇ、おかげさまで細々とやってます。常連さんが来てくれるから助かってますよ。さぁ、いつもの席へどうぞ」
 三年ぶりだったが、ほとんど店内は変わっていなくて、玄太は気持ちが安らぐのを感じた。
「三日前、ゆり子が死んでね……今日は寂しくて一人でいられなくってね……」
「あら、そうでしたの……御愁傷様です。存じ上げなくて申し訳なかったわ。ゆり子さんは、ご病気でしたの?」
「えぇ、もうずっと入院してたんですよ。癌でね……一年もちませんでした」
「そうでしたか……お辛かったですね。今日はゆり子さんも一緒に飲んでいってくださいな。楽しく過ごしましょう」
 そう言われて大好きな日本酒をあびるように飲んだ。ゆり子が退院するまでと禁酒していたが、もう関係なくなった。
 翌朝五時に閉店するまで、常連さんたちと共に盛り上がり、ほんのひとときだったが、先立たれた現実を忘れることができた。
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