喰らい尽くすまで、まって

文字数 2,386文字

「ただいまー・・・」
イチジクが買えなかったので、乾燥なつめやし(ドライデーツ)を買って、
ちびちび齧りながら帰ると、モルデカイおじさまが、呆然と立っていた。
『歩き食べなんか、するんじゃない!お前は仮にも、女の子じゃろうが!』とか
言われるかな?と警戒したんだけど、そんなこともなく。
・・・ど、どうしたの?と近づくと、
「え、エステルー!!!」と、
いきなり抱きしめられた。
ぐぇ。ち、ちょっと、いま、デーツが気管
にはいった・・・
「お、ぐぇへ、おじさま、どうしたの・・ぐげぇっ」
「お、お前も悲しいかエステル・・・!泣き声が汚らしいが・・・」
だれのせいだと。
んで、なんのことよ?

―おじさまの話をまとめるとこういうことらしい。

この、ペルシャ全土を治める王―アハシュエロス王が、180日も宴会を開いて(贅沢なことね)、そこに美しい王妃、ワシュティ妃をみせびらかすために、呼んだ、と。
けれども、ワシュティ妃はなんでか王の命令に背いて、いかなかったと。
それで、
『王の命令、ひいては夫の命令に従わないものが、ふぁーすとれでぃ、になっているのは民全体の見本にならない。王妃、クビ!』
ということになったそうな。

「・・・それでエステル、お前、このお妃の話をきいてどう思う?」
「んー、なにか美味しいものを食べてて忙しかったんじゃない?」
私も、本当に美味しいものを食べている時は一点集中、
何物にも邪魔されたくないわ!
と、胸をはっていうと、
「そうか・・・」
と切ない顔をされた。
え、ほかに、王に呼ばれたのに断る理由なんてある?

んで、続き。
しばらくして、機嫌のよくなった王様は王妃をよんだら、
『いや、あんたがクビにしたやん。』
と王の側近にあきれられたと。
んで、
『しゃーないな!そんなら、ほれ、王国中の。
別嬪はんあつめてな、お妃にしたらええやん!あんた王様やから、ハーレムできるやん!』
と、こういうわけだと。

「はえー、王様ってずいぶん勝手ねぇ。」
もぐもぐ。
「それで、王の使者が、国中の美人をこのペルシャの中心―首都シュシャンにある、
『シュシャン城:別名~大奥~』にあつめているのじゃ。」
ふーん。
もぐもぐ。
「それでじゃな、なにを間違ったか、ほれ、お前も顔だけは別嬪じゃろ・・
お前にも、およびがかかってしまったのじゃ・・・」
ふーん。
もぐもぐ。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
もぐもぐ。
「わからんやつじゃな、お前もお妃候補としてよばれたんじゃ!」
もぐもぐ。
「・・・・お前、本当に美味いもの食べてるときは一点集中じゃな・・・」
「(デーツの袋をさしだす)もぐもぐ。」
「・・・美味そうじゃな。どれ、もぐもぐ。」
もぐもぐ。
もぐもぐ。
しばらく、デーツをかみしめる音だけが空間にひびいた。
もぐもぐ。
ふぅ。
「な、なんですってええええええええ!」
「うむ、この甘さには茶がほしくなるのぅ。エステルさんや、お茶を一杯・・」
「ちょ、ちょっとおじさま、断ってくれてないのぉおお!」
「あ、ちょ、そんなに揺さぶると、デーツがのどにひっかかる・・・」
ゆさゆさゆさゆさ
「ぐふぇええ、
と、とにかく、なんとかしてやりたいのはやまやまじゃったが、
いかんせん、我らは昔、戦争に敗れエルサレムよりこちらにつれてこられた、
『バビロン捕囚』の民・・・。よほどのことがない限り、お上の意向には逆らえんのじゃ・・」
「私が会ったこともない人と結婚しなきゃいけないのは『よほど』じゃないの?!」
「いや、それはまぁ・・・(王に気に入られて王妃になれるとは限らんじゃろ)
・・・・・お前は顔は別嬪じゃけど、中身は微妙じゃからこれを逃したらあとがないかも・・」
「おじさま、本音と建て前、両方失礼じゃない?」
モルデカイおじさまはあさっての方向をみてごまかした・・・・


「と、とにかくじゃな、お前は、シュシャンの城にいかねばならんのじゃ。
いまでは、実の娘のようにかわいがってきたお前を手放すのは身が引き裂かれる思いじゃ・・しかし、我らが信じる、唯一、真の神は真実なお方じゃ。
アブラハム、イサク、ヤコブ、と我らの祖先から、我らを導き、守られた、主。
モーセの時代はエジプトの苦役から、我らユダヤの民を救い出された、主。
人の思いをはるかにこえて、神のなさることは全て、時にかなって美しいのじゃ。
だから、このようなこともな、きっと、神の摂理のなかにあってじゃな、
・・・エステル?」
すやぁ。
「おきんか、エステル!
おきては食って、腹がふくれたら眠るとか、本能のおもむくままに生きとる場合かー!」
ぐがー。
「・・・・・三秒で眠るとか、のびたくんかお前は・・・!
しかも、寝息がかわいくない、ドラえもんもいない、最低の、のびたくんか、お前は・・」
ぐがぁ!(失礼ね!)
「ね、寝ながら反論しとる・・・!
この、よだれをたらしながらのまぬけな寝顔を眺めることができるのも、
今宵までか・・・そう思うと、切なく・・切な・・
・・・なんというまぬけ面な寝顔か・・・!
王があきれなければいいが・・・
・・・王宮は、王の寵愛を得ようとする、女どもの醜い争いがおきる魔窟だときく・・・
いとし子、エステルや・・・
お前が、ここと同じように、王宮でも、安心して眠れる様、わしはいつでも、
お前のために祈っておるぞ・・・・・!
・・・我らの神が、祖先モーセに
『わたし自身がいっしょにいって、あなたを休ませよう』言われたように、
このエステルにも、神が同じようにしてくださいますよう・・・
エステルや、
お前には、ドラえもんはいないが、万軍の主、偉大なる神がいてくださるのじゃ・・・」
(ところで、ドラえもんて誰なんじゃ・・・)
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