第3話 お見合い

文字数 2,402文字

 とうとう、初のお見合いの日となった。
 旧家の家柄ということなので、袴姿で出掛けた。
 最初は鉄板のスーツのつもりだったのだが、”先方が着物(和装)で来る”と情報が入ったので、急遽レンタルしたのだ。
『袴なんて初めて着たな。なんとか間に合って良かった』
 両親からは、
「うんうん。良い男だぞ」
「そうね。あ母さんも惚れちゃうな」
 と満足そうに褒めてくれた。
「さて、行きますか!」
 と気合を入れて、家族で出発した。



 そして、見合い場所である料亭に到着した。
 高坂(たかさか)専務も、同時に到着した感じでグッドタイミングだった。
「専務、この度はいろいろとお手数をお掛けいたしました」
 とお礼を述べると
「おぉ! 白藤。決まってるな」
「よっぽどあの娘が気に入ったんだな。うんうん、カッコイイぞ!」
 とこれまた褒めてくれた。
 そして、両親が高坂専務にご挨拶をした。
「先方は、近くまで来ていると連絡があったから、先に入るとするか」
 と専務が言うので、先に部屋に入って来るのを待っていた。
『いやー、めちゃくちゃ緊張するな』
 ドキドキしていた。

 4人で赤峰家の到着を待つ間、いろいろな話をしていた。
 専務も上機嫌で、あのフレンドリーさで気さくに話してくれたのが嬉しかった。



 そして待つこと20分。
 見合い相手が到着した。
 先に、ご両親が部屋に入ってきて専務と、そして自分の両親と軽く挨拶を交わし座敷に座った。

「恵。入って来なさい」
 とお相手の父親が声を掛けると、もじもじと入ってくるかと思ったら、予想外に毅然とてしっかりとした足取りで入ってきた。
 着物は牡丹(ぼたん)の花が印象的な淡いピンク色で、帯は明るい緑でとても似合っていた。
「赤峰恵です。本日は、よろしくお願い申し上げます」
 と気品を漂わせるお辞儀をした。

『……写真より、一層綺麗じゃないか』
『これは、びっくりだ。そして、しっかりとしているんだな』
 と感心した。
 早速、立ち上がり
「白藤勇輝と申します。こちらこそ本日は、よろしくお願い申し上げます」
 とこちらもお辞儀をした。
 お互いに目が合った。
 なんとも気恥ずかしい感じだ。

 恵さんが席に座ると、懐石料理が運ばれてきた。
 食事をしながら、7人でいろいろと話をしながら過ごした。
 恵さんは食事を口の中に入れる時、上品な手つきで口元を隠しながら食していた。
『本当に、お嬢様なんだな』
 とつくづく思ったと当時に、
『本当に、こんな自分で良かったのか?』
 そのような疑問が湧く。



 そんな感じで、懐石料理も終わると高坂専務が、
「さてと、これからはお若い2人でゆっくり周りに気を使わず親睦を深めてもらおうか」
「とのことで、2人はお庭でも散歩してきなさい」
 とご指示があったので、立ち上がり恵さんに手を差し伸べた。
 ちょっと驚いたようだが、その手に触れ恵さんも立ち上がった。
 こういった仕草にも気品がある。
『これは、ちょっと釣り合わないじゃないのか?』
 と思ったが、相手は気にしていない様子だった。



 庭に出て少し歩くと、部屋から一定の距離が保てた。
 そこで立ち止まり話をし出した。
「恵さんは、今までお見合い話をずっとお断りになられていたとお聞きしましたが、自分など普通の家柄の縁談話をよく受けられましたね」
 と率直に質問した。
 意外そうな顔をして、
「そうですね。いろいろとお見合い話が来るので鬱陶しかったのもありますが、正直申し上げて何となく気が向いたから……ですかね」
 と意外に普通に話をしだした。
 やはり、両家の親や専務の前では畏まっていたらしい。
「それこそ勇輝さんは、良くおモテになるのに、あまり女性に興味を示さなかったとお聞きしていましたが、何故今回の話を受けられたのですか?」
「専務さんからの話だったから、断れなかっただけですか?」
 と予想外に逆質問がとんできた。
「正直申し上げると、専務のフレンドリーさと強引さに押されてOKしました」
「写真もその時に、専務がお撮りになられたものです。あんな写真で、お受けになられるとは思いもしませんでしたよ」
 と正直に答えた。
 そして、
「恵さんは、馬鹿にされたとお思いになられなかったのですか?」
 と聞いてみた。

「そう! それですよ!」
「あの方、私にも結構強引にですが、人懐っこく話をしてきてバシャっと写真を撮られちゃったんです」
「唖然としましたが、悪い気はしませんでしたよ」
「ある程度、人柄は知っていましたので、その方が持ち込んだ縁談だったので、まぁいいかなーと思ったのもあります」
 と、見合いの席とは全然違う自然な感じになっていた。
 それを見て、思わず微笑んでいると、
「私、何かおかしな話をしましたか?」
 と聞いてきたので、
「いえ、先ほどのお見合いの席でのあなたと違って自然な感じがしたので、思わずって奴です。気を悪くされたら、申し訳ない」
 と答えた。
 これで、お互いにリラックスできたと共通の認識ができた。

「じゃ、自分も普通に話ますね」
「先ほど、女性に興味を示さなかったと言われましたが、そんなことはありませんよ」
「自分だって普通の男ですから、いい方だなと思ったらお食事に誘ったり、デートしたりはしましたよ」
「では、何故そうした方と深いお付き合いをなされなかったのですか?」
「実は、母から高校1年の夏休みに恋愛や結婚観の話を聞きまして、それが何故かスッと自分の中に染み込んだんです」
 と言って、母から聞いた話をすべて伝えた。

「そういうことだったのですね」
「しかし、見た感じは今時の男性って感じなのに、古風なんですね」
 と笑っていた。
「それでは、そのイメージと言うのを私に対してもなされるのですか?」
 と聞かれたので、
「はい。もう習慣になってしまっていますので、そうさせて頂きます」
 と答えた。
 恵さんも、微笑みながら、
「では、私もそのイメージというのをやってみますね」
 と優しい感じで伝えてきた。
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