第8話

文字数 3,124文字

戦友【サンショウウオ博士】8
「あー、まだ変な感じ。」
11月の初旬、仕事の休憩時間に、佑ジャンはミツジに言った。
「ヤマさんのことですか?」
「うん。」

「ユウジさん、今日、誕生日ですよね。」
「うん‥。」

「はい、誕生日おめでとう。」
「何、コレ?」
「ケーキです。」
「すごい、なんでこんなモノを?」
「伊藤さんが、材料をくれて、作ったんですよ。」

伊藤さんは、以前、ミツジが勤めていた店の店長だ。
「最近、あやちゃんや、タヨにも会ったんですよ。」
2人は、ミツジが一緒に働いていた女性である。
「2人とも、旦那さんが亡くなったって。」
ミツジは、お茶を飲んだ。

佑ジャンは、ニヤリと笑った。

「なんで笑うんですか?」
「多分、嘘じゃない?2人とも、ミツジがスキだから。」
「そんなわけないですよ。」

12月、クリスマスだ。
空襲でたくさんの街が焼け、人が死んだ。
2人は買い出しに行くため、街を歩いている。

「がーん。」
「何、今なんて言った?」
「え‥。がーんって。」

ミツジは笑った。
「ユウジさんって、本当に現代の人ですか?」
「現代の人だし、俺の名前ユウジじゃなくて、佑ジャン、だから。」
佑ジャンは突っ込んだ。

店には、病気を繰り返していた、ナツがいた。
「あれぇ、なんで。」
「こっちに来てたんだ。」
「うん。」

「何買うの?」
「これ、子供達に。」
サンタの紙を買うようだ。

ナツが言った。
「あのさ。ついてこないでくれるかな。」
「だって、帰りがこっちだから。」

「あ~、そっか。同じだ。」
ナツは、ひとりごとのように言った。

「え‥宿舎なんですか?」
「先輩達とね。」
「そうなんだ。どう、眠れる?」
「まあ、眠れるよ。」
「そっか、よかったね。」

「ヤマさんのこと辛いですね。」
ナツは、言った。
「そうだね。今日誕生日だけど、あんまり嬉しくないもん。でも、ヤマ先輩は、絶対、どこかで生きてるって。」
「えー。死んでますよ。」
「死んでるにきまってる。かわいそうだけど、自分で臨んだことだよ。」
3人は、宿舎に向かって歩いた。

正月。
兵士達は、白米を食べた。
「日本、負けるかな。」
マロは、大ちゃん、トウナ、リンチルに言った。
「しっ。あんまり大きな声で言うな。」
トウナが注意した。
「だけど、負けたらどうするっぺ。」
リンチルが聞いた。

「さぁ~。どうするんですかね。」
大ちゃんが、笑って言った。

「いいか?日本が負けたら、女はレイプされ、子供は食べられる。そして男は‥。」
みんな前かがみになり、トウナが続きを言うと、3人は大笑いした。

リンチルが聞いた。
「じゃ、年寄りはどうすんのさ。」
「まぁ‥。働けるヤツは使われるだろうな。でも‥。」
「なんですか。言ってくださいよ。」

「どうなんだよ。」
マロが聞くと、トウナは身震いした。

「自分で、穴をほって死ぬんだよ!!」
近くのテーブルのアーティーが突然叫んだ。

「どうしたんですか?」
マロが、聞いた。
「お前ら、本当にうるせえよなぁ。」
他のメンバーも言った。

「ごめんなさい。」
トウナが笑い、「すみません!」マロも言った。


1月中旬。マロはお腹をこわした。
マロはよく、お腹をこわす。
「大丈夫ですか。」
ナツが、トイレのドアを叩いた。

「ダイジョブだから、今はくんなって。」
ナツはしぶしぶ、トイレを後にした。

「マロさんが、またお腹をこわしてます。」
ナツは巧に言った。

トウナと大ちゃんは、窓際で立っていた。
後輩達は、なんの訓練か分からないが、白旗を振った人間のまわりを走っている。
リンチルが来て、言った。
「あれ、なんだろう。‥あ、そっか。降参の練習だ。」
トウナは、体をおさえ、痛そうに目をつぶった。

「外国人も、そんなに無慈悲ではないと思いますよ。」
大ちゃんが言った。

「痛って。(いって)」
「大丈夫だって。」
リンチルは、トウナの体を右手でさすった。

「そういえばさ、スパイの白人君、どうしてんのかな。」
「ミルとロイは、まだ近くにいるんですけど、ポールの方はぁ、田舎に連れてかれた。」
大ちゃんが答えた。

「え‥。そうなの?大丈夫かな。」
「大丈夫じゃないですかぁ。」
大ちゃんが手すりにつかまり、自分の靴を見ながら、笑って言った。
「どうせ、子供とか、たくさん作っちゃってますよ。」
「ふん、どーだか。」
トウナは、手すりに肘をついた。

後輩の下に、伸が歩いていき、何か話し、降参練習を止めさせた。
伸は、後輩から慕われている。

1月25日。
リンチルは、伸に言った。
「もうそろそろヤバいな。」
「うん。」
「伸ちゃんはどう思う?」
「負けたら、日本は、皆殺しになるだろうね。」
「だから、それを食い止めるためにはどうすればいい?」
「命をかけて戦うこと。オカミのためにね。」
「オカミとか意味ないじゃん。」
リンチルは、小さく言った。

56回目の突撃の日。
サンショウウオ博士は、再び指名され、今回は、しっかり敬礼した。

朝、親友のハリー(針田冨尾)が花を持って現れた。
「不思議じゃない?こんな時代でも、花は満開なんて。しかも、こんなに寒いのに。」
「そうだよね。」
サンショウウオ博士は、もう二度と、ハリーと話すことがないと思うと、信じられない気持ちだった。
ハリーは、飛行機操縦が全くできず、歩兵隊だったし、食堂係だった。

「さよなら。ハカセ。」
ハリーは、サンショウウオ博士と握手をした。
サンショウウオ博士は、本当は、医者だったのだ。

サンショウウオ博士は、1人で朝食をとっていた。
マロ達は、近くのテーブルで、心配そうに、サンショウウオ博士を見た。

佑ジャンは、その日、食堂の係だった。
「あの‥。」
お茶がなかったので、サンショウウオ博士の下に行くと、サンショウウオ博士は、話しかけた。
「みんなちゃんと、敵をつぶしてるんですかね。」
「たぶん‥。」
佑ジャンは、外を見ながら答えた。
「そっか。」
サンショウウオ博士は、食事を続けた。

サンショウウオ博士は、仕度をすませ、寮を出る時、伸が話しかけた。
「嫌なら変わるぞ。」
「いや、いいです。僕、行けますから。」
「言っておくけど、もう死ぬってことだからな。」
「わかってますよ。」
それくらい。サンショウウオ博士は、前を向いた。

飛行場に来ると、大西は心配そうに見た。
巧は、サンショウウオ博士の手をとった。
「今まで悪かった。」
「いいんです。僕が間違ってました。」
「俺もすぐに行くから。」
「ごめんなぁ、先にいかせてしまって。」
大西も謝った。

兵士達は、敬礼をした。
巧と大西も、敬礼をした。
リンチルもナツも敬礼をした。
本月も敬礼をした。

「痛って(いって)。」
ミンクが、トウナと大ちゃんに囲まれてきた。
多久は、黄色の花束を持っている。
ミンクは、足を痛そうにしているが、これは演技だった。
「おい、しっかりしろ。」

ミンクは、サンショウウオ博士に手紙を渡した。
「はい、ありがとう。」
「ううん。」
ミンクは泣いた。

サンショウウオ博士は、飛び立った。
すると、伸が1人で立っているのが見えた。
伸はあらかじめ計算し、その場所に立っていたのだ。

「もっといい場所があるけどね。」

サンショウウオ博士は、旋回した。
風向きを考えてのことだ。

「あっ。」
ハリーは、大きなピンク色の花束を持ち、海を見ていた。


『さよなら、ハカセ。』

サンショウウオ博士は、敵に向かった。
突撃の40分前。ミンクの手紙を開けた。

そこには、米粒でコンペイトウが貼ってあった。

しかし、裏には、巧の字があった。

『あなたには、別の道があります。』

「嘘だろ。」
燃料タンクはまだ、余裕がある。
巧が、燃料を多く入れたのだった。


「みんな。」
多久の花の中には、お金が入っていた。
サンショウウオ博士は旋回し、戻った。

そして、終戦後には、ハリーと再会した。
「もしかして、ハカセ?」
「ちがいますよ。」
サンショウウオ博士は笑った。


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