第7話

文字数 2,260文字

戦友【神風特攻隊編】7
開戦から3年。
ミツジの食堂は、開戦から1年で団子屋になったが、今ではつぶれてしまった。
ミツジも、軍事工場で働いている。

佑ジャンも、同じ工場だ。
もともと、兵士の食事係だったので、成り下がったと言える。
ミツジとは、出勤時間は少しずれていた。
「あ、おはよ‥。」
悲しみで、ミツジの声は、かすれていた。
「うん、おは‥。」
佑ジャンは、60年後に流行る、「おはー。」を、この頃から使っていた。

お昼の時、ミツジは、少し元気になって言った。
「ユウジさんのまわりの方、まだ誰も亡くなってないんですね。」
「そうだね。これはいいことだ。」
佑ジャンは、目をぱちくりさせた。

「あの、俺の名前、佑ジャンって分かってるよね?」
「知ってます、一応。」
「そうなんだ。」
佑ジャンは、また目をぱちくりさせた。

「いつか、行っちゃうんですか?」
ミツジは、佑ジャンを見た。
「行かないよ、俺は。」
「行かないとか、許されるんだ。」

ミツジの歯に何かついていたが、佑ジャンは無視した。

今は9月だ。9月でも、結構、人が死んでいるので、涼しい。
神風特攻隊の訓練が行われていた。

佑ジャンは、飛行機操縦もうまかったが、巧が外してしまった。
巧は、佑ジャンを死なせるつもりはなかった。

いずれは、カミカゼとか、そうゆうことになるんだろうなと、予想していたのだ。
巧は、夏に富四郎を見かけた。
富四郎は背を向けたが、巧が、「富四郎!」と呼びかけると、一瞬固まり、また歩いて行ってしまった。
巧は気づかなかったが、その後も富四郎は、影から巧を見ていた。

10月21日。最初の特攻が行われた。従道もメンバーの1人だった。
雨のため、メンバー全員が帰還した。

10月23日。その日のメンバーは、戻らなかった。

4回目の特攻では、サンショウウオ博士が指名された。
「え‥なんで僕が。」

なぜなら、他の者達は、下を向いて、本当におびえていたのだ。

「行きたくありません。」
サンショウウオ博士は、即答した。
「なぜだ、これは天皇の命令だぞ。」

サンショウウオ博士は、皇族の末裔だったが、天皇のことを奇人と呼んでいた。
「行け、行かんか。」
巧は、サンショウウオ博士をぶった。

「俺が、代わりに行きます。」
ヤマが言った。
みんなヤマを見た。

「わかった。お前はもういい。」
巧は、サンショウウオ博士に吐き捨て、了承した。
他の者は、本当におびえていた。
巧にとってこれは、魂の問題だった。

ヤマはいつものように、過ごした。
お別れを言う相手もいない、つもりだったが、当日の朝、マロが部屋をのぞいた。
「死ぬなよ。」
「死ぬよ、死ぬに決まってるだろ。」

マロは泣いて、行ってしまった。
リンチルや伸、トウナも来た。
「死ぬってホント?」
「嘘でしょぉ。」
トウナが、ヤマにハグをした。

玄関で、大ちゃんに会った。
「なんで?」
「行ってきます。」
「戻らないなら、言うなよ。」

「ちょっと待ってくださいよ。」
大ちゃんは、ヤマの手をとった。
振り返ったヤマの目は、赤くなっていた。
涙が一筋こぼれた。

「イクンデスカ。ワタシがどうなることか。」
白人スパイのミルは、玄関の前で座り、ヤマを見上げた。
「大丈夫、こいつらが守るから。」

「行く場所は、みんな同じ所です。多分ね。」
ミルは、立ち上がって、ヤマの顔をのぞきこみ、言った。
「そっか、そうだな。」
ヤマは答えた。

兵士達の顔色は、とても良くなっていた。
ヤマに勇気をもらったのだ。
みんな敬礼をした。

サンショウウオ博士は、ヤマの前に来て、敬礼をした。
巧と大西も、敬礼をした。

最後に、ヤマが、敬礼をした。
飛行機に乗り込む時、ミンク(民)が来た。
「お兄ちゃん!!行くってなんで言ってくれないの。」

ヤマは笑い、飛行機から降りた。
「ごめんごめん。」
「手紙、書いたから。」
ミンクは手紙を渡し、ハグをした。
耳元で言った。
「これは、手紙じゃなくて、レターだからね。」
「う、分かった。」
最後のヤマは、いつもの調子だった。

敵の艦隊の近くまで来た。
あと20分で、突撃する。

ヤマは、ミンクの手紙を広げた。

紙の上に、米粒でチョコレートが貼ってあった。
チョコレートは、禁止されている。

「うまい。」
ヤマは、チョコレートを食べた。
紙の上には、何も書いていない。

「何もないじゃないか。」

『人殺しはNo』
紙の裏に、書いてあった。

ヤマは、息を飲んだ。
子供の頃のことを、思い出した。

「人殺しが、この世で一番悪いことだぞ。」
「うん、わかった。」

『だってバレないだろ、殺さなくたって。』
ミンクの声が聞こえた。

ヤマは、殺さないよう、操縦し、落ちた。

ヤマは、バラバラになった。

バラバラになった目で、空を見上げた。
目を動かしたが、体が見えない。

「死んだんだな。」
しばらく、空を見ていた。
かもめが、飛んでいる。
「つつくなよ。」
ヤマはつぶやき、目を閉じると涙が出た。

3時間後、また目を開けた。
「なんだ、まだ生きてんのか。」
でも、だんだん、青がわからなくなり、白と黄色の世界になってしまった。

「おーい、おーい。」
マロ達が、海辺で呼んでいる。
「ヤマー!!」

「あ‥。」
声を出そうとしたが、出なかった。

「そろそろ海から出たい。」

浅瀬で、立ち上がった。
でも、ヤマは死んで、今は透明人間なので、仲間からは見えない。

「なんでヤマが死んだんだよ。」
トウナと大ちゃんが、泣きながら倒れこんだ。

みんな泣いた。

「ヤマさん!!」
サンショウウオ博士は、海に向かって叫んだ。

ヤマが伸の肩にふれると、伸は振り向いたが、首をふった。

みんなとても悲しいが、夕日はとても綺麗で、生ぬるい風が南国のようだった。


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