冒険者、不動産屋に行く

文字数 1,157文字

 翌日、俺はギルド横にある冒険者専門の不動産屋へ向かった。
「おぅ、レッドじゃないか。」
「『エルダ』、丁度良かった。」
 俺に声をかけたのはこの不動産屋のオーナーであり元同僚だったエルダ。
 この男はあるクエストで大怪我をしてしまい冒険者を引退、新たに立ち上げたのがこの冒険者専門の不動産屋だ。
 冒険者が家を借りるのは実はハードルが高い。
 粗暴で野蛮、収入も安定しない、それがこの国、いやこの世界で一般的な冒険者のイメージだ。
 勿論、かなり偏ってはいるがまぁ、そういう輩が目立ってしまう。
 だから、普通の不動産屋に行くと門前払いを喰らってしまう。
 エルダはそこに目をつけ、大家に対して『冒険者の身元の保証』、『家賃が払えなかった時の補償』等を約束した。
 勿論、借りる側である俺達は厳しい審査があり1個でもトラブルとか問題があった場合は紹介されないし、起こした場合は強制退去となってしまう。
 そういう厳しい部分が国の信頼も得て規模が拡大していて最近では貴族部門も立ち上げた。
「そろそろ家を購入しよう、と思ってな。」
「おっ! ついに貯まったのか?」
 俺は机に金が入った袋を置いた。
「多分、足りてると思うが・・・・・・。」
「計算してみるよ、おーい!悪いが両替を頼むっ!」
 エルダが部下に命令して袋を奥に持って行った。
「しかし、初志貫徹とはよく言ったもんだな。昔から『家を買うのが俺の夢だ』て言っていたもんな。」
「当たり前だ。俺は早く冒険者から足を洗って落ち着きたいんだよ。」
「その前に彼女を作れよ。」
「お前だって、人の事言えないだろ。」
「それは秘書や部下にも言われてる。貴族のパーティーに呼ばれた日にゃ令嬢様に猛アタックされるんだぞ。キツいぞ・・・・・・。」
「それ、ただのモテ自慢にしか聞こえないぞ。」
「オーナー、計算が終わりました。星金貨10枚になります。」
「マジかっ! 大体星金貨5枚で一般的な家を買えるから贅沢出来るぞ!」
「いや、そんなに広くなくても良いし。」
「まずはカタログを見てくれ。星金貨10枚だとこの辺だな。」
 そう言って見せてくれたのは貴族が住みそうな見た目派手な屋敷ばかりだった。
「・・・・・・俺、普通の冒険者だぞ。ハードル高すぎだろ。」
「言うと思ったよ。この屋敷は貴族が売却した別邸なんだよ。」
「別邸?」
「そ、愛人を住まわせたりしていたんだけどバレたりとか別れたりとかで必要なくなって売りに出されたりする。」
「何か、色々混もっていそうで怖いな・・・・・・。」
「で、実はここからが俺のオススメ物件。レッド、お前家を買うなら王都じゃなくても大丈夫か?」
「そりゃあ住めるなら何処でも良いぞ。」
「それだったら、お前『国』を買ってみないか?」
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