第9話
文字数 1,999文字
戦友【アーティの死】
「どう?乗ってみるか?」
2月1日。ムティが、馬を連れてきて、佑ジャンとミツジとナツに見せた。
「どうしたんですか、この馬。」
「もうそろそろ地上戦だっていうもんだからねぇ。」
「馬、使うんだ。」
佑ジャンとミツジは、顔を見合わせた。
最近では、ミツジも、銃の練習をしている。
「はい、乗ります!!」
佑ジャンは、目を輝かせた。
佑ジャンは、乗馬の名人である。
黒い馬を、上手に操ってみせた。
「すごい。」
「うまいなぁ~。」
ムティも感心していた。
マロやトウナ、リンチル、大ちゃんは、最近は、農作業をしている。
午後のお茶の時間に、マロが言った。
「なんだか、天国と地上の境目みたいだな。」
「うーん。」
「どこかでは、みんな元気に、学校に行ったりしてんのかな。」
「そうかもしれませんけど‥もう、僕達はその年じゃないですから。」
「まあ、それはそうだけどさ。」
マロは笑った。
「ハカセさん、ちゃんと逃げ出したかな?」
トウナが言った。
「ん?」
マロは、何も知らない。
その時、腹をこわし、外に出られなかったのだ。
「あの‥。巧さんが、ハカセさんの飛行機にちょっとだけ多く、燃料をいれたんですよ。‥まあ、巧さん、ハカセさんにいろいろしちゃいましたから。」
大ちゃんが言い、リンチルもうなずいた。
マロは、偶然聞いてしまった、ハカセとハリーの会話を思い出した。
『飛行機を海に捨てれば、逃げられる。‥いや、僕だって、10キロ以上は泳げますよ。多分。休みながらなら。』
「ふーん。」
「まあ、どこかで生きていればいいですね。」
その頃、基地周辺で女性が殺害される事件が多発していた。
2月5日。
アーティ(鎌吾亜貞)の突撃の日が来た。
女性を撃ち殺していたのは、アーティだったのだ。
巧はそれを見抜いていたが、止めなかった。
こんな時代だ。醜い女性の方が多い。
ある日の深夜、どこから手に入れたのか、アーティは食堂で、洋酒を一人で飲んでいた。
「みんな噂してるぞ。お前が、男みたいな女と付き合ってると。」
「ああ。」
「いいのか。お前みたいなヤツが、そんな女で。」
「いいですよ。俺、綺麗な人、苦手ですから。」
「それで‥やったんか。」
「何をですか。」
「その‥、女をだよ。」
「やってないですよ。体が汚れますから。」
アーティは、洋酒を飲み干した。
「あ、ごめんなさい!巧さんも、飲みたかったですか?」
「あ‥いいよ、俺は。」
「これ、まずかったです。」
そう言って、アーティは、ビンをゴミ箱に捨てた。
いよいよお別れの日。
従道は、射撃の練習中に、後輩に撃たれ、ケガをしてしまっていた。
「ごめんな、俺の代わりに。」
「いいですいいです。俺も早く、ヤマさんに会いたいですから。」
兵士達は、みんな敬礼をした。
「アーティ。」
そこに、ヤマの亡霊が現れた。
「え‥。」
アーティは、涙目になり、呼吸を整えた。
「大丈夫か。」
巧が来て、アーティを抱きしめた。
アーティは、巧の腕の中で、今までの殺人を思い出した。
でも、間違ったことをしたとは、思わなかった。
「これ‥。」
アーティは、胸ポケットから、ナイフを取り出した。
「伸に、カバーを作ってもらったんです。」
アーティは、巧にナイフを手渡した。
「日本が負けたら、銃は全て奪われます。」
アーティは、巧にハグをし、言った。
「終戦後、嫌な人がいたら、これで殺してください。」
巧はアーティを見つめたが、アーティは背を向けた。
アーティは、飛行機に乗り込み、言った。
「おい、ミンクは来ないのか!!」
みんな黙っている。
ミンクは、足が痛い演技をずっとしていて、伸に頼み、車椅子を作ってもらっていた。
それを、アーティに一番に見せたかったが、間に合わなかった。
ミンクは来たが、もう遅かった。
アーティは、飛行機の扉を閉めてしまっていたのだ。
『ばーか、開けないよ。』
ミンクは走って、手紙を飛行機の窓に投げた。
手紙は、窓に当たり、地面に落ちた。
アーティは、行ってしまった。
突撃15分前。
ムティとの会話を思い出した。
「特攻って、猛スピードでの突っ込みだから、手が離せないよね。」
「うん‥。」
「鼻水は、ヤバい状態になるな。」
「あはは。俺だって、死ぬ時くらいは、かっこつけたいですよ。」
アーティは鏡を見た。
「もうこの顔ともサヨナラだ。」
突撃準備。
突っ込んでいく最中、片手を離し、顔を拭いた。
『ヨダレも、ダメだから。』
片手を離したことで、飛行機は傾き、ちょうど、敵の球をよけた。
アーティは突っ込んだ。
アーティの歯は、こなごなになった。
アーティは、目を開いたまま、動けなくなり、海に沈んでいく。
アメリカ兵も沈んでいくのが見えた。
仲良くなりたいと思って、手を伸ばそうとしたが、叶わぬ願いだと、理解した。
最後の力を振り絞って、目を閉じた。
5時間後、アーティの体は、また海に浮かんだ。
『無様。』
アーティは動けなかった。死んだのだ。
でも、また、夜になり、アーティは海の底深くへと、沈んでいった。
「どう?乗ってみるか?」
2月1日。ムティが、馬を連れてきて、佑ジャンとミツジとナツに見せた。
「どうしたんですか、この馬。」
「もうそろそろ地上戦だっていうもんだからねぇ。」
「馬、使うんだ。」
佑ジャンとミツジは、顔を見合わせた。
最近では、ミツジも、銃の練習をしている。
「はい、乗ります!!」
佑ジャンは、目を輝かせた。
佑ジャンは、乗馬の名人である。
黒い馬を、上手に操ってみせた。
「すごい。」
「うまいなぁ~。」
ムティも感心していた。
マロやトウナ、リンチル、大ちゃんは、最近は、農作業をしている。
午後のお茶の時間に、マロが言った。
「なんだか、天国と地上の境目みたいだな。」
「うーん。」
「どこかでは、みんな元気に、学校に行ったりしてんのかな。」
「そうかもしれませんけど‥もう、僕達はその年じゃないですから。」
「まあ、それはそうだけどさ。」
マロは笑った。
「ハカセさん、ちゃんと逃げ出したかな?」
トウナが言った。
「ん?」
マロは、何も知らない。
その時、腹をこわし、外に出られなかったのだ。
「あの‥。巧さんが、ハカセさんの飛行機にちょっとだけ多く、燃料をいれたんですよ。‥まあ、巧さん、ハカセさんにいろいろしちゃいましたから。」
大ちゃんが言い、リンチルもうなずいた。
マロは、偶然聞いてしまった、ハカセとハリーの会話を思い出した。
『飛行機を海に捨てれば、逃げられる。‥いや、僕だって、10キロ以上は泳げますよ。多分。休みながらなら。』
「ふーん。」
「まあ、どこかで生きていればいいですね。」
その頃、基地周辺で女性が殺害される事件が多発していた。
2月5日。
アーティ(鎌吾亜貞)の突撃の日が来た。
女性を撃ち殺していたのは、アーティだったのだ。
巧はそれを見抜いていたが、止めなかった。
こんな時代だ。醜い女性の方が多い。
ある日の深夜、どこから手に入れたのか、アーティは食堂で、洋酒を一人で飲んでいた。
「みんな噂してるぞ。お前が、男みたいな女と付き合ってると。」
「ああ。」
「いいのか。お前みたいなヤツが、そんな女で。」
「いいですよ。俺、綺麗な人、苦手ですから。」
「それで‥やったんか。」
「何をですか。」
「その‥、女をだよ。」
「やってないですよ。体が汚れますから。」
アーティは、洋酒を飲み干した。
「あ、ごめんなさい!巧さんも、飲みたかったですか?」
「あ‥いいよ、俺は。」
「これ、まずかったです。」
そう言って、アーティは、ビンをゴミ箱に捨てた。
いよいよお別れの日。
従道は、射撃の練習中に、後輩に撃たれ、ケガをしてしまっていた。
「ごめんな、俺の代わりに。」
「いいですいいです。俺も早く、ヤマさんに会いたいですから。」
兵士達は、みんな敬礼をした。
「アーティ。」
そこに、ヤマの亡霊が現れた。
「え‥。」
アーティは、涙目になり、呼吸を整えた。
「大丈夫か。」
巧が来て、アーティを抱きしめた。
アーティは、巧の腕の中で、今までの殺人を思い出した。
でも、間違ったことをしたとは、思わなかった。
「これ‥。」
アーティは、胸ポケットから、ナイフを取り出した。
「伸に、カバーを作ってもらったんです。」
アーティは、巧にナイフを手渡した。
「日本が負けたら、銃は全て奪われます。」
アーティは、巧にハグをし、言った。
「終戦後、嫌な人がいたら、これで殺してください。」
巧はアーティを見つめたが、アーティは背を向けた。
アーティは、飛行機に乗り込み、言った。
「おい、ミンクは来ないのか!!」
みんな黙っている。
ミンクは、足が痛い演技をずっとしていて、伸に頼み、車椅子を作ってもらっていた。
それを、アーティに一番に見せたかったが、間に合わなかった。
ミンクは来たが、もう遅かった。
アーティは、飛行機の扉を閉めてしまっていたのだ。
『ばーか、開けないよ。』
ミンクは走って、手紙を飛行機の窓に投げた。
手紙は、窓に当たり、地面に落ちた。
アーティは、行ってしまった。
突撃15分前。
ムティとの会話を思い出した。
「特攻って、猛スピードでの突っ込みだから、手が離せないよね。」
「うん‥。」
「鼻水は、ヤバい状態になるな。」
「あはは。俺だって、死ぬ時くらいは、かっこつけたいですよ。」
アーティは鏡を見た。
「もうこの顔ともサヨナラだ。」
突撃準備。
突っ込んでいく最中、片手を離し、顔を拭いた。
『ヨダレも、ダメだから。』
片手を離したことで、飛行機は傾き、ちょうど、敵の球をよけた。
アーティは突っ込んだ。
アーティの歯は、こなごなになった。
アーティは、目を開いたまま、動けなくなり、海に沈んでいく。
アメリカ兵も沈んでいくのが見えた。
仲良くなりたいと思って、手を伸ばそうとしたが、叶わぬ願いだと、理解した。
最後の力を振り絞って、目を閉じた。
5時間後、アーティの体は、また海に浮かんだ。
『無様。』
アーティは動けなかった。死んだのだ。
でも、また、夜になり、アーティは海の底深くへと、沈んでいった。
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