あれから、4000年。

文字数 3,442文字

「ーということで、神を求めるのではなく、“神のようになる、”ことを選んでしまったのが、アダムの失敗。そして、この、アダムの神様への不従順は、アダムの子孫である私たちにも受け継がれつづけているわ。」
「これが、“原罪”であり、アダムからはじまった罪の性質、でしょ?
 ーエリサベツおばさま?」
もう耳タコよ、といたずらっぽくわらったのは、私の親戚の娘、マリヤ。
マリヤが、この年老いた私、エリサベツとザカリヤの家に来て、もう三か月になる。本当に、神の奇跡はあるものね、と感慨深く、大きくふくらんだ、自分のおなかに手をあてた。
こんな、おばあちゃんに、赤ちゃんができたなんて。
     
そして、この若い娘、マリヤが神様の力によって、神の御子を宿しているなんて。
そう考えたら、また、おなかの子が―もう、名前は決まっていて、ヨハネという―子が、おなかの中でジャンピングした。
アイタタタ、わかっていますよ、この子ったら、本当に、マリヤの中の御子―イエス様が、大好きなんだから。
あ、あと、いなごね。
いなごのことを思いだしたら、もういなごが食べたくて食べたくて、仕方なくなった。
この数か月の付き合いで慣れたのか、マリアがそんな気持ちを察して、いなごの入った入れ物を渡してくれた。
「・・・エリサベツおばさま、怖い・・・」
いなごをぶぉりぶぉり、かみ砕く私を見て、引くわーという表情をマリアがした。なぁに、あなたもいずれこうなるかもしれないわよ? 
つわりがおさまったら、変なものが食べたくて食べたくて仕方ないんだから。
けれど、不思議ね。エバのときから、女は苦しんで子を産まなければならなくなったのに、今も、女は子どもを産みたい、と願うのだから。
     
―穏やかに、そして幸せそうに大きく膨らんだお腹に手をあてる
(そして、嬉しそうにいなごをかみ砕く、)
年老いた妻、エリサベツと、若いながらもしっかりとした信仰をもち、
『救い主の母』となることを理解して受け入れている、美しい処女・マリア。

二人の、神によって満ち足りた様子を眺めながら、エリサベツの夫・ザカリヤは、
このことのはじまり、を思い出していた。
 ―あれは数か月前、自分たち“アビヤ”の組の祭司らが神殿の仕事に携わっていたときだった。
神殿には、上から下までの大きな幕がかかり、中の至聖所―神に、最も近づく場所には、くじによって、神に選ばれたものしか入れない決まりがあった。
大勢の民が外で祈っている声をききながら、くじによって選ばれた、私、
ザカリヤは、至聖所に近づいた。
着ている、祭司職の、衣に結んでいる鈴の音だけが、この空間に響いていた。
私が動くたびに揺れる、この鈴の音だけが、至聖所で、
私が無事に祭司の務めを果たしていることを、外の民に伝えてくれる。
もし、この音が止んだその時は、私が、神の前に正しくなく、神の御前にふさわしくなかったので、神に打たれ、その息がなくなったことを表す。
もし、私が神に受け入れられなければ・・と、緊張していて、前の人物にぶつかってしまった。
「おっと、これは失礼。」

いや、そんな、まさか。
こ、ここには、選ばれし祭司一人しか入れないのだ!
私のほかに誰か間違って入っちゃったら、
もうえらいこっちゃーというか、民族滅亡しちゃうかもしれない、
えらいこっちゃーなのだ!
私の前に立っていた人物は、光り輝いていて・・
とうてい、この世にいきる人のそれではなかった。
なーんだ、あー、よかった。

よ、よくないぞ!
これは、なんdgjろpが・・・!!!

光り輝く人物―そうか、今、たしかにわかった。
主、の使いー
御使いが、私に、ニコニコして、話しかけてきた。
『こわがることはない。
 ザカリヤ。
 あなたの願いが聞かれたのです。あなたの妻エリサベツは男の子を産みます。』

えええええええ。
まさか、そんな。
万が一、私に神の奇跡がおきて、アブラハーム!な奇跡がおきたとしても、
私の妻はハガルではないし・・・・
あ、アブラハムの奥さんはサラだった!

混乱を極めていたが、なんとか平静を保つ。
名前は、ヨハネとつけなさい、と言われたので、忘れないように
心の中の石版に、
ヨハネヨハネヨハネ・・・・と書き綴る。
最近、物忘れが気になっててのぅ。

『その子はあなたにとって喜びとなり、楽しみとなり、多くの人もその誕生を喜びます。』

それはいいのぅ。
できれば、その、ヨハネ?の、成人式までみたいのぅ。
 
『彼は主の前にすぐれた者となるからです。
 彼は、ぶどう酒も強い酒も飲まず、まだ母の胎内にあるときから
 聖霊に満たされ、』

・・・エリサベツは当分、禁酒じゃな。

『そしてイスラエルの多くの子らを、彼らの神である主に立ち返らせます。』
御使いは、自分の言葉に勢いづき、しまいには、
香壇によじのぼり、みゅーじかるすたーのように、高らかに言った。
『彼こそ、エリヤの霊と力で主の前ぶれをし、
 父たちの心を子どもたちに向けさせ、逆らう者を義人の心に立ち戻らせ、
 こうして、整えられた民を主のために用意するのです!!!!』
  
ーぱちぱちぱち。
御使いが、セリフを言い終わり、『拍手!』みたいな目でこちらをみたので、
とりあえず、拍手をおくった。

そして、気になることを尋ねた。
 「あの・・・それって、どうやったら、わかりますか?
  私は年寄ですし・・妻も年をとっております・・。」

・・・・・この年になっても、なかなか口にだせないものである・・・
・・私のぶらーんが、こう、幕屋―!みたいにピンとしますか、とは・・・

御使いは、私の思考がわかったのか、微妙な顔をして、言った。
『・・・私は、神の御前に立つガブリエルです。
 あなたに話をし、この喜びのおとずれを伝えるように遣わされているのです。
 ですから、見なさい。
 これらのことが起こる日までは、あなたはものが言えず、
  話せなくなります。』

え!
げ、下品なことを言おうとしたからですか????!

御使いガブリエルは、首をふって、言った。
『私のことばをしんじなかったからです。
-私のことばは、その時が来れば実現します。』

そう言って、御使いは姿をけした。

神殿の、外にいる民は、あまりにも時間がかかったのと、
私が急に言葉を発することができなくなったので、
私に神が特別なことを示されたのだとー悟ったようだった。
そして、務めの期間がおわり、私はエリサベツのもとに、帰った。


―あれからずっと、
私は、ハンドサインとジェスチャーの研究に励んでいる・・・!

『エリサベツ!エリサベツ!』
くいくい、とエリサベツの服をひっぱる。
「あら、ザカリヤ、どうしたの?」
『私も』
自分をさす。
『空腹です!』
自分のおなかを指差す。
「あらあら、あなたのおなかには、ヨハネはいませんよ?」
『ちーがーうーだーろー!!!』
今度は、両手をおなかにあて、悲しい顔をする。
『アイム、はんぐりー!』
「わかった、あなたも いなごが食べたいのね!」
『なんでやねーん!!!』

・・・私、ザカリヤが、書き板、なる存在を知るのはもう少し、あとのことである・・・・!


月が満ちて、エリサベツはかわいい、男の子を産んだ。
本当なら、立ち会って、「はぁーい、ぱぱでちゅよー」と
待ち望んだ、いとし子に声をかけたかったのに。
この舌が動かないことは、返す返すも残念である・・・・

人々が、名前をたずねて来たので、はりきって、書き板に書いた。
本来なら、父・ザカリヤから名前をとって、この子にも『ザカリヤ』と
つけるところだが、今回はそうはいかない。
なぜなら、神が、この幼子の、名づけ親なのだ。
ちゃんと、名前は覚えて居る
あのとき、心の石版にしつこく、書き連ねたからな。

    『彼の名は、 はねよ。』

エリサベツが、ものすごい顔をして、言った
「ちーがーうーだーろー!このは○―――」
まことに、まことに、いかんである・・・・!

急いで書き足したが、おかしな名前が伝聞されないか、ハラハラするのぅ・・
     『彼の名は、 よはねよ。』
    
     
そのとき、私の舌がほどけ、私はこれからの後のこと、、
 我々の神の計画をかいまみ、預言したのであった。
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