第2話 縁談話

文字数 2,405文字

 社会人になり、早10年が過ぎ32歳になっていた。
 人より出世が早い方だったので、達成感と向上心も満足していた。
 これも、慎重に手堅い取引をしてきた結果だった。
 コツコツ積み上げてきた実績が認められたのだ。
 他の社員みたいな派手な成功こそなかったが、『自分は自分だ』と思って業務にあたっていた。
 あれからも、何か嫌な予感がするとその取引を避けてこれたので、”守護されているんだ”と感謝の念を心の奥へ送りながら、日々を過ごしていた。



 これまでも、関西支社や九州支社にも転勤で務めていたが、この度本社に呼び戻された。
 どうやら出世コースの海外勤務も期待されていたようで話があったが、これは断った。
 自分は一人息子のため、せめて国内には居たかったからだ。
 出世より、大事なものがあると思っている。
 今でも充分評価されているので満足だ。
 これからも会社のため、そして自分の成長のため頑張っていくつもりでいる。



 そうした日々を送っていると、どうしたことか急にお見合いの話が舞い込んできた。
 1年ほど前に、会社の上役の高坂(たかさか)部長から、
「白藤は、女性に人気があるのに堅すぎて全然、女性とお付き合いしないそうじゃないか」
「そんな高身長でイケメンなのに、どうしてなんだ?」
「ったく、勿体ない。代わって欲しいくらいだぞ」
「しかも、社内(加藤中商社)でも有能さを認められ、期待され注目を浴びている」
「女性から声をかけられたりしてきただろうに」
「なんだ? 幼馴染でもいて結婚の約束でもしているのか?」
 と矢継ぎ早に聞かれたことがあった。
 その時は、
「付き合ったことがないっていうのは、無いですよ。実際に何人かと、お付き合いはさせて頂きました」
「でも、こう、なんて言うのですかね。ピンっとこないのですよ」
「だから、何か違うなと思ったら、お別れしてきただけです」
 と正直に答えた。

 高坂部長は、その時、
「白藤は、見た目は今時の青年なのに中身は古いタイプなんだな。う~~~ん」
 と言って去っていったのだが、その方が今では出世して専務になっていた。



 そして1年ほど経過したある日、再び声を掛けてこられたのだ。
「白藤、1年ぶりだな。相変わらず、コツコツ業績を上げているそうじゃないか」
「手堅い取引を重ねてきたから、会社としても安心して任せていられると聞いているぞ」
「いえ。勿体ないお言葉です」
「自分は、派手な成功を求めると失敗するタイプですので、コツコツ取り組んでいるだけです。人には、タイプがありますからね」
 と答えた。
 次には、高坂専務から、
「今夜、時間あるか?」
「少しプライベートな話があるんだが、どうだ?」
 と言われたので
「今夜は、特に用事もないですから大丈夫です。勿体ないお誘い、ありがとうございます」
 と即答した。



 そして、夜になり会食していると、
「実はなー、俺の遠い親戚なのだが、いい娘がいるんだよ」
「白藤みたいに、見た目はいいのだがこれがまた堅くてな。お前そっくりだ」
「だから、釣り合いがとれて丁度いいんじゃないかと閃いたのだ」
「俺が専務というのは置いておいて、どうだ? 一度会ってみないか?」
 と勧められて驚いた。
「何と言うのか、こういうのは縁だと思いますので……はい」
「そう、おっしゃってくださるなら是非お願します」
 そう答えた。
「おぉ! そうか。会うか!? 正直、断ってくるかと思ったぞ」
「なんせお前は、超出世コースの海外勤務を断ったくらいだからな」
 と、高坂専務も驚いていた。

「それでは、白藤の写真は……まぁいいか」
「俺の携帯で撮ってしまおう」
 といって何枚か写真を撮られてしまった。
「そのー、お堅い女性の方は、携帯の写真でいいのでしょうか?」
「お言葉が過ぎるかも知れませんが、ちゃんとした写真でないとその女性は馬鹿にされたってお怒りにならないですか?」
「そもそも、その女性はお見合いの話を承諾されているのですか?」
 と無礼にも質問してみたのだが、
「あ? いい。いいんだ。大丈夫、大丈夫」
「写真はな。おお! いい風に撮れてるぞ」
 と自己満足しているようだった。
「あの娘も25歳になってしまったので、そろそろ身を固める気はあるようだと聞いている」
「え? と言うことは、先方はまだその話を知らないんですか?」
 思わず声に出してしまった。
「まぁ、任せろ! 今度、あの娘の写真も持ってくるから楽しみにしておいてくれ」
 と言って、その日は解散となった。

『専務。思ったよりフレンドリーで面白い方だったな』
『それにしても、同じタイプかー』
『天秤のように同じタイプで釣り合うケースもあれば、真逆で釣り合うケースもあるから、自分はどちらなんだろう』
 と、そんなことを思っていた。



 それから1ヶ月が経過したころ。
 また高坂専務から声を掛けられ、その夜会食に同行した。
「白藤。喜べ! お前がOKしたのも正直驚いたが、あの娘もOKしたぞ」
「両方、即答で断るかと思っていたが、意外に話してみるもんだなと今回思ったよ」
 と笑っていた。上機嫌だ。
「結構古い家柄で育ってきてだな。名前は赤峰恵(あかみねめぐみ)
「年齢は、前にも言ったが今は25歳だ」
「おぉ! 白藤と赤峰か、紅白で縁起が良いな」
「ほら、この娘だぞ」
 と言って、携帯写真を見せられた。

『……また携帯写真なんだ。専務なのに面白い方だな』
 と思って画像を見させていただいた。
「!!」
 正直言って、かなりの美人だった。
 いかにもお嬢様らしい漆黒の髪色で、セミロングのソバージュのかかった髪型も印象的だ。
「え? このような美しい方が、結婚せずにいたのですか?」
 と声が出てしまった。
「ふふふ。そうか。気に入ったか! 美人だろー」
「お堅いのも似ているし、見た目も釣り合い取れていると思うぞ」
「じゃ、決定だな。早速、日程を決めないとな」

「候補日は聞いているのだ」
 こうしてトントン拍子に話が進み、翌週の土曜日の昼と決まった。
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