第12話

文字数 18,092文字

戦友 【沖縄地上戦】
黒い海。
夜の海を、顔だけ出して、泳ぐ男の影。
ライトをつけた戦闘機が、上空を通った。

5月18日。
もうすぐ沖縄に行くことになった佑ジャン達。

「僕、この季節が一番好きです。」
「そっか。俺は冬だな。」
「え‥どうしてですか?」
「寒い方が好きだからだよ、俺は。」
日比野と高選手は話した。

みんな戻り、晩御飯を食べた。
特製料理を、佑ジャンはみんなに盛った。

アハハハハ!
これから戦争に行くとは思えないほどに、にぎやかだ。
大西賽、権藤巧、ムティは、隅の席で食事をとっていた。

「巧さん!」
ムティを呼ぼうとした佑ジャンは間違えて、巧を呼んでしまった。
「ん。」
巧は顔をあげ、大西もこちらを怪訝そうに見た。

ミツジとナツ、佑ジャンはこそこそ笑いあった。
小声で、「ムティさーん。」と言うと、「はいはい。」とムティが3人の下に来た。

ムティは、しゃがんでテーブルに肘を乗せた。
「何。子供じゃあるまいし。」

「いや、一緒に、ご飯、食べたいなーって。」
「一緒に?うーん、いいよ。」
ムティは自分の食事を、3人のテーブルに持ってきた。

ムティが食べ終わり、マロとリンチルが話しかけた。
「なんか、お前達、ムティさんと仲良いよな。」

「えっ、別に普通だよー。」
「まあ最初は、見下してましたけど、カミカゼで戻ってきたのは、すごいですよね。」
「お二人も‥ムティさんと仲良くできますよ。」
ナツ、ミツジ、佑ジャンが言った。

「そうそう、仲良くしとけ、死ぬ前にな。いいか?もうすぐ地上戦だぞ。」
伸が、突然立ち上がりながら言った。

「え?あの人、またどうしちゃったの?」
トウナが言った。

「さぁ~。怖いなら、行かなきゃいいのにね。」
リンチルが言った。
あははははは、4人とも笑った。

「でさ、なんで戦争してるんだっけ?」
「だからぁ。日本から乗っ取られるからだよ。」
マロが聞き、トウナがつっこんだ。

「ん?日本から?」
マロが聞いた。
リンチルと大も固まり、大西も巧もこちらを見た。

「あっごめん。日本が、乗っ取られるからだよ。」
「あ、そっか。」

「‥てかマジで、死んだらどうしますか。」
大ちゃんが聞いた。

「え‥。」
「いや、この中の誰かが死んだらさ、一応、亡骸は保守ってことで。」
リンチルとマロが言った。

「えっ、死ぬつもりなのぉ?!嘘でしょ。」
ないと思う、トウナは笑った。

4人は酔っているかのように、基地での最後の晩餐を楽しんだ。


夜8時の船で沖縄を目指した。沖縄までは30時間かかるので、到着は明後日の夜2時になる予定だ。
途中、みんな船を降り、泳ぐことになっている。
マロは外に出て、風に当たった。

リンチル、大、トウナも隣に来た。

「はぁ~。いよいよだな。」
「そうだな。腹は大丈夫か。洗濯は出来ないからな。」
「うん。」
マロのお腹を、リンチルは心配した。

「出そうになったらさ、腹を抑えな。」
「うん‥。」
「でも、それって、逆効果になりませんか。」
トウナと大ちゃんが、言った。
すると、巧が来て、海にむかって嘔吐のようにした。

「巧さん‥。」
「大丈夫ですかっ!」

巧は何も言わず、行ってしまった。

到着の1時間半前。
巧は何もなかったかのように、みんなに指示を出した。
「降りるぞ。荷物は、俺と大西君が持つ。」
みんな、大きな荷物は、明日、船で沖縄に来るムティに頼んであった。
ムティは、ハーフ顔だからだ。

巧は、防水の大きな袋に荷物を入れた。

みんな一人ずつ飛び込んだ。
高選手と日比野は、飛び込み、かなり深くまで潜ったあと、また上がってきた。

さっきから、雨がパラパラと降っていたが、少し泳いでいると、サーっと降ってきた。

巧は調子が悪そうだ。
「大丈夫ですか。」
日比野が声をかけた。
「よければ荷物‥。」
「いや。」
巧は首をふった。

「荷物、持ちますよ。」
高選手は、巧から無理やり荷物を奪い、夜の海を泳ぎ始めた。

「ミンク、足痛いの、大丈夫か。」
ミンクの世話係の伸が、泳ぐミンクに声をかけた。
「うん。」
ミンクは、犬かきのような泳ぎだ。

巧はゴーグルを外し、鼻まで海にいれた。
泣いてしまっていたのだ。

「ヤマがいないなんてな。」
「俺達がー‥ヤマになるしかないでしょ。」
マロとリンチルが言った。

到着は3時になってしまった。
すでに沖縄にいる、日本軍が、基地に案内してくれ、次の日の朝8時頃まで、みんなゆっくり休んだ。

リンチルは、ムティを迎えに行くことにした。
「別に、寒くないね。服、沢山入れちゃった。」
リンチルは言った。
佑ジャンは、乗馬服を持ち込みたかったが、ムティに止められたので、そのことを思い、少し視線を落とした。

晴れていたのに、雨がふってきてしまった。

「リン、でてるぞ。」
マロが鼻を指した。
「うそ。」
「うそ。」
「こんな時にやめて。」

「もう死ぬんだよな。」
マロは言い、リンチルをハグした。
「いや、まだ分かんないでしょ。」

佑ジャンはその様子を、ニヤニヤしながら見た。

すると、巧と大西が来た。
巧は、『下がるように。』と目と手で合図し、3人は木の影に隠れた。

しばらくして、ムティの船が到着した。
イギリスの国旗を立てている。

すると、日本軍にスパイとして来ていた黒人のロイと数人の米兵が来た。

「もうダメだからね。」
ムティは船で、ミルに言った。
「あの‥。」
「ううん。大丈夫。俺から言っておいてあげるから。」
ミルは、訳が分からないという感じでムティを見た。
「行って。」

ロイが来て、ミルの腕をとった。

多久、リンチル、佑ジャンは木の影から、様子を見守った。

巧と大西は、米兵達と話している。
すると、米兵が、巧と大西にピストルを向け、2人は両手をあげた。
他の米兵が止め、米兵達はミルを連れ、行ってしまった。

多久は悲しげで、リンチルと佑ジャンは訳が分からないという感じだった。

基地に戻り、みんな昼食をとった。でもとても軽い。
「でも、サトウキビが食べられるんだろ。」
「あー授業で言ってた。」
マロが言い、トウナが答えた。
「えっ、何それ。」
マロは言い、大ちゃんはトウナを小突いた。


ナツは基地に入ってきて、信じられないという表情で佑ジャンを見た。
「え‥。」

ナツは、佑ジャンに、言った。
「ムティさんのこと。」
「うん。」

「米兵といたんだろ。」
「うん。」
「ナツ、あんまり言うな。」
リンチルが言うと、ナツは頬を赤くし、行ってしまった。

夜。寝床は集団二段ベッドだが、佑ジャン、ミツジ、ナツは同じコーナーだった。
ナツは口を聞いてくれない。
後ろを向いたまま、少し泣いているようだ。

朝、ナツの機嫌は直っていた。

巧は具合が悪いようで、大西が心配していた。


次の日。
「何やってんの。?」
朝食を食べていたムティが顔をあげた。

「ナッチ、止めよ。」
佑ジャンが来て、ナツを止めた。


ムティは、無表情でそれを見て、少しうつむいた後、また食べ始めた。


「なぁ、思うんだけどさぁ‥なんかおかしくないか?」
マロがリンチルに言った。
「おかしいって何が。」
「いや、ムティさんのこともそうだし、トウナと大さぁ、なんであんな、いろいろ知ってんの?」
「さああ。えっ、トウナと大、そんな知ってるかな?」
「なんか、俺達は未来を知っている、みたいな感じじゃん。」
「うーん‥。」
リンチルは首をかしげた。

トウナと大が、戻ってきた。

「どうだった?」
リンチルが聞き、トウナが答えた。
「ん。ナツはぁ、巧さんと話すって。」
「ふーん。」

マロは、リンチルに何かを耳打ちした。

「この後、見回りだそうです。」
大ちゃんが言った。
「うん。何時から?」
「えーとね、2時。」
リンチルが聞き、トウナが答えた。

「ふーん。じゃ、俺達、遅くなるわ。」
マロが言った。
「えー。何時くらい?」
「うーん、分かんない。」
「そんな適当でいいの?これって仕事なんでしょ?」
「仕事、じゃねぇよ。金が一銭も入らないんだぜ。仕事って言えるか?」
「まぁ、こんな時代だし、仕方ないんじゃないの。」
マロとトウナが話し、リンチルと大も、飲み物を飲んだりして、無表情で見守った。

「ねぇ、これはさ、お国のため、未来のためじゃん。」
「未来って何?いつ地球が滅亡するかも分からないのに、トウナさんには、未来が見えるのですか?」
「いや、見えるわけじゃないよ。」
「じゃ、なんなんだよ。」
マロはコップに手を伸ばし、両手で持ち、ゆらゆら揺らした。

「‥大ちゃんとトウナはぁ、もしかして未来から来たの?」
リンチルが聞いた。
トウナと大は、言葉を失い、視線を交わした。

マロが笑って、リンチルを手でたたいた。

「いや、違うって。」
トウナが言った。
「そうなんだろ。」
「違いますよ、そんなことあるわけないじゃないですか。」
大ちゃんも嘘笑いした。


「じゃ、俺達、遅くなるから。」
マロとリンチルは、意味ありげに笑い、出て行ってしまった。

「今のホントの話?」
食べ終わり、部屋を出た大に、ハリーが聞いた。

「えっ?いや、嘘です。」
大ちゃんは振り向いた。

ミンクも、トウナをゆらゆらさせて聞いた。
伸も後ろで見ている。

「はい、もう行きましょ~。」
高選手が来て、ミンクとハリーを止めさせた。


沖縄の民間人は、良い人もいたが、サルのような乞食になってしまっている人もいた。
アメリカ軍は戦争を終わらせるため、日本軍は国を守るために、沖縄に来ている。
不必要な殺生はいけないという決まりだった。
しかし、サルになってしまった民間人が、アメリカ軍のテントを燃やしたりしていたので、アメリカ軍から苦情が来たのだ。

「それにしても、変な時代だよな。」
高選手が言った。
日比野は高選手を見た。

みんなで、民間人の家を見回りに行くことになった。
危険なサルもいるので、集団だ。

庭で魚を焼いたりしている。
お母さんの背中におぶわれた男の子は、今にも落ちそうになっている。

「えっ、その子、生きてますか?」
佑ジャンが聞いた。
「あっ、はい。」
佑ジャンが近づくと、男の子はあくびをしたので、佑ジャンはホッとした。

「なんかヤマに似てるな。」
マロとリンチルが現れて、マロが言った。
「あー、ホントだ。」
リンチルも、男の子の頬をさわったりした。

男の子のお父さんも現れて、日本軍に挨拶をしたりした。

「こんな平和な暮らしを壊す戦争なんて、もう止めた方がいい。」
マロは遠い目をして言ったので、トウナが覗き込んだ。

夜。
ナツは泣きはらした目で、佑ジャンとミツジの下に来た。

「ナッチ、大丈夫?」
「うん。俺、病院に行くことにしたから。」
「病院に?」
「うん。手伝いに行くことにしたんだ。」
「そうなんだ。」

「それでさ。巧さんが、佑ジャンとミツジも行くように言ってたから。」
「ふーん。」
「でも、俺達、医療のことなんて、全然分からないから、無理だよ。」

「兵士なんだよ?」

「うん‥。」

「先輩達と一緒に、行動しよ。」

ナツは、病院行きを諦めた。

夜。
「綺麗だよな、月。」
トウナが言い、大は目を落とした。
こちらの世界に来て、丸4年がたってしまったのだ。

この時代のトウナと大は、おそらく、現代にいる。

雷が落ちた夕暮れに、入れ替わってしまったのだ。

「いつ、戻れると思う?」
トウナは聞いた。
「戦争が終わったら、また同じ場所で、試してみませんか?」
大が言うと、トウナは泣きながら言った。
「その場所で、また雷が落ちるか分からないじゃん。」
「落ちそうな時に、行けばいいじゃないですか。」
大が言うと、トウナは泣きながら、ため息をついた。

「だけど、生き残るかも分からないのに。」
「それは、仕方ないことじゃないですか。」
大は怒って遠くを見た。

トウナは部屋に入ろうと背を向けると、影に伸がいた。
「伸。」

「別に。未来の伸さんと、同じですから。」
大は冷たく言った。


次の日の朝、ミンクがトウナにしつこく聞いた。
「未来から来たってホント?」
「ちがう!あるわけない。」
「でも、昨日言ってたじゃん!」
「しつこくしたら、ダメだよ。」
大ちゃんも冷たく言った。

「もういいだろ、な。」
伸が来て、ミンクを止めた。
ミンクは怒って黙っている。

佑ジャンとミツジは、その様子を心配そうに見守った。
「よ、どうした?」
高選手が来て、話しかけた。
「ミンクが、トウナさんと大さんが、未来から来たって言ってるんですよ。」
「え‥。」
佑ジャンが言うと、高選手は一瞬、言葉を失った。
「そんなわけないだろ!」
「ですよね?僕もそう思います。」
佑ジャンはすぐに納得したので、高選手は胸をなでおろした。

その後はみんな、それぞれの部署についた。
「ハリー君と藤田君が見当たらないんですよ。」
「えっ、マジ?」
「はい。本当です。」

「あー、じゃ、俺と日比野が探してくるわ。」
「ちょっと待ってくださいよ、俺も行きます。」
マロが言い、マロと高選手と日比野は、ハリーと藤田君を探しに行くことになった。

「おーい、ハリー!藤田君!」

ザザ。
3人は立ち止まった。

「何でしょうね。」
禮は言った。

そっと近づくとハリーが、しゃがんでいた。
「ハリー。」
「あ‥。」

「藤田君。」

「僕が目を離したすきに、撃たれて。」
「そんな。」

藤田君は亡くなっていた。

「多分まだ‥。」
パン!!
ハリーが言いかけた時、米兵が撃った。

ハリーはゆっくりと倒れこんだ。

「あ‥そんな。」
しかし、ハリーはまた起きた。
「よかった。」
日比野とマロは、米兵を探した。

「おい。」
高選手が2人を呼ぶと、ハリーは口から血を出し、倒れてしまった。

高選手は怒って、何発か撃ったので、米兵は逃げた。

「とにかく、基地に戻りましょう。ハリーだけでも。」
日比野はハリーを背負った。

早足で基地に戻る途中、何者かがまた撃った。
マロが振り返ると、おばあさんが構えている。

「え‥。」
その人は、見回りの時に、マロが優しくしたおばあさんだった。

パン!パン!
おばあさんは撃ってくる。
高選手がおばあさんに向かって、何発か撃ったので、おばあさんは銃を落とした。
その間に急いで逃げたので、その後、おばあさんがまた撃っても、4人には当たらなかった。

「はあ‥。」
マロは心が震えてしまっていた。

ハリーは、医者の石谷先生が手当し、一命をとりとめた。


夜、マロは、今日あったことを、たき火のまわりで、涙目になり、リンチル、冬納、大ちゃんに話し、他の者達も聞いた。

「服が汚れてたからさぁ、俺の服をあげたおばあさんいたでしょ。」
「うん。」
「その人の家の掃除もしてあげた。」
「うん。」
「撃ってきたのは、そのおばあさんなんだよ?」
「ええ~。」
「それはないでしょ。」
「ホント。高選手、ホントですよね?」
「うん。」

「ヤバいね。」
みんなうつむいた。
かわいそうだね、冬納が言い、4人はこそこそと話した。

「マロさんの話、ヤバくない?」
佑ジャンは言った。
ミツジとナツもうなずいている。

「なんでかな。」
「さぁー。」
ミツジは言った。

星がとても綺麗だった。
佑ジャンは星を見て考えた。


マロは、お婆さんとのことを、回想した。

「ね、なんでだと思う?」
ナツが聞いたので、佑ジャンはハッとした。

「ん~。」

自然がある場所にいると、感性が豊かになる。
芸術をやるなら、田舎がいい。心が整うからだ。

おばあさんも感性が豊かな人だった。
マロに優しくされ、歌を作った。

うまくは言えないが、完成されていない人が芸術作品を作ると、狂気を生んでしまう場合がある。
マロを狙ってしまったのは、そのためだ。


「巧さん、大丈夫かな。」
ナツが言った。
「えっ、巧さん、どうかしたの?」
「なんか、熱があるんだって。」
「そうなんだ。」
佑ジャンはうつむいた。

巧のことより、ムティと自由に馬に乗れないことを、佑ジャンは悲しく思っていた。
その頃、ムティは、大西と英語で会話していた。


朝。
「巧さん、かなり具合が悪いらしい。」
朝食の時、ナツが、佑ジャンとミツジに言った。
「ふーん、大丈夫かな。」

「巧さん、髪の毛がもともと茶色だから、黒く染めてるんだって。前に言ってた。」
「え、そうなの?」
「うん。」

「ムティも、イギリス人との、ハーフらしい。」
「へえ、そうだったんだ。」

ムティが部屋に入ってきた。

「ムティさーん!」
ムティは笑顔でこちらに来た。

「どう?」
「普通。」

「ハーフだったの?」
「俺?ああ、そうだよ。」
「知らなかった。言われてみれば、ハーフに見える。」
「うん。」
ムティも、朝食を食べ始めた。

「な、巧ってやつ、ヤバいの?」
マロが多久に聞いた。
「はあ?何。」
「だからぁ。みんな言ってんだろ。巧さんがヤバいって。」
多久は鼻で笑った。
「お前、何も知らないんだな。」
多久はマロを冷たく見て、行ってしまった。

「おい、何をぽかんと立ってる。」
リンチルが、マロに声をかけた。

「なんかあいつ、冷たいよな。」
「戦争中だぞ。当然だ。」



「見回り行くぞ。」
高選手、ナツ、リンチル、佑ジャンは、見回りに行くことになった。

「俺と日比野が、いつもペアってわけじゃないんだからな。」
「はい。」
佑ジャンは返事をした。

途中の道で、町人のおばあさんが亡くなっていた。
「ああ‥。」

高選手はきょろきょろし、首をかしげた。

「高選手、こっち!」
ナツが呼んだ。

4人は茂みに隠れた。

「え‥。」
佑ジャンは息を飲んだ。

小さな洞穴の出口で、米兵は銃を構え、中にいる日本人を呼んでいたのだ。

「お前達はここにいろ。」
高選手は小声で言い、前に出た。

「え‥。」

「ハロウ。」
高選手が声をかけると、米兵は英語で何か言いながら、銃を向けた。

高選手は両手をあげ、英語を話した。
「アイム コウ・タカバ。I call the Japanese in there, now.」


米兵は、銃で行けというジェスチャーをした。

高選手は洞穴に入った。

「お~い、誰かいるかぁ。いないならいいぞ。」

パッ。
洞穴の奥で、明かりがついた。
お爺さんが、亡くなった女の子を抱いて、そこにいた。

「ああ‥おじいさん。」

「おい、他に逃げ道はないのか?」
おじいさんは首をふった。

米兵は、出なければ燃やすと言っている。

「女の子を。」
高選手は、亡くなった女の子を抱っこした。

パン!!
米兵は外で銃を撃ち、数を数え始めた。

「影に隠れよう。」
高選手は言ったが、お爺さんは外に向かって行ってしまった。

パン!!
高選手は、目を閉じた。
外の米兵のダンビは、村人に親友を殺され、おかしくなっていたのだ。

機械音がする。

高選手は、体を小さくして、さらに岩影に入った。

洞穴に炎が放たれた。それは何度か続いたが、終わった。

ナツ、佑ジャン、リンチルは震えあがった。

10分後。
黒いすすがついた高選手が、女の子を抱えて、洞穴から出てきた。

「高選手‥!!」
高選手は泣き崩れた。撃たれたおじいさんは亡くなっている。

佑ジャンは、米兵達が行った方向を眺めた。
米兵達は、赤い顔をして、とても苦しそうだったからだ。

「埋葬しよ。」
ナツは言った。

「そだな。」
高選手は泣きながら答えた。

マロ達も来て、埋葬を手伝った。

夕食の時、高選手は、また泣いた。
「おかしいよ。この食事だって、アメリカからもらったものだろ?」
高選手は、英語が書かれた缶を握った。
日比野はうなだれた。

みんな、シーンとした。

「なんておかしな時代なんだよ!!」
高選手はテーブルをバンと叩き、音を立てた。

「明日も見回りありますけど、俺達が行きますから。」
ムティが高選手に言った。
「うん‥俺はもう行きたくない。」

佑ジャンは、その姿をじっと見つめた。


早朝、巧はうなされていた。
そこには、まだ軍に入りたての16才の自分がいた。

「ルーター。兵士になって、何がしたいの?」
16才のクロウド・スワロスキーが聞いた。
「うーん。ただ、人を殺すことは、したくないかな。」
「人殺しはダメだって言ってたじゃん。先生が。」
「うん。そうだよね。」
ルーターは、目を落とした。

次は28才になった時の自分だ。
「ルーター。日本に行くってホント?」
「うん。日本人みたいな顔だから。」
「ええ‥、本当だったんだ。」
クロウドは口に手をあてた。左手の中指には、黒い指輪をしている。
「それって、スパイとして?」
「うん‥。」
巧はうつむいた。

次は、出発の時だ。
「ルーター!」
船に乗り込もうとした巧は、振り向いた。
「クロウド。ハワイに行ったと聞いていたぞ。」
「ハワイには行かない。」

「だって、日本は、そこを狙えばいい。」
クロウドは巧にハグをし、言い、そして離して言った。
「本土には、影響ない。」
「うん。」
巧はうなだれた。
「お前の彼女のクリスティアラにも影響はない。」
「うん‥。」
「クリスティアラは?今日来てるの?」
巧は首を振った。
「えっ。」
「別れたんだ。」
冷たい風が、巧の髪をなびかせた。

「そっか。」
クロウドは鼻を赤くし、目をそらした。
いつか、ルーター(巧)とクリスティアラの結婚式で、スピーチをすることを夢見ていたのだ。
「では、これを。」
クロウドは中指の指輪を外して、巧に渡した。
「大切なものを。」
「お前ほどじゃない。」
汽笛がなったので、巧は急いで船に乗り込んだ。
その指輪は、憧れの中東の物だった。
まるで、魔法がかかったような、不思議なマークが書いてある。

その指輪は、落下傘訓練の時、巧が誤って海に落としてしまった。
沖縄で見回りの時、クロウドを見かけた。
目が合ったが、クロウドは、巧が、他の米兵達に見つからないようにして行ってしまった。


「ミツジも見回り行く?」
「いや‥。」
「行こ。」
佑ジャンとナツは、ミツジを見回りに誘った。


「よし行くか。」
ムティは仕度をし、大きな水筒を肩から下げたが、巧と大西が止めた。
「いい。今日は、我々が行く。」
「え‥。」
「ムティ君、君はよくやってくれている。」
大西もうなずいた。

2人は、地上戦の本線が始まる前に、死にたいという気持ちがあったのだ。

「大丈夫かい?今日は我々も行くからね。」
大西は、佑ジャン、ミツジ、ナツに笑いかけた。
「はい、よろしくお願いします。」
佑ジャンが返事をした。

「それにしても、すごい日差しだね。」
大西が手をかざして、空を見た。
6月に入り、夏が本格化していた。

日比野と多久も行くことになった。
「あの‥全然、覚えてないんですか?」
「え、なんのこと?」
「マロンさんのこと‥。」
「マロン?マロだろ。」
「そうです。」
日比野は笑ってしまった。

「いや、俺は、この時代の人間だから。」
「そうですか‥。」
日比野は悲しげに笑ったまま、目をふせた。
ザッザッザッ
巧は1人、大股で歩き、茂みから銃を向けた。

「ふん。」
巧は銃を下した。
「どうしたんですかっ?」
佑ジャンは、巧にかけよった。

「いや、何もない。」
「そうですか。」
佑ジャンは、胸をなでおろした。

大西は耳に手をかざす、目を閉じた。
「巧さん。こっちだ。」
「ああ‥。」
巧は走った。
「ついてこなくてもいい。」

「えっ?」
佑ジャンとミツジ、ナツは一瞬立ち止まった。

巧は走り、茂みから銃を構えた。
多久と日比野、大西もそれにつづいた。

佑ジャンとミツジ、ナツは、顔を見合わせ、後ろにただ身を潜めた。

一人のお婆さんが逃げ、米兵が追っている。
パン!パン!
お婆さんは玉をうまくかわしていく。
巧達も茂みの中から、後を追った。

広場に来た時、お婆さんは転んだ。

米兵は英語で言い、銃を構えた。
「隊長の仇をとる。」

巧は両手をあげ、前に出て、英語で聞いた。
「What is this old woman?」

「誰だ、お前。」
米兵は、巧に銃を向けた。

「婆さんが何をやったか聞いているんだ。」
巧が強い口調で聞いたので、米兵はひるんだ。
この米兵達は、前に旧友のクロウドを見た時に、一緒にいた兵士達だったのだ。
「俺達のリーダーを殺したんだ。」

「そうだったか。リーダーの名前を教えてくれ。」


「クロウド・スワロスキー。」

パン!!
巧は、間髪入れずにお婆さんを撃ち殺した。

米兵達はひるみ、逃げた。
大西は、茂みから出てきた。

「巧さん、今、何を‥?」
巧は目をそらした。
佑ジャン達は、驚いて巧を見つめた。


「すみません。僕は帰ります。」
夜、ナツは言った。
「ちょっと、帰るって何?変なこと言わないでよ。」
佑ジャンはナツの肩をつかみ、言った。

高選手が来て言った。
「ナツ、まずは一晩寝て考えろ。」
「うん‥。」

その後、昼間のことを忘れたかのように、巧が集合をかけた。
しかし、よく見れば、巧は泣いた後の顔をしていた。

「アメリカから暗号が届いた。最終戦は6月20日からの5日間になる。」

「ええ?たったの5日間で?」
佑ジャンは言った。

「いいな!みんな備えるように。」
巧は冷たく言い放った。



6月18日。
ナツは、大西や巧にこそこそと話し、先に帰ることにした。

「ね、ごめん。先に帰るから。」
作戦会議をしていた佑ジャンとミツジの所へ、ナツが来たが、2人はそっけない態度をとった。

「な、ここ。お前とミツジ、2人で守れ。ナツがいないなら、仕方ない。」
マロが言った。
「え‥。」
「大丈夫。ここに、俺とマロがつくから。」
リンチルも言った。

「うん‥。」

高選手が来て、説明した。
「いいな?じゃあここは、俺と日比野。こっちは、伸とミンクと多久。」
「うん。」

「もしも、こっちから敵が攻めてきたら、マロとリンチルがこっちに移動して、応戦しろ。」
「はい。わかりました。」

「ちがう!」
巧がさえぎった。

「マロとリンチルは、始めからここにいろ。」
「ええ?それでは危険すぎます。」
日比野が言った。

「ダメだ!!そんなぬるい作戦をしたら、一日で、軍は全滅になる!!」
巧が言った。

ちっ。
高選手が、舌打ちをして言った。
「殺したいんですか?俺達のこと。そんな場所にいたら、すぐに敵に撃たれてしまう。」
「いや。この場所を守ることが、今回の地上戦で最も大事なことだ。」

「最も大事?」
高選手は言い、首をかしげた。

「じゃ、そこ、俺がやりますよ。」

巧は、本月を見つめた。
「わかった。じゃ、マロとリンチルはこの場所にいろ。」
巧は、まだマシな場所をさした。

大ちゃんとトウナは、無言で巧を見つめた。

「ねぇ、本当にいいの?」
佑ジャンがナツに聞いた。
「はい‥ちょっと、腹の調子が悪くて。今日の船で帰ります。」
「船が?」
「はい。」

「じゃ、僕はこれで。」
ナツは行ってしまった。テヘラが、出口でナツを待っている。
「あ、ちょっと、ナツぅ。」
「もう、いいじゃないですか。」
ミツジが言った。


「ねぇ、もしかして巧さん、スパイなんじゃない?」
夜、トウナは泣きながら、大ちゃんに聞いた。
「うん。なんか、そんな感じですよね。」

「おーい、大丈夫かぁ?」
マロが声をかけた。
「はい。」
「大丈夫だって。そんなに心配しなくても。」
リンチルも言った。

「だって、未来から来たんでしょ?」
「それは、違いますよ。」
「ふーん。どうだか。」


「とにかく、明日は頑張ろうぜ。この中の誰かが死んでも、亡骸だけは保守な。」
「うん。」



6月20日。
「もう死ぬのかな?」
「いや分かんないでしょ。」
マロとリンチルは話した。

ミンクが泣いたため、伸とテヘラと多久は、ミンクに怒ったり、話したりした。

「俺、絶対撃たない。」
佑ジャンは言った。
「ふーん。」
ミツジは下を向いた。
「撃つの?」
「はい。」
ミツジは答えた。

その日は、まだ始めだったため、佑ジャンの部隊の者は、ケガをした者はいたが、誰も亡くならなかった。

夜、ミツジは聞いた。
「ナツ、うまく逃げられたと思います?」
「うーん。」
佑ジャンはうつむいた。

自殺海岸と呼ばれている場所には、米兵は近寄らない。
ナツは、そこで泣いていた。
佑ジャンは、食料を持って行った。


「いいか!明日からが本戦だ!!」
巧は叫んだ。

6月21日。
敵は、本格的に攻めてきた。

高選手は腕を撃たれ、倒れこんだ。

マロとリンチルは、高選手の所へ移動した。
マロとリンチルは隠れたが、敵は2人に向け、発砲をした。
「ああ。」
佑ジャンとミツジは、2人を守るため、移動した。
巧も、佑ジャンとミツジの横に来て、発砲をした。
しかし、全然敵に当たらない。

「ユウジさん、しっかり撃ってくださいよ。」
ミツジも言った。ミツジも3発ほど撃った。

「佑。撃つ時はこう構えるんだ。」
巧は言った。
佑ジャンは、巧の言う通りに構えた。

「もっと。こうだ。」
巧は、佑ジャンの銃にさわった。

「ああ‥。」
佑ジャンは恐怖に震えた。

「バカタレ!!早く撃たんか!!」
巧は佑ジャンをどなり、強く押した。

パンッ!!

マロが倒れこんだ。
ミツジは、別の方向を見て、銃を構えている。

佑ジャンは、恐怖の表情でミツジを見た。
ミツジの顔には、一筋の涙がこぼれている。

佑ジャンの視界は、ピントが合わなくなってしまった。

リンチルは、マロの上に覆いかぶさるように、マロの名前を呼んでいる。
パン

リンチルも、マロの上に倒れこんだ。

「トウナさん!!」
大ちゃんが2人の倒れた所を見て、トウナを呼んだ。

「え‥。」
トウナの視界はぐるぐるとまわり、黄色と白と黒の世界になってしまった。

午後4時には、その日の戦闘は完全に終了した。

帰り道、佑ジャンは口をきかなかった。
「マロさんとリンチルさん、もうダメなのかな?」

「しゃべらないんですか?」
ミツジが聞いたが、佑ジャンは何も言わなかった。

夜、佑ジャンは、玉を数えた。
二つだけ減っている。
佑ジャンは赤くなり、顔をしかめた。

「ねぇ、明日も戦闘ですし、ご飯、食べませんか。」

「‥ミツジさ、移動して、3発撃ったでしょ。その後、何発撃った。」

『はぁ?』
ミツジは顔をしかめた。

「さぁ。全部で6発くらいじゃないですか。」
「一応さぁ、調べていい?ミツジの銃も。」

ミツジは、顔をしかめた。
「撃ったとか、撃ってないとか、どうでもいいじゃないですか。」
「いや、どうでもよくない。」

「マロさんに当たったの、ユウジさんの玉じゃないと思いますよ。」

図星をつかれ、佑ジャンは頭がくらくらして、動けなくなった。

ご飯の時、ムティが話しかけた。
「よかった。2人が生きていてくれて。」

「でも、マロさんとリンチルさんが亡くなってしまって。」
ミツジが言ったので、佑ジャンはさらに悲しくなってしまった。

「そっか。でも2人のせいじゃない。」
ムティは優しく言い、ご飯を食べた。


「マロ!!」
夜、トウナと大ちゃんは、マロとリンチルの遺体に会いに行った。
「リンチルさん、しっかりしてくださいよ!!」

2人は動かない。
マロが目は閉じたまま、手を動かした。

「マロ!!起きろ!!」
「ダメだ‥。」
マロはかすかな声を出した。

『ちょっとやだぁ。』

「ああ。」
遺体の横に、リンチルの亡霊が見えてしまった。

「リンチルさん。」

「起きろ!2人とも。」


高選手と日比野も来て、泣き崩れたが、マロとリンチルはもう動かなかった。

海辺では、ナツが1人で泣いていた。


「あと長くて四日から六日だ。」
巧は、生き残った者達に言った。

今日は6月22日で、マロとリンチルの火葬は、夕方に行われる。
朝7時半。みんな配置についた。

昼飯は、13時頃になりそうだ。

みんな、マロとリンチルが死んだことを、まだ信じられない感じだった。

「ユウジさん。ちゃんと撃ってくださいよ。」
「うん。」
佑ジャンは声を出したが、やっとの思いだった。
ポケットには手榴弾が入っている。
これがキャンディに変わればいいと、佑ジャンは思った。

夢か現実か分からない感じだ。


それでも、戦闘が始まると、高選手は、米兵の頭を撃ち、一気に2、3人殺した。
米兵は高選手を狙ったが、隊長を撃ったので、ひるんで逃げた。

「多久。」
伸は、高選手の銃の先をつかんだ。

「逃げる背中を撃っちゃダメ。」

高選手はうなだれた。

「うわぁ!!」
トウナと大は、シーサーの影に隠れている。
「どうします?」
「うーん。こうなれば。」
トウナは、シーサーから顔を出したが、敵の銃がシーサーに当たったので、すぐに顔をひっこめた。

「アー、怖い。」
「やっぱ無理ですよね。俺達じゃ。」
「うん。」

ミツジは本当に撃ったが、佑ジャンは、撃つふりをした。
「撃てよ。」
ミツジは言った。

「撃たんか!」
巧は、銃で、佑ジャンの頭を叩いた。
もしも、ここで佑ジャンが死ねば、巧も自殺するつもりだったのだ。

巧にとって、佑ジャンはとても可愛い存在だった。

パンッ
佑ジャンは撃った。
すると、米兵が倒れた。

「ユウジさん、またですか?」
ミツジは顔をしかめた。

「ごめん。」

「お前には、殺しの才能がある。」
今までつるんでいなかった、火村成道が言った。

「え?」
「俺、見てたぜ。」
成道は、銃を構えながら言った。

「マロさんのこと、撃ったんだろ。」

佑ジャンは、息を飲んだ。

「違う!向こうに行け!!」
巧が言った。
成道は、硫黄島や満州にも行ったことがある。
もともとは、別の部隊にいたのだ。

「別に撃とうとして、撃ったわけじゃないですよね?」
「だから違うって!」
ミツジが言い、佑ジャンは泣きそうになった。

3時頃に、日本軍は白旗をあげた。
米兵の1人が最後に一発撃ち、日本兵が倒れるようにした。
これには決まりはないが、なんとなく、終了間際にお互いがやっているものだった。

5時。
本月は、戦闘の後を歩いた。
若い兵士達が、仲良さそうに死んでいるのを見て、高選手は辛くなった。

亡骸の回収は、夜10時頃までかけて、村人も手伝ってやる。

米兵も普通に来て、仲間を持っていく。
その時、米兵は優しく、切なげに笑う。
本当に奇妙な世界だと、本月は思った。

夜6時。
マロとリンチルの火葬の時間がきた。
「もう?夜8時くらいだと思ってた。」
トウナは言った。

5時半に夕飯が配られたので、大ちゃんはすでに食べ終わっていたが、トウナはまだだった。
「あれ、まだ食べてなかったんですか?」
「うん。」
トウナは急いで食べた。

火葬の用意がされている。

先ほど手伝おうとしたら、2人を心配した村人達に、休むよう言われたのだ。

マロとリンチルは、ピクリとも動かない。
佑ジャンは何かをつぶやきながら、マロとリンチルに白い花を持たせた。
伸はついに泣いた。

火は放たれた。


夜遅く、ムティと、高選手と日比野は、それぞれ別の船で、ひめゆり学徒隊の姫達を本土に連れて帰ることになった。

「すみません、先に帰ります。」
ムティは、巧と大西に言ったが、2人は何も言わず、机に向かっている。
「本当にお世話になりました。」
ムティは深々と頭を下げ、出て行った。

「bye bye.」
大西が言ったので、巧は大西を見た。

「日本に来て気づいたんだが、バイバイは、別れたくない時に使う言葉だ。」
大西は言った。


「おい、まだいたのか。」
高選手は言った。
なんとナツが、まだ海岸にいたのだ。泥で汚れている。

「今から、本土に帰るからな。お前も一緒に来るんだ。」
日比野が、ナツを覗き込んで言った。
日比野がナツをおぶり、船に向かって歩いた。

みんな、ハッとした。
船の近くに米兵がいる。

ライトをかざすと、ミルと黒人のロイだった。
「ミル!!」「ロイ!!」
「行くんですね。」

「うん。この子達を家まで送らないと。」
「気をつけて。」

本土の1キロ手前で、高選手は船を捨て、姫達を泳がせた。
船が港についたら、怪しまれると思ったからだ。
瀕死のナツを、高選手と日比野が支えた。

ムティは、最後まで、船で連れて帰った。
ついたのは、3日後の昼で、銃を向けられたが、姫達がかばってくれた。


23日。
地上戦は、ほとんど終わっていた。
ミツジ、成道、佑ジャンの3人は、銃を持ち、戦いの後地の見回りをした。
まだ死体を完全に回収できていない。

「殺人の天才が、隣にいるので安心です。」
ミツジが言うと、成道は遠い目をして、口笛を吹いた。
「違うよ。」
佑ジャンは、一応言い返した。

アメリカ兵達が、瀕死の日本兵を捕虜にしようとしている。
「待ってください。」
佑ジャンは、駆け寄った。

アメリカ兵達は、英語で何か言い、銃を向けた。

「ダメ。」
ミツジは、佑ジャンの手を引いた。

アメリカ兵は、元気な3人が引き下がるなら、撃たないという感じだ。
多分、捕虜を連れてくるよう、言われたのだろう。

3人は、下がり、茂みに隠れた。

「高井君だ。俺の知り合い。」
「そうなんですか?」
「うん。」

成道は舌打ちをした。

「じゃ、俺。」
「ええ?!」
成道は走り出した。

「ちょっと待ってくださいよ!」
佑ジャンとミツジも、後を追った。
みんな茂みの中を中腰で走る。

「待て、こらぁ!!」
成道は、アメリカ兵達に銃を向けた。

「高井君を放せ!!」

パン、パン

数回撃ち合い、成道はわき腹を撃たれたので、倒れこんだ。
「成道さん‥!!」
ミツジは飛び出し、アメリカ兵に、自分を連れて行くよう懇願した。

アメリカ兵は、高井君を横たわらせ、何か言った。
助けるつもりだったのかもしれない。
ミツジは手錠をされ、連れて行かれてしまう。

佑ジャンは走って、仲間を呼びに行った。


「‥ッ。」

「成道さん、大丈夫ですか?」
成道が目覚めると、佑ジャンが覗き込んでいた。

「ここは‥。」
「病院です。」

「高井君は‥。」
成道は、手をかざして聞いた。
「高井さんは、肋骨が折れているようですが、命に別状はないそうです。」
佑ジャンが言うと、医師の石谷先生が来た。

「目覚めましたね。」

成道は、息をはぁはぁして泣きだした。
「先生‥これだけは仲間に伝えてください。アッ。はぁ‥はぁ‥愛してたって。」
「え‥。」
「ううっ。」
「大丈夫‥ですよ。多分。」
「いや、もう、俺はダメだ。」
「成道さん、大丈夫ですか!!」
佑ジャンが半泣きで見守る中、成道は再び眠り込んだ。

石谷は、成道に布団をかけなおした。
メガネの位置を戻しながら聞いた。
「ところで、ミツジ君は?」
「米兵に連れていかれてしまったんです。」
「助けに行くの?」
「はい。」
「そっか。」
石谷は、どこかに電話をし始めた。

「今さ、村の人がくるから。」

「これでも食べて。」
佑ジャンは、石谷からバナナをもらい、食べながらソファーに座って待った。

「石谷先生。」
村人が来た。
「あっ、どうも。この子が、助けに行くので。」
「ああ‥。」
村人は、佑ジャンを見て、頭を下げた。

後ろから、黒い馬が顔を出した。

「チャチル!!」
チャチルは、ムティの馬だ。
「ムティさんに世話を頼まれましてねぇ。今まで俺の家にいたんですよ。」
「そうだったんですか。」


「じゃ、気をつけて。」
「はい。」

「ユウジ。これ。」
巧と大西が来た。巧が佑ジャンに銃を渡した。
「はい。」

「頑張れよっ。」
巧は佑ジャンの背中を叩いた。
「はい。」
佑ジャンは笑った。
大西は笑ってうなずいている。

「行ってきます。」
佑ジャンは、チャチルに乗り、基地を出た。


ジャングルの中を、チャチルに乗って走る。
倒れた木や、亡くなった人の上を、飛び越えたりした。


一人のアメリカ兵が、茂みの中から、佑ジャンを捉えている。
アメリカ兵は疾走し、撃った。
パンッ
「え?」
佑ジャンは、チャチルの上で銃を構えた。

茂みから出てきたのは、ミルだ。

「ミル‥。」

「ユウ。俺を連れて行け。」

「うん。」
佑ジャンはミルを乗せ、米軍基地を目指した。
「ちょっと待って。」
途中、ミルは、亡くなった米兵の血を、顔や体に塗った。最後に砂や泥をつけた。
「これでよし。」

ヒヒー
米軍基地の前に来た。

米兵達は、佑ジャンに銃を向けた。
佑ジャンは、馬から降りた。
ミルは役になりきり、ぐったりとしている。

米兵は、英語で聞いた。
『アメリカ兵を放せ。さもなければ撃つぞ。』

とまどったが、佑ジャンも英語で言った。
『その代わり、僕の友達を返してほしい。』

『要求をのもう。しかし、そのアメリカ兵を放す方が先だ。』

佑ジャンはとまどった。するとミルが小さな声で言った。
「No‥。」
『No!!』
佑ジャンが叫ぶと、アメリカ兵達は、一斉に銃を向けた。

「親友の伴田ミツジを返せ。」
ミルが英語を教えてくれたので、佑ジャンが言うと、アメリカ兵達はミツジを連れてきた。

他の日本の捕虜達も、心配そうに見ている。

アメリカ兵は、ミツジの背中を押した。
「ユウジさん、どうしてですか。」
「助けたくて。」

ミルは、言った。
「ミツジ、乗って。」

「ミル、ありがとう。」
佑ジャンが言うと、ミルは首をふり、チャチルから落ちた。

佑ジャンは、チャチルにミツジを乗せ、逃げた。

「他の日本人、大丈夫かな?」
「別に、助けにこなくても、逆らわなければ、大丈夫でしたから。」

「でも、みんな、ミツジを助けに行けって言ってたし。」
「ふーん。」

途中、アメリカ兵の死体が4体ほど山積みになっていた。
中の黒人の死体が、白目でこちらを向いた。
「ええっ。」

佑ジャンは馬を降り、銃を構えた。
黒人は白目のままこちらに来たが、突然、黒人はニッコリ笑った。
「ロイ!!」
「ユウジャン。」
2人は抱き合ったが、後ろから、アメリカ兵が来た。
基地のアメリカ兵とは、別の者達である。

「お別れダ。」
「うん。ありがとう。」

「ユウジさん、早く。」
チャチルに乗ったまま、ミツジは、佑ジャンの体を引き、馬に乗せ、手綱をとった。

銃声が聞こえたが、ロイは死ななかった。
ロイは、そこに来たアメリカ兵全員を撃ち殺した。
佑ジャンとミツジは、基地に戻った。

その後、巧は捕虜となったが、大西は本土に戻った。
その他の者達も、みんな本土に戻ることができた。

8月、大西は、最後の特攻に挑むことになった。
ちなみに沖縄戦に行っている間は、中学校の基地は、従道達が守っていた。

「大西さん。」
従道は大西に、大きな花束を渡した。
「従道君。」
「これで帰れますね。」
従道は、小さな声で言った。

「大西さん、ありがとうございました。でも、生きて帰ってください。」
佑ジャンは言い、大西と握手をした。

「ユウジン。」
「あ、僕の名前、佑ジャンです。」
「そうか。」
大西は笑った。

兵士達は、戦歌を歌った。

「ありがとう。」
大西は飛び立った。
大西は、軍のトップの者だ。
ミンクは、手紙を渡せなかった。

大西は、米艦ギリギリのところで、戦闘機が故障したため、墜落し、引き上げられ、捕虜になった。

大西は元々、アメリカのスパイだ。
ネイティブスピーカーのはずだが、片言の英語で受け答えした。
でも、アメリカのスパイだと、米軍側にも理解できたため、優遇され、グアムで降ろされ、仕事も与えられた。

気づくと、大西は軍服のまま、マンゴーの木の下に来ていた。
自分は金バッチをつけ、周りの村人はロープを持っている。
GHQの者が見張る中、大西は絞首刑を、村人により執行された。
村人達は、自分達の命を守るためのことで、仕方なかった。


「大西さん、大西さん。」
「ん?」
大西賽(おおにし さい)が目覚めると、もう夜で、マロとリンチルに似た二人がタイマツを持ち、覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?冷えますよ、いくらガムでも。」
「お、おお。」
「家は?分かりますか?」
「うん。」
「俺達、あそこにテントを貼ってるんです。」
「そうか。」

「どうにか日本に帰りたいですけどね。」
涼しい風が吹いた。


巧もスパイだと、米軍に伝わり、アメリカ本土に帰ることができた。
生ぬるい風が吹いている。
タイタニック号のような大型船から降り、横を見ると、1人の女性が立っていた。
水色のカーディガンと白のブラウス、薄ピンクのひざ下スカートをはいている。
その人は声をかけた。

「久しぶりね、ルーター。」

「クリスティアラ。」

二人は再会した。


焼け野原となった町の闇市で、高選手はギターを見つけた。
大西と巧がスパイだったとことに気づき、泣きながら、歌を歌った。


佑ジャンとミツジは、一緒に暮らすことにした。
家族は生きていたが、2人とも、妹の家族が住んでいたからだ。


佑ジャンは5年後。
乗馬の世界大会に出て、優勝した。
その記事は、アメリカの新聞にも載ることになる。

「どうしたの?」
佑ジャンは聞いた。ミツジは、少しだけ嫉妬したのだ。
ミツジは無視して歩く。
「なんかさ、ミツジもやればいいじゃん。」

「あ、ほら。あれなんかは?」
佑ジャンは、店のポスターにあった、ビリヤード写真を指した。

ミツジはサンドイッチ屋、佑ジャンはペンキ屋で働いている。

ミツジはビリヤードを始めた。
1年後。ミツジはビリヤードの世界大会に出場し、決勝まで残った。

相手は中国で、その人はマロに似た人だった。
審判はリンチルに似ている。

「え‥マロさん?」

『ちがう、別の人だ。』
マロは中国語で、伏し目がちで答えた。

「マロさん、やっぱり生きていたんですか?」
佑ジャンは言った。

『何を言っている?』
マロは中国語でミツジに言った。
佑ジャンがマロを撃ってしまったことは、このマロは知らない。

『久しぶりだな。』
マロは中国語で佑ジャンに言った。
「うん‥。」
佑ジャンは少し泣きそうになりながら、席に座った。

高選手と日比野、大ちゃんとトウナも見に来ている。
一度帰ったが、ミツジのビリヤードの試合を見に来たのだ。

審判のリンチルは試合を始めた。


この一手で、どちらが勝つか決まる。
その時、マロが日本語で聞いた。

「お前、人を殺したことは?」

「ありません。」

マロは一手を決めた。

「嘘だろ。嘘をつく奴は必ず負ける。」
マロは、スティックを肩にかけて言った。

「え‥。」


『戦いは、全て中国が勝つ。』
マロは、会場に向かって、大きな声で言った。


夕焼けの道で、佑ジャンは言った。
「ミツジ‥残念だったね。」
「うん‥。」

「でもさ、お前には、また次もあるんだから。」
高選手が励ました。
「はい。」

夕日の中、みんな、自分の未来に向かって、歩いて帰って行った。

























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