第4話

文字数 1,411文字

戦友 【落下傘訓練】4
今日は、海で落下傘の訓練だった。
隊長は、権藤巧(ごんどう たくみ)という男だ。

「リンチル、こういうの得意なんだ。」
「うん、まあ。」
無事に海に入ったマロは、リンチルに話しかけた。

マロや、大ちゃんも、無事に落下傘で落ちてくる。
「思ったより楽し。」
マロが言うと、大ちゃんは笑って言った。
「巧さんに聞かれますよ。」

この物語の主人公は、木元 佑ジャンという男である。
片仮名まじりの名前は、この時代には珍しくない。

佑ジャンは、ふわりと海に落ちることができた。
「はーい、よくできました!」
マロ達がほめた。
佑ジャンは二十歳で、周りの人達は、25とか26とか、そのくらいなので、年下の方である。
「おーい、上がれるか?」
正直言うと、子供扱いは止めてほしかったが、マロ達は佑ジャンを船に引き上げた。

バシャッ。
日比野と高選手は、勢いよく落ちた。
2人の傘は、うまく開かなかったのだ。
日比野はすぐに顔を出したが、高選手は深くまで落ち、10秒後くらいに顔をだした。

「アハハハ!」
みんな笑っている。巧は腕組みをしながら、様子を見ていた。
後半の組の傘は、うまく開かないようだ。
みんな、音を立てて、海に落ちている。

次は、一伯(かずお)の番だった。
佑ジャンは、飛行機を見上げた。
一伯は、出来るようにふるまっているが、どこかとろくさい。
本番の戦闘でも、迷惑をかけることはもう分かっていた。
佑ジャンは、一伯が苦手だった。
一伯の元々の名前は、山田和男なのに、滝本一伯と名乗っていることと、年はまだ21なのに、24と嘘をついていることを知っていたのだ。
それに、
「俺の婆ちゃん、誰が殺しただ、誰が殺しただ。」
と、突然、泣くから嫌いだった。

パシャッ。

一伯は、かなり離れた場所に落ちた。
浮いてこない。
高選手も、日比野も、みんなも、巧も、見ているだけだ。
一伯が迷惑だということを、分かっていたのだ。
もちろん、佑ジャンも同じだった。みんな黙っている。
「来ないね。」
「そーだな。」
リンチルが言うと、伸がうなずき、高選手が答えた。

「何やってんのぉ!」
「え、マジで。」
「行くに決まってるじゃん。」
トウナが行ってしまった。
トウナは8分ほど泳いで探したが、一伯は見つからなかった。

「飯にするぞ!」
巧が言った。
なぜかついてきてしまった、あゆみさんという女が、弁当を配った。

バシャッ。
みんなが談笑しながら、ご飯を食べていると、音がした。
男が這い上がってきた。一伯だ。
「えっ。」
「大丈夫かぁ。」
高選手は優しい声で、一伯を引き上げた。

「こえー。」
佑ジャンの隣にいた、両(りょう)が言った。
「カズクン、もどってきちゃいましたー。」
ミカリと陣も、クスクスと笑った。


船は、無事に港についた。
一伯、高選手、日々野、リンチル、伸、そして一伯と仲の良いように見えた、佑ジャンも誘われた。伴田ミツジが働く、食堂に行くことになった。

「一伯、今日は大丈夫だったか。」
高選手は聞くと、一伯がうなずいた。
「一伯君、大丈夫?兵士はやめて、ここで働きませんか。」
ミツジが言った。
「一伯、そうしろよ。」
一伯は、うなだれた。

店の奥で、女性二人がミツジにつめよった。
「何言ってんの。」
「料理に毒でもいれたらどうするのよ。」
「一伯君は、そんなことしないよ。」
「お前、ホントに男か。今は戦争中だぞ。」
ミツジは、店長にまで怒られてしまった。

一伯は寮に戻った。

ありがたいことに、佑ジャンと一伯は、別々の部屋だった。






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