第6話

文字数 1,580文字

戦友 【真珠湾攻撃】6
「あ、戦闘機だ。」
休みの日に、野球をしていたマロが、空を見上げた。

「そろそろ、始まるんじゃないかな。」
リンチルが言った。
トウナは、毛皮を羽織っている。

今は11月だ。
攻撃訓練は、9月に、嫌というほどした。

「は~あ。」
マロはしゃがみこんだ。
「寒いから!」
トウナが、毛皮を持っていき、マロにかけた。

軍の寮では、豚汁が出された。
佑ジャンは、ご飯を作る係だ。
あまりじっと見てはいけないが、みんながご飯を食べる姿がスキだった。


「あれ、伸ちゃんって、戦闘部なんだ。」
多久は言った。
「うん、俺もね。」
伸は暗かった。戦闘部の別名は、死闘部だ。

「死闘部で、死ぬわ。」
伸は、つぶやくように言った。

「は?」
多久は聞き返した。

別のテーブルでは、マロとリンチル、トウナ、大ちゃんが話していた。
「今になってなんだけどさ、なんで、戦争するんだろうな。」
マロが言った。
「日本が乗っ取られるからだよ。」
トウナが突っ込んだ。
「でも、資源のほとんどを外国に頼ってるのに、勝てるんですかね。」
「それは‥石炭とかでおぎなうんだよ‥。」
トウナは言った。
「満州の方から。」
「ああ、そっか。」
3人がうなずいた。

白人2名と黒人1名が、食堂に入ってきた。
この3名はスパイだ。
日本に心酔しており、オアフ島要塞に、工事労働者として送り込んでいた者達だった。

「ハロウ。」
マロが手をふると、白人は目元をゆるめ、黒人は、笑ってくれた。

「知り合いなの?」
「まあね、時々、話しているから。」
「カタカナくらいは、いいですよね。」
「ダメなわけないだろー。」
アハハハ!みんな、楽しそうに笑った。

深夜、大西とムティ、権藤巧、ヤマ、スパイの3名が、地図を広げ、会議をしていた。
隣の部屋で寝ていたエードと富四郎は、その全てを聞いてしまった。

次の日、富四郎とエードは、実家に帰った。
2日たっても軍に戻らなかったが、巧は、2人は病気で、退軍したことにした。

11月28日、戦闘部員に、開戦することが知らされた。
ハワイへの出発は、12月7日の夕方5時30分だ。

正直、日本軍側にもスパイがいた。
しかし、アメリカ側に伝える隙がなかった。

戦闘に行く者は、選ばれた者達だった。
高選手と日比野も呼ばれた。
トウナ、大ちゃんも選ばれた。

でも、マロは選ばれなかった。
「嘘、でしょ。」
「大丈夫だって。俺の名前もないから。」
伸は、マロをなぐさめた。
「ソウデスヨ、ワタシも行きません。」
黒人のロイも慰めた。

リンチルは、窓の外を見ていた。
冬だが、夏のような日差しだ。
リンチルは断った。マロのプライドのためだ。

「雪でも、雨でも、必ず、12月7日の夕方5時30分に出発する。」
巧は言った。

12月7日は、とても寒かった。
息は、とても白い。
黒い空は、とても澄んでいた。

マロは、敬礼をした。

トウナは敬礼をし、少し笑った。

星空は、とても美しかった。
これから、戦争が始まるなんて、信じられない。

トウナは運転席にいたが、眠ってしまったのか、意識を失っていたのか、よく分からないが、気づいたら朝だった。
「ハワイ上空だ、聞こえるか。」
ヤマからの無線で、頭がはっきりした。

「今、何時ですか。」
トウナは聞いた。
「今は‥現地時間で、6時半だ。」
「あ、俺の便所の時間。」
「くそったれ。」
ヤマが無線を切り、大西からの、無線が入った。

トウナは指令通りにした。

みんな生きて帰ったが、ヤマの同期の兵士が死んだ。

「どうだった、やれた?」
「僕は、ヤマさんと同じ戦闘機だったので、言われた通りにしただけでしたけど。」
大ちゃんは言った。


ヤマの同期の兵士は、スパイだったのだ。

地上に近づこうとして、落とされてしまった。

みんなが行っている間に、マロと伸とリンチルは、アイスを食べた。
アイスの冷たさが、死を感じさせたので、マロが「大丈夫かな」と言うと、リンチルはアイスを、土の上に吐き捨ててしまった。








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