第4話 喪失感との戦い

文字数 1,695文字

 旅行から帰っても、心に穴が空いた感覚が無くならない。
 美登里さんのことが、全然忘れられない。
 喪失感を抱えつつも、日付は進み高校の入学式を迎えた。
 いよいよ高校生活がスタートしたのだ。
 クラス編成も終わり、各自の自己紹介が始まる。
「白藤勇輝です。関東中央中学から来ました。皆さん、よろしくお願いします」
と定番の挨拶をした。
 すると、担任が、
「おぉ! 受験を優秀な成績で合格したというのは、君だったのか」
と言ったのだ。
 一斉に「おー!」と言う声と共に注目された。
 女子からは、別の視線も感じた。
 その効果もあったのか、前期の室長にあっさりと就任してしまった。
 心の中で、
『ラッキーだったけど、室長就任を果たせた。お父さんやお母さんも、きっと喜んでくれるに違いない』
と喜びを噛みしめていた。



 流石にあの日本一の大学を目指す生徒が集まる超進学校だ。
 授業の難易度が高い。
 美登里さんのことを一刻でも忘れられるため、勉強に打ち込んだ。



 1ヶ月ほどし、ゴールデンウイークに入った。
 初日の朝に、自分の携帯電話が鳴った。
 出てみると、どう電話番号を知ったのか分からないが中学が一緒の女子からだった。
 名前を聞くと、
『あぁ、あの、結構可愛い子だったな』
と頭に顔が浮かんだ。
「会って欲しいの。ハッキリ言うとデートして下さい」
と言ってきた。
 心の空白を、埋めれるかも知れないと思いOKした。
 早速、支度をして待ち合わせの場所に向かった。

 相手も丁度、来たところで同時に着いたという感じだ。
 その後、映画館に行き、食事もし、ウィンドショッピングを楽しむと夕方になっていた。
 彼女の誘導なのか、広い公園に来ていた。
 2人で公園のベンチに座って話をしていると、意を決した感じがしたと思ったらキスされていることに気づいた。
 無茶苦茶、驚いた!
「積極的だね。驚いたよ」
と言うと
「私、ずっと、ずっとね。白藤くんのことが好きだったの! だから、今日デートOKしてもらえたのが夢のようで凄く嬉しかった。 今のが私のファーストキスなんだよ」
と顔を真っ赤にして告白してきたのだ。
『嬉しいけど、何か違う。自分は、自分の心の空白を埋めるためだけにOKしただけだった』
「ありがとう。でも、ごめん。今、自分には好きな人がいるんだ……会えなくなってね。寂しさを紛らわせるために、今日OKしただけなんだ。だから、今は君の気持ちの答えられない」
とハッキリと答えた。
すると、彼女は悲しそうな表情をし
「そ……そうだったんだ。でも、大好きだった白藤くんとデートできて、ファーストキスも捧げれて、私嬉しかったよ。今日は、ありがとう。私、一生忘れない」
と言って、泣きながら帰っていった。
 その後ろ姿を見て、申し訳ない気がした。



 その翌日の夜に、また携帯電話が鳴った。
 出てみると、また同じ中学の女子で、
「同じ高校で出会って、友達になった子がね。卒業アルバムを見て、白藤くんを紹介して欲しいって頼まれたの! 明日、会ってあげて、デートしてあげてくれないかな?」
と言ってきた。
『自分の携帯番号はどこから漏れたのかな? 男子の数人には教えていたから、そこから漏れたんだろうな』
と思った。
 またも、気を紛らわせたくてOKした。
 翌日待ち合わせの場所に行くと、2人が待っていた。
 同級生が、高校の友人を自分に紹介すると、
「じゃあ、頑張ってね!」
と言って帰っていった。
 2人になってデートをしていると、積極的にアプローチしてくる。
 悪い気はしないので、突き放しはしなかった。
 すると夕方前に、彼女から「これから自宅に来ない?」と誘われた。
 意味することは、察した。
『やはり、違う。自分は、そういうことがしたくてデートをOKした訳じゃない……心の空白は、一時的にしか埋まらないんだな』
と痛感した。
「ごめん。自分は、そろそろ帰るよ。今日は楽しかったよ。ありがとう」
と答えた。
 彼女は、更に誘ってきたが、断って帰宅した。

 帰宅した自室で、
『こういうのは新たな恋に落ちるか、時間が必要なんだろう』
と悟った。
 そして、携帯で撮った美登里さんの画像を眺めながら泣いた。
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