第1話 護りたる者
文字数 2,726文字
その後日付は進み、自分は関東都大学に一発合格することができた。
そして高校の卒業式を終えたときに、懐かしくも美波が声を掛けてきた。
彼女とは違うクラスで、しかも教室の距離が離れていたこともあり、あまり姿を見ることはなかった。
久しぶりに、目の前に立つ美波は少しだけ大人に見えた。
美波から、
「第2ボタンっていっても、ブレザーだけど一つ私にもらえないかな」
と頼まれたので素直に渡した。
「ありがとう。大切にするね……」
「勇輝くんがね。私のことを大切にしてくれていたのは、ちゃんと解っていたよ」
「私のね……高校時代のね。一番の大切な思い出になったよ」
「|関東都大学、無事合格してよかったね。おめでとう。大学にいっても頑張ってね!」
と言うと涙を流しながら美波からキスをしてきた。
周りの生徒はびっくりしていたが、気にもならなかった
そして長いキスが終わると、真っ直ぐに見つめてきて、
「拒まないでいてくれたね。ありがとう」
「私はね……」
「今までも、そしてこれからもずっとね! 勇輝くんのことが大好きだよ!!」
そう言うと笑顔を見せて走り去っていった。
去り際に涙が散っていた……それがとてもキラキラしていて綺麗だった。
その後ろ姿を見ながら、
『ありがとう。自分こそ、美波と付き合えたのは大切な思い出だよ』
と心の中で語り掛けた。
*
大学の入学金などが高かったので、両親に申し訳ないと思い謝った。
「アルバイトをして、自分でも少しだすよ」
と言うと、
父が、
「そんな心配をする必要はない! うちは、子供がお前だけだからな。大丈夫だ。任せろ!」
と力強く言ってくれた。
「だがアルバイト自体は良い社会勉強になるし、お金を稼ぐとはどういうものかを実体験するのはお前の身になるだろう」
「稼いだお金は、自分の未来のために投資しなさい。社会人になったらは、ちゃんと生活費を貰うからな!」
と肩をポンと叩いてくれた。
そんな父を誇らしく思えた。
*
アルバイトを適度にこなしながら、大学を無事卒業し、大手商社である加藤中商社 に入社することが出来た。
大学の間にも女性とデートは何度かしたが、どの子もピンと来なかったので、長く付き合うことはなかった。
大学生になったからと言って羽目を外したら、
『美波に申し訳が立たない』
とずっと思っていた。
社会人になると飲み会やらで迫ってくる女性もいたが、惹かれるものがなかった。
ある日、取引先に行ったときに、そこの女性社員から同僚の西条の不倫の話を聞いたが、聞かないことにした。
個人的には倫理観が合わないが、
『わざわざ会社に報告することでもない』
と思ったのだ。
そのうち、営業成績のナンバー1の西条は出世し海外勤務となった。
その後、取引先からクレームが入ったと耳には入ったが、自分には関係なかったので問題なかった。
*
仕事も充実し、家では両親とも良好な関係だったので、心がとても落ち着いていた。
そんな、ある日のことだ。
車を運転していると、何故だか『危険だ!』と閃いてブレーキを踏むと間一髪だった!
突然、子供が飛び出してきたのだ。
『危なかった。もしあの時にブレーキを踏み始めてなかったら、あの子供を引いていた』
と冷や汗をかいた。
その後も何故だが仕事中でも、『この取引はマズイ!』と直感が走り、大きな話だったが断ったことがあった。
その半年後、その会社の不正が明るみに出たのを報道で知った。
『危うく自分の会社まで、巻き込まれるところだった』と、ほっとしたものだ。
このようなケースが、幾度かあったのだ。
そして、いつしか、
『何か不思議な、見えない何かが自分を護ってくれている』
と思えるようになっていた。
*
それから数日後、寝ていると広い草原に立っている夢を見た。
周りを見回すと、広大無辺な草原に香りのよい花畑が咲き誇っていた。
花の周りに何か動くものがいるのでジーっとしてみるとなんと、フェアリーだった。
気温も熱くもなく、寒くもなく丁度よい感じで、気持ちのよい風が吹き抜けており、とても清々しいところだった。
地面に立っている感覚もあり、風も感じることができた。
夢なのに、起きているときと変わらぬ感覚があり思考もできる。
不思議だが、確かこういうのを”覚醒夢”と言うのだと知識はあった。
しばらくすると、目の前に一人の女性が近づいてきた。
不思議と知っている感じがするし、女性なのに他人とは思えなかった。
しかも、顔つきが何となく自分と似ているのだ。
彼女は目の前に到着すると、ゆっくりと語りだした。
「自 分 の名前は、イリス。あなたの魂の兄弟です」
自分は当然驚いたが、彼女は語り続ける。
「あなたは、その歳になっても心が綺麗でいてくれた」
「導いてはいたけど、お陰でちゃんとインスピレーションを受け取ってくれた」
「自 分 は、あなたの前世の姿です。そして、あなたが生まれてからずっと守護していました」
「これからも、あなたを護っていくから、どうか心清く生きていってください」
「そうすれば、あなたは自 分 からのインスピレーションを受け取れ、計画していた人生を送ることができます」
「くれぐれも、鼻高々にならず謙虚に生きてください」
「気づかぬ間に、増上慢という罠が待っていますので、両親から”あなた最近おかしいわよ”と指摘されたら、自分を振り返って謙虚さを取り戻してください」
と言い終えると微笑んでいた。
勇輝は、
「一つ教えて下さい」
「あなたは自分の前世の姿であり、そして守護していると言いました。ですが、もう少し詳しく説明してくれませんか?」
と言うと、ゆっくりと言葉を綴り始めた。
「自 分 と地上に降りたあなたとは、一体なのです」
「人の魂……心は大きな生命エネルギーで地上に降りる部分がすべてではないのです」
「光の世界で残った、あなたの魂の半分が自 分 なのです。交互に地上に降り、そして光の世界に残った方が守護する」
「端的に言うと自 分 はあなたであり、あなたは自 分 なのです」
「また、こうやって会えると良いのですが、なかなか地上にいるといろいろな想念に邪魔されるので難しいのです」
「でも、心清くあらば自 分 のインスピレーションをキャッチできますから、受け取ったら素直に従ってくださいね」
「あなたを最後までお護りしますから」
と言うと姿が見えなくなっていった。
『あ!』
と声を掛けようとしたら、目が覚めていた。
『なんだったのだろう……いやにリアリティのある夢だった』
『ちゃんと自分で考えることができたし、会話の内容も理解できた。しかも、こうして目覚めてもはっきりと記憶が残っている』
そう思うと、
『あれは紛れもなく現実だった』
と確信できた。
そして高校の卒業式を終えたときに、懐かしくも美波が声を掛けてきた。
彼女とは違うクラスで、しかも教室の距離が離れていたこともあり、あまり姿を見ることはなかった。
久しぶりに、目の前に立つ美波は少しだけ大人に見えた。
美波から、
「第2ボタンっていっても、ブレザーだけど一つ私にもらえないかな」
と頼まれたので素直に渡した。
「ありがとう。大切にするね……」
「勇輝くんがね。私のことを大切にしてくれていたのは、ちゃんと解っていたよ」
「私のね……高校時代のね。一番の大切な思い出になったよ」
「|関東都大学、無事合格してよかったね。おめでとう。大学にいっても頑張ってね!」
と言うと涙を流しながら美波からキスをしてきた。
周りの生徒はびっくりしていたが、気にもならなかった
そして長いキスが終わると、真っ直ぐに見つめてきて、
「拒まないでいてくれたね。ありがとう」
「私はね……」
「今までも、そしてこれからもずっとね! 勇輝くんのことが大好きだよ!!」
そう言うと笑顔を見せて走り去っていった。
去り際に涙が散っていた……それがとてもキラキラしていて綺麗だった。
その後ろ姿を見ながら、
『ありがとう。自分こそ、美波と付き合えたのは大切な思い出だよ』
と心の中で語り掛けた。
*
大学の入学金などが高かったので、両親に申し訳ないと思い謝った。
「アルバイトをして、自分でも少しだすよ」
と言うと、
父が、
「そんな心配をする必要はない! うちは、子供がお前だけだからな。大丈夫だ。任せろ!」
と力強く言ってくれた。
「だがアルバイト自体は良い社会勉強になるし、お金を稼ぐとはどういうものかを実体験するのはお前の身になるだろう」
「稼いだお金は、自分の未来のために投資しなさい。社会人になったらは、ちゃんと生活費を貰うからな!」
と肩をポンと叩いてくれた。
そんな父を誇らしく思えた。
*
アルバイトを適度にこなしながら、大学を無事卒業し、大手商社である
大学の間にも女性とデートは何度かしたが、どの子もピンと来なかったので、長く付き合うことはなかった。
大学生になったからと言って羽目を外したら、
『美波に申し訳が立たない』
とずっと思っていた。
社会人になると飲み会やらで迫ってくる女性もいたが、惹かれるものがなかった。
ある日、取引先に行ったときに、そこの女性社員から同僚の西条の不倫の話を聞いたが、聞かないことにした。
個人的には倫理観が合わないが、
『わざわざ会社に報告することでもない』
と思ったのだ。
そのうち、営業成績のナンバー1の西条は出世し海外勤務となった。
その後、取引先からクレームが入ったと耳には入ったが、自分には関係なかったので問題なかった。
*
仕事も充実し、家では両親とも良好な関係だったので、心がとても落ち着いていた。
そんな、ある日のことだ。
車を運転していると、何故だか『危険だ!』と閃いてブレーキを踏むと間一髪だった!
突然、子供が飛び出してきたのだ。
『危なかった。もしあの時にブレーキを踏み始めてなかったら、あの子供を引いていた』
と冷や汗をかいた。
その後も何故だが仕事中でも、『この取引はマズイ!』と直感が走り、大きな話だったが断ったことがあった。
その半年後、その会社の不正が明るみに出たのを報道で知った。
『危うく自分の会社まで、巻き込まれるところだった』と、ほっとしたものだ。
このようなケースが、幾度かあったのだ。
そして、いつしか、
『何か不思議な、見えない何かが自分を護ってくれている』
と思えるようになっていた。
*
それから数日後、寝ていると広い草原に立っている夢を見た。
周りを見回すと、広大無辺な草原に香りのよい花畑が咲き誇っていた。
花の周りに何か動くものがいるのでジーっとしてみるとなんと、フェアリーだった。
気温も熱くもなく、寒くもなく丁度よい感じで、気持ちのよい風が吹き抜けており、とても清々しいところだった。
地面に立っている感覚もあり、風も感じることができた。
夢なのに、起きているときと変わらぬ感覚があり思考もできる。
不思議だが、確かこういうのを”覚醒夢”と言うのだと知識はあった。
しばらくすると、目の前に一人の女性が近づいてきた。
不思議と知っている感じがするし、女性なのに他人とは思えなかった。
しかも、顔つきが何となく自分と似ているのだ。
彼女は目の前に到着すると、ゆっくりと語りだした。
「
自分は当然驚いたが、彼女は語り続ける。
「あなたは、その歳になっても心が綺麗でいてくれた」
「導いてはいたけど、お陰でちゃんとインスピレーションを受け取ってくれた」
「
「これからも、あなたを護っていくから、どうか心清く生きていってください」
「そうすれば、あなたは
「くれぐれも、鼻高々にならず謙虚に生きてください」
「気づかぬ間に、増上慢という罠が待っていますので、両親から”あなた最近おかしいわよ”と指摘されたら、自分を振り返って謙虚さを取り戻してください」
と言い終えると微笑んでいた。
勇輝は、
「一つ教えて下さい」
「あなたは自分の前世の姿であり、そして守護していると言いました。ですが、もう少し詳しく説明してくれませんか?」
と言うと、ゆっくりと言葉を綴り始めた。
「
「人の魂……心は大きな生命エネルギーで地上に降りる部分がすべてではないのです」
「光の世界で残った、あなたの魂の半分が
「端的に言うと
「また、こうやって会えると良いのですが、なかなか地上にいるといろいろな想念に邪魔されるので難しいのです」
「でも、心清くあらば
「あなたを最後までお護りしますから」
と言うと姿が見えなくなっていった。
『あ!』
と声を掛けようとしたら、目が覚めていた。
『なんだったのだろう……いやにリアリティのある夢だった』
『ちゃんと自分で考えることができたし、会話の内容も理解できた。しかも、こうして目覚めてもはっきりと記憶が残っている』
そう思うと、
『あれは紛れもなく現実だった』
と確信できた。