冒険者、引っ越しをする

文字数 852文字

 翌日から俺は引っ越しの準備を始めた。
 と言っても元々冒険者というのは荷物なんて袋1つで足りている。
 なので、殆どが買い出しに費やしている。
 農機具一式、当面の食料や野菜の種や苗、服飾類や絨毯等・・・・・・。
 色々買い込んで国の方に送ってもらう。
 それから冒険者ギルドに行きギルドカードの返却を行った。
 受付嬢からは、まぁ当たり障りの無い挨拶をされ、俺の冒険者生活はあっさりと終わった。
 まぁ、対した事をやっていない普通の冒険者なんてこんなもんだろうなぁ・・・・・・。
 顔見知りの冒険者には引っ越す事は伝えた。
 『田舎でのんびり暮らす』て、言うと『お前らしい』と言われた。
 まさか国を買った、なんて思うまいし俺が(名式だけ)国王になるなんて思ってはいないだろう。
 後の細かい手続きはエルダがやってくれる。
 全部が終わるのに1週間はかかり、エルダからも連絡が入り俺はいよいよ引っ越しの日を迎えた。
 宿屋の店主にお礼の挨拶をして宿を出る。
 王都の風景を一つ一つ記憶の中に刻んでいく。
 もう、お別れだと思うと感慨深い物がある。
 不動産屋の前には馬車が止まっていた。
「待ってたぞ、いよいよ新天地に出発だな。」
「あぁ、色々ありがとうな。」
 俺はエルダと握手をした。
「困った事があったらいつでも呼んでくれ。」
「その時はよろしく頼む。」
 そう言って俺は馬車に乗り込み自分の国へと向かった。 
 俺の気持ちは既に前を向いていた。
 夢だったスローライフが漸く実現できるワクワク感でいっぱいだった。
 この気持ちは冒険者になった10年前と同じだった。
 あの頃は夢や希望を持っていたからなぁ・・・・・・。
 馬車に乗りながら10年間の思いに馳せていた。
 馳せていたら、あっという間に俺の国に着いた。
 国民は今の所、俺しかいない。
 別に大国にしようなんて思ってはいない。
 それでも誰もが笑顔で暮らせる様な国を出来たら作りたい。
 広大な景色を見ながら俺は静かに決意した。 
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