第17話

文字数 1,815文字

戦友【大ちゃんのその後】
「聞いていいですか?」
「はい。」
「どうして、先生、いつも元気ないんですか?」
「元気、なくないですよ。」
「え‥。」

『元気ないよな。』
『もしかしたら、家族が亡くなったとかかも‥。』
男子高校生達は、こそこそ話した。
大ちゃんの元気がないのは、当然だ。
大ちゃんは、戦時中から来ている。未来の自分は、体育教師をしていた。

過去で戦争が終わると、戻ることが出来た。
夜眠り、気づくと、過去の朝だった。
少し惜しい気もした。
未来の世界は、物で溢れていて、美味しい物も沢山あった。

自分の黒鞄を見ると、現金が100万円ほど入っていた。
未来でも大金だが、過去の世界では、もっと大金である。
大ちゃんは、床下に隠すことにした。

職場は、役場だ。
戦後は、企業に入社した方が出世できるという噂で、みんな大企業に就職していた。

リリリリーン
「大君。お嬢さんから、電話。」
「え?」
「梅子さん。」
「あ、僕の従妹です。」

「はい。」
「大兄ちゃん?」
「うん、そうだよ。どうしたの?」
「あの‥お金、ある?」
「まぁ~あるってほどではないですけど、まぁ、ありますよ。どうしたの?生活が大変なんですか?」
「違う。今度、東京に行ってもいい?」
「えっ‥。何か用があるんですか?」
「いや~。大兄ちゃんにも、会いたいしさ。見たい場所もある。」
「いいですよ。」
「じゃあ、5月の連休に行くね。10時に、東京駅に来て。」
「連休っていうのは、いつですか?」
「3日。」
「分かりました。」
大ちゃんは、電話を切った。

「お~い!」

「本当に来てくれたんだ。」
梅子は、可愛らしいバックを下げ、帽子をかぶっている。

「行きたい場所があるんですよね?」
「うん。でも、まずは、腹ごしらえ。」
「えっ‥。」
「レストランに行きたいんだ。」
「えっ、レストラン‥?」
レストランは、かなり高級だ。

「あの‥うどんとかじゃ、ダメなんですか?」
「うん。うどんは、うちの地元にもある。」

「お洒落な~、パフェが食べたいんだ。」
梅子は、大ちゃんの手を握って、にっこりと笑った。

「いいですよ。知っている喫茶店がありますから。」
大ちゃんと梅子は歩きだしたが、梅子は手をつないだままだ。
「あの‥手は、繋いだ方がいいんですか?」
「うん。」
「いや。」
大ちゃんは、首をかしげた。
「ちょっと‥。僕は大人ですから。」
大ちゃんは、梅子をにらんだ。

「ダメ、恥ずかしいもん。」
「いや、繋いでいる方が、恥ずかしいですよ。」

「あ、着きました。」

「こんにちは。」
大ちゃんは、ドアを開けた。

店員さんが、メニューを置いた。
梅子は、恥ずかしそうにしている。

「どうしますか?」
「う~ん‥。」
「パフェ、ありますよ。僕は、軽く、何か食べようかな。」

「決まりましたか?」
「うん。」
「お願いします!」
大ちゃんは、店員さんを呼んだ。

「ハンバーグ一つ。」
大ちゃんは、梅子を見た。
「あ‥オムライス一つ。」
「パフェはいいんですか?」
「うん。」

2人は昼食を食べた。
「どこか行きますか?」
「うん。」
「あの‥どこへ‥。」
「お城。」

「お城‥?あ、分かりました。」
大ちゃんは、梅子を皇居に連れて行った。

「お城です。」
「うん‥。」
梅子は残念そうだ。

しばらく歩いて、店を見たりした後、コーヒーを飲んだ。

午後4時。
別れの時間だ。

「じゃ、また来てください。」
大ちゃんは言った。
「うん‥。」
梅子は、残念そうに、改札に入った。

「じゃ!」
大ちゃんは手を振った。
梅子は、少し歩き振り向くと、大ちゃんがまだ手を振っていた。

梅子は、恋人ができず、イラ立っていた。
大ちゃんに電話をしても、相手にしてもらえない。
大ちゃんにとっても、梅子が突然会いに来たりしたら、考えてみるつもりだった。

とにかく、大ちゃんは、仕事が忙しかった。

ある日、梅子から、手紙がくる。

『大さんへ。お元気ですか?私は元気です。こちらは、豚や牛や鶏が少なくなり、毎日野菜ばかり食べています。大さんのお母さんは、やせ細ってきています。もしかしたら、栄養失調かもしれません。』

「え‥。」

大ちゃんは、青ざめた。
大ちゃんは、未来ばかり見据え、家族のことを考えていなかったのだ。

財布を見ても、中には、2980円しかない。

大ちゃんは、夕日がさす電車の中で、目を落とした。
「兄ちゃん、金持ってるか?」
酔っ払いの親父が話しかけた。

「すみません‥。」

帰り、大ちゃんは、床下の100万円を確認した。

「豆腐~!」
豆腐売り、トウナだ。
とりあえず、豆腐を買うことにした。

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