第1話 学級委員選挙
文字数 2,208文字
成績は、いつもクラスのTOPをとっていた。
学年順位は発表されないから分からないけど、最上位グループにいるのは、まず間違いない。
毎日、一生懸命に取り組んだ予習・復習の結果だ。
その分、努力してる。
努力した分だけ、その結果が出るから勉強は楽しい。
お父さんの
当初は、
『すべての家庭で教えてもらっているものだ』
と思っていたけどクラスメイトと話をしてたら、
「え? そんなこと家では教えてもらってないぞ」
と言われ、自分はお父さんに恵まれたんだと知ったからだ。
また、学級委員を常連で務めていた。
1年生の1学期から4年生の3学期まで、ずっと務めてた。
他の学校は、学年で一度なったら他の期は就任できない取り決めがあるそうだけど、この学校には、そうした決まりはない。
何もしなくてもありがたいことに投票され、自然に学級委員に就任してた。
自分で言うのもなんだけど、ルックスが良いのも有利だったのかな。
女子たちから、モテていると自覚もしてる。
そして、学校で問題を起こしたこともない。
『何かあったら、お父さんとお母さんに迷惑をかけちゃう』
『学級委員はクラスのリーダーだから、生徒の模範にならなくちゃいけない』
といつも思ってる。
だから学級委員になるのは自分の誇りだったし、お父さんとお母さんも喜んでくれるから、やりがいを感じてる。
*
だがこの春、一大事が起きた。
5年生の1学期の学級委員を決めるときに、予想もしなかったんだけど手を挙げて立候補した男子が現れた。
担任が、
「おぉ! やる気のある子だな。他には、いないか?」
と聞いていた。
自分は、
『これは予想外だ! 立候補する男子が現れるなんて思わなかった。今まで学級委員を続けてきた誇りもあるし、お父さんとお母さんの喜ぶ顔がまた見たい!』
と思った。
『これでは不戦勝になってしまうから、自分も立候補しよう!』
と決断し、「はい!」と手を挙げた。
担任が、
「お! もう一人やる気のある子が出たぞ。他には、いないか?」
ともう一度、聞いたけど他に手を挙げる男子はいなかった。
みんなが配られたメモ用紙に名前を書いて、先生の持っている箱に次々と入れていく。
勿論、自分は自分に投票した。
そしてドキドキしながら得票結果を待ってた。
『今まで立候補なんてしたことがなかった。あいつは勇気があるな! それに比べて、自分は焦って立候補した二番煎じだ……結果は、どうなるかな。“やっぱり、最初に手を挙げたほうが勇気とやる気がある”ってみんな思うよな』
と頭の中でぐるぐると同じことを思った。
しばらく待っていると担任が、
「結果が出たぞ。今から発表するな。誰になっても文句を言っては駄目だぞ。協力してクラスをまとめて欲しい」
と前置きしてから、
「結果は、28票を獲得した白藤勇輝になった。しっかりとクラスをまとめてくれよな」
と言っているのが確かに聞こえた。
『ほっとしたぁー。クラスのみんな、ありがとう! みんなの期待に応えれるよう頑張るよ』
と心の中で誓った。
もう一人の立候補した男子が悔しそうな表情をしていた。
『なんだか彼に、申し訳ない気がする』
だけど、
『勝者が敗者に声をかけるのは良くない』
と思って彼には、何も言わなかった。
その日、帰宅したらすぐにお母さんの
「へー、その彼も偉いね。でも、勇ちゃんも立候補して戦ったのね。男の子だねー。偉い偉い」
と頭をなでなでしてくれたのが、とても嬉しかった。
その夜、食事の際にお父さんにも同じことを話した。
お父さんも、
「おー 勇気がある子もいたもんだ。うんうん。勇輝も偉かった。お父さんは、嬉しい! いやー、今日はビールが格別に美味しいぞ♪」
とグビグビ飲んでた。
それを見て、
『やっぱり、あのとき手を挙げて本当に良かった』
とつくづく思った。
『学級委員になったんだから、成績も落としちゃいけない』
と思い、勉強も手を抜かなかった。
*
そんなある日、クラスのみんなが下校した後、忘れ物をしたことに気づいたから学校に引き返したときだ。
思わぬものを目撃してしまった。
それは、あの立候補したもう一人の彼がある女子の笛を舐めていたんだ!
『こ、これはビックリ! そっか。彼は、あの席の女の子が好きなんだ』
と思ったけど、それはそれ、
そのままにしておく訳にはいかないから教室の中に入った。
彼は、
「誰にも言わないから、今すぐ洗ってこい」
ときつく言った。
彼も素直に従って、洗い場に向かっていった。
『バツが悪いな。でも、そのままって訳にはいけないし仕方ない』
と待っていると、
戻ってきて、テッシュで丁寧に拭いていた。
「本当に誰にも言わない?」
と恐る恐る聞いてきたから、色々と頭の中で考えた。
「絶対に誰にも言わない。約束する! 男の約束だ。その代わり二度とするなよ。あと、そうだなー。学級委員の仕事が大変なときに手伝ってくれよ。それで手を打たないか?」
と言ってあげた。
彼は嬉しそうに、頷いて帰っていった。
『まぁ、せめてもの男の情けだ。黙っておいてやるかー』
と忘れ物を手に、自分も帰宅した。