第1話 恋愛・結婚観

文字数 1,548文字

 高校生活がスタートしてから早くも1年が経過し、2年生に進級していた。
 未だに未練がましく美登里さんを想い続け、女性と付き合う気には全くなれなかった。
 何度かラブレターを貰ったが、すべて
「自分には好きな人がいて、未だに忘れられないからゴメン」
と断っていた。
 何せ自分の初恋の相手は、23歳の魅力的な女性なのだ。
 高校1年生を比較してはいけないが、女子が子供に見えた。



 高校1年の夏休みに、母の(あかね)から少し早いと思うが結婚観について語られた。
「まだ勇輝には、早い話かも知れないけど、もう高校生だし」
「彼女の一人や二人いてもいい年齢になってきたから、少し話をさせてね」
 自分は、頷いて答えた。
「これはお母さんのお母さん、つまり勇輝のお祖母ちゃんから聞いた話の受け入りなのだけど」
「いつか”結婚したい!”と思える人が現れたら、心静かに、冷静になって想像するの」
「付き合ってばかりの熱々な状態だと、冷静に判断できないからタイミングが難しいのだけどね」
「頭の中で、イメージするのよ」
「結婚式をして、一緒に生活し始めて、子供ができ、そして協力して一緒に育てていき、一緒に年齢を重ねる」
「そして子供が成人し、結婚して家を出ていく」
「するとまた、二人の生活に戻る訳ね」
「そして孫ができ、お爺ちゃん、お婆ちゃんになっていく」
「それが具体的に頭に浮かぶ相手なら、結婚しても大丈夫なのよ」
「お母さんも、お父さんとお付き合いしだして結婚を意識するようになったら実践してみたの」
「結果は、ご覧の通りに夫婦になっている訳だから、ちゃんと最後までイメージできたってこと。勇輝も、覚えておいてね」
と真剣な表情で語ってくれた。
 自分の一人の人格のある人間として扱ってくれたんだと感じた。
『自分は、母に大切にされているのだ』
と実感した。
 母は、
「今の時代は、簡単に身体の関係になっちゃうみたいだけど、お母さんはちょっとねーと思うの」
「だって、誰かのお嫁さんになる人の大事なものを奪っちゃうのは将来の旦那様に申し訳ないでしょ?」
「古いって思うかも知れないけど、こういう貞操観念が本当は大事なのだと思うよ」
「昔から、運命の赤い糸で結ばれた相手がいるって話があるでしょ」
「ロマンチックなだけでなく、本当の話だとお母さんは思っているの」
と言って、締めくくった。
 何故かその話が心の奥まで染みていくのを実感した。
『まぁ、そういっても美登里さんと……なんだけどさ』
と親には言えない過去がある。
 そういう意味では、変なコンプレックスもなく周りの同級生たちのそういった話題には振り回されなくて済んだ。
 だから、”身体目的で女性と付き合おう”という気も起らなかった。
 今の時代では『堅い! 時代遅れだ』って思われるだろうけど、自分は自分だ。
 最低でも、
『この人となら、この先ずっとお付き合いが続いていくならば結婚しても良いな』
と思えなければ手を出す気はないつもりでいる。
 まぁ思春期なので、一時的にオオカミにならないとは保証できないが、そう思っていた。



 1年の時の冬休みになると、今度は母から自分の名前の由来を教えてもらった。
「勇輝。ちょっといいかな?」
「いいよ。なに?」
と答えると、
「これも、そろそろ伝えるタイミングかなと思ったから話をするよ」
「あなたの名前に込められた想いをね」
「勇輝の名前はね、”勇ましく輝いて、自分だけでなく周りをも照らす光のような人に育って欲しい”との願いを込めて付けたのよ」
「だから、しっかりと心に刻んで、指標にして生きていって欲しいの」
「そうなんだ! 話してくれてありがとう」
「そして、いい名前を付けてくれてありがとう。しっかり、心に刻んで指標にして生きてみるよ」
と感謝と共に母に伝えた。
 その晩、父にもお礼を述べた。
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