ペルシャの休日

文字数 2,653文字

「エステル・・・、もう起きんか、エステル!」
「ふにゃ・・もう、たべられないの・・・」
「・・完全に、寝ぼけておる・・・こら、エステル、おきんか!!!!!」
ぐい、っと寝台から押されて、そのまま寝台下に落下した。
べちゃ・・・・・
「おお、すまんエステル!・・・って、まだ起きんとは、豪胆な娘じゃ・・・」
「・・・おきてる、わよぉ、おじさま・・・・
・・・もう少し、親切におこしてほしいの・・
・・・仮にも、うら若き乙女なんだから・・」
寝台から落とすなんて、もってのほかよ。
「・・・うら若き乙女なら、よだれたらしながら、ぐーすかはしたなく
 寝てないでほしいもんじゃて・・・」
失礼ね。
いま、私を起こしてくれたのは、おじの、モルデカイ。
私のお父さんとお母さんが天に召されたとき、私をひきとって、自分の娘にしてくれたの。
すっごく感謝してるんだけど、
すっごく口うるさいというかー、
有難いんだけど、
ちょっと窮屈というかー。

例えば、『女の子がそんなに大口あけてものを食べるなんてはしたない!』とかー、
『女の子が大股で歩くとは何事か!!!!』とか、
『お前のお母さんは、あんなにもおしとやかで、素晴らしい女性じゃったのに(泣)』とか。
すっごい、口うるさいの!
大体、『そんなんじゃ、いつまでたっても、嫁にはいけんぞ!』とかいいながら、
私にちょっかいかけてくる男子をにらみつけたりしてるんだから、
矛盾してるのよねー。

あ、自己紹介がおくれちゃった!
私、エステルっていいます☆
花も恥じらう乙女、16さい☆
身長158センチ、体重は内緒!
趣味は寝ること、食べること、
特技はだれとでも、友達になれちゃうことかなー?

「あ!おじさま、ごめんなさい!
 早く市場にいかないと、ハタクのお店のイチジク売り切れちゃうの!
 ・・いってきまーす!!!!」
「え、エステルー!
若い娘が、顔も洗わんと外に出かけるとは情けない・・・!
着飾れとはいわんが、もうすこし、女らしさを身に着けてほしいもんじゃて。
そもそも、早起きの理由が、イチジクとはの・・・」

おじさまが後ろでぶつぶつ言ってるけど、気にしなーい!
だって、今のわたしは超★特急でハタクのお店にいかなきゃならないんだもの・・!

ハタクのお店は、市場のはじっこ、うっかり見落としてしまいそうな路地にある。
私も、ずっーと、しらなかったんだけど、ここ、けっこう、穴場だと思うのよね!
珍しい果物とか、珍しい食べ物を売ってることがあって、
行くたびに、新しい発見があるの!
おすすめはもちろん、イチジク!
生も乾燥させたものも扱ってるけど、私は生のほうに一票!
なんか、他のお店のものより、味わい深くて、ジューシーなの!
市場のイチジクをおいてるお店は全て制覇した私がいうんだから、
間違いないと思うの!

そんなことを考えてたら、お店を通り過ぎることだった!
あわてて、Uターンしたら、
ドンって、男の人にぶつかってしまったの!
その人、よろけてしりもちついちゃったんだけど、・・ちょっとおおげさじゃない?

「いてててて・・・・」
「ご、ごめんなさい!私ったら、慌ててしまって・・・!」
それでも、申し訳なくて手を差し伸べると、
その手をおおげさに振り払って、たちあがって、
「その目ん玉は飾りか?ちゃんと前むいて歩けよ、おちびちゃん?」
と、嫌味たっぷりに言った。
・・・失礼だわ。
けれど、ぶつかったのは私が悪いから、もう一回、頭をさげて・・・
無視して、ハタクのお店に行こうとしたら、
「おい、俺を無視するとはいい度胸だ・・・」
くいっ。
私の髪の毛をひっぱった。
「ちょっと!なにすんのよ!」
「お前があまりにも礼儀知らずなことをするからだ!」
「さっきのことは謝ったでしょ!」
なんなの、もう!と、その男の人を見上げた。
悔しいけど、かなり背が高い!
ウェーブした、ゆたかな黒髪。
鼻が高くて、眉がきりっとして、イケメンかもしれないけど、
その偉そうなとこがかなりの減点ね!
と、その男の人は、私の顔を見つめて、ぴゅう、と口を鳴らした。
さらに下品だわ!
「まぁいい、お前も失礼で、俺も失礼だった。
これでおあいこだな。」
勝手なことを。
もう本当に無視して、ハタクのお店にむかうと、その男もついてきた。
いいけど、イチジク買ったって、分けてあげないんだから!

「いらっしゃーい!
ああ、エステルちゃん、と・・・?」
えーと、と、ハタクさんが、私の後ろの人を見た。
ああ、と全てを理解したような顔をしたけど、違いますから!
か、彼氏とか、ボーイフレンドとかじゃないですから!

ーちなみに、ハタクさんは、まだ若いんだけど、このお店の店長さん。
優しい顔で、性格も親切なお兄さんなの!

「ハタクさん、今日はイチジク入荷しました?」
「あー、申し訳ない!今日も、一足先に全部、売り切れ!」
「えー、今日こそ、買いたかったのに!」
「ホント、うちのイチジクたちもエステルちゃんみたいな別嬪さんに
食べてもらいたかったんだけど!
政府のお偉いさんの一人が大のイチジク好きでね!
もう、店あける前から、屈強な男たちを並ばせるもんで、怖いのなんのって・・・」
ゆるせない人たちだわ!
と、すると、後ろの男が、あきれたように言った。
「なんだ、人にぶつかってまで慌てていくから、
よほどうまいもんでも買うのかと思ったら・・・」
「失礼ね!ここのイチジクは、ほんっとーに、おいしいんだから!」
すると、ハタクさんが、くすくすわらって、言った。
「エステルちゃんが、そんなにうちのイチジクすきなら、
その彼に頼むといいよ?
彼は、優秀な商人だからね、うちのイチジクは彼がもってきてくれるんだ。」

ええー。
そうなの?

「い、イチジク農家さんだったのね・・・!」
「・・・・ちがう。・・・ちゃんと聞いてたか?
商人だ、商人!」
「イチジク商人?」
「お前、顔はかわいいのに頭は残念だな。」
「か、かわいいなんて、そんなことないわよ!」
そんなこと言われたのはじめて!!
ううん、モルデカイおじさまとか、お店の人とか、
『ほんに別嬪さんじゃのー』とは言ってくれるけど!
お、男の人に、『かわいい』なんて言われたの、はじめて!


「いや、だから、そこだけ切り取るんじゃなくてさ・・・」
その男は、ちょっと、遠い目をして、言った・・・・・
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