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文字数 1,312文字

「最初はね、あなたに自分から会いに行くつもりはなかったの。最初に祖母と悟さんが出会った場所からは結構遠かったし、会ったところで何もできないなと思っていたから」
「まぁ……そうだろうね。実際僕も、その話だけでわざわざこっちに来てまで会いに来るとは思えないし」
「でも、その直後の出来事で、私はその考えを改めることになったの」
「その直後の出来事?」
「まだ悟さんの記憶にも新しいはずだよ。十年前はそう、あの大震災が起こった年」

 祖母が亡くなってから丁度一週間後。葬儀も済んで、少しずつ色んなことが落ち着こうとしていたタイミングだった。その時に何の前触れもなく大震災は起こって、もう何が何だか分からなかった。
 私は学校の部活があって学校にいたから、帰れない状況の間は学校の中で暫く留まることになった。私は少し離れた学校にいたから無事だったけど、自宅にいた両親と丁度来ていた祖父は、皆災害に巻き込まれて死んでしまっていたの。私は一気に家族皆を失うことになった。
 最初は震災の混乱と家族を失った感情とでごちゃごちゃになってしまって、何が何だか分からないまま、とにかく生きていくのに精一杯だった。でも幸いにも、身近ではご近所さんや友達家族が助けてくれたし、これはもう少し後の話だけど、遠方にいる親戚が私の情報を聞いたみたいで、面倒を見てもらえることになった。だから、生活はどうにかできていたの。
 避難所生活が暫く続いた頃、よくよく周りを見てみたら、所々で私にしか見えていない人がいることに気付いた。それで私は、自分が「使者が見えている」ってことを思い出して、祖母から聞いた悟さんの話も同時に思い返してみたの。私と同じように家族を亡くして独りになって、母親との約束を破った罪滅ぼしを理由に交代した少年の話。
 私、話を聞いたときはまだちゃんとは分かってなくて、自分が独りになって初めて、祖母が「せめて琉生だけでも憶えていて」って言っていた意味が分かった。私は周りに知り合いがいたから、家族を失っても支えてくれたり助けてくれたりする人がいる。でも、家族がいないっていうそれだけでもかなり心細かった。それなのに、この世界の誰もが自分のことを憶えていないって、そんな悲しいことはないって。
 こっそりね、使者の人が役目を果たしている現場を何度か覗いてみたの。そうしたら、先立ってしまった人は皆、残された人を思って謝っているし、逆に残された人は、先立ってしまった人を忘れないように泣いていた。そうやって、必ず憶えてくれている人がいることをあの時にはっきりと知ったよ。
 現地で私がこの目で見たのは悟さんじゃないけど、きっと他の使者の人も、この世界に憶えてくれる人はいないことは同じなのかなって思った。そう思ったら、全員を憶えるのは難しいから、せめて祖母を助けてくれた悟さんのことだけでも私は憶えていたかった。私が死ぬまでに悟さんが使者を続けているかは分からないけど、誰かに伝えるまでは必ず忘れないって。
 そう思ってずっと過ごして、遠方に住んでいた親戚が助けてくれたお陰で高校もなんとか卒業できて、その後私は就職を機にこっちに引っ越してきてもう数年。それが今。
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