第6話

文字数 820文字

 曇天からしんしんと雪は降り続いている。
 リクは自分から助手席に乗り込んでシートベルトを締めた。玄太はその小さな後姿を見て強い意志を感じた。リクは母ちゃんが迎えに来てくれると信じている。あの時も、自分が声をかけなければ何時間もでもあの場所で待っていただろう。そう思うと少しでも早く、あの場所へリクを送り届けなければいけない気がして玄太は雪道をとばした。
 玄太は商店街の駐車場に車を停めると、小さな手を引いて、アーケードの中央付近にある自販機へ急いだ。
 そこには一匹の野良猫の先客がいた。玄太は辺りを見回した。
「リク、母ちゃん、まだみたいだな」
「……僕がいなかったからお母さんは怒って、どこか探し回ってるのかも……」
「え?どうしてそう思うんだい?」
「だってお母さんは、僕がいなくなると、あちこちに声をかけて僕を探し回ってさ、僕の顔をみると、どこに行ってたの?ここにいなさいって言ったでしょってすごく怖い顔で怒るんだ。顔をはたかれる。前に何回かそんなことがあったの。僕はちょっとコンビニのトイレに行ってただけなのにさ。パニックになっちゃうんだ。お母さんは僕のことが大好きなんだって。僕がいなくなると困るんだって……だから、お母さんの言うことはちゃんと守らないといけないんだ」
「そうか、リクは偉いな。じゃ、おじさんは帰るよ。もうすぐ母ちゃんが迎えに来るもんな。でもなリク、おじさんは三時におやつを買いに商店街に来なくちゃいけないんだ。だから三時にここへ来てみてもいいかな」
「うん、いいよ。多分、猫しかいないと思うけどね。友達だもんね」
 リクはちょっとだけ微笑んで言った。
「じゃあな、リク」
 さすがに商店街とはいえ、元日、二日は休みのところが多い。開いているのはコンビニくらいだ。そんな場所に幼い子供を一人残して立ち去ることが辛かった。多分、母ちゃんは来ない……きっと来ない。大人だからわかってしまう。軽トラを運転しながら玄太の頬に涙がこぼれた。
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