第1話

文字数 2,570文字

戦友【伊藤博文】1
利作は山口の百姓の息子だった。

8才。遊んでいる時に、洋服を着た紳士を見る。
お洒落だと思った。

家に帰ると、泥まみれの父が笑って顔をだした。
「おぉ、もう帰ってたか。」
「うん。」

利作は、泥臭い玄関に座って、わらで、前に見た世界地図をなぞった。

「どうした。」
「なんも。」
「ふーん。」

夕飯の時間になると、父と母は、仲がよさそうに大笑いしている。

「父ちゃんさ、お前が何書いていたか、見てたぞ。」
利作は、恥ずかしくなった。


「父ちゃん、手伝おうか。」
「いい。お前は勉強しとれ。」

父は、息子のために、金持ちの養子になることを決める。

16才の時、利作は、吉田松陰の松下村塾に入る。

「吉田さんてさ、女好きだよな。」
木戸が言ったので、利作は目を落とした。

「どこかの学校で聞いてきたこと、言ってるだけじゃん。」
「まぁ、俺らのような者は、学校には行かれない。ここで学ぶしかないんじゃ。」
木戸が言うと、山田が言った。

「なんや。自分だけは違うって言うんか。」
山田は利作をにらんだ。
「そんなことないよ。」
「ふん。」
利作には、皇族とか貴族とかに憧れるくせがあった。


「歴史に名を残す。」

毎回の授業で、松陰はうっとりした感じで言う。

「はいはい、名を残してくださいよ。」
山田は言い、みんな笑いをかみころした。

利作は実際に、松陰が女と抱き合っている所を目撃していたため、時々気まずくなり、授業を窓から聞いたりした。
大体、本で読んだことのある内容である。

「お前ら、よく考えろぉ!!」
松陰は突然、大声を出した。
「今がどういう時代なのか。」
松陰は将軍のようなかんじだ。

「お前ら、よく考えろぉ!!今がどういう時代なのか‥。」
木戸は松陰のマネをし、みんな笑った。
学校は本当に楽しい場所だった。

ある日、学校に行くと、木戸と山田、野村が、魂がぬけたような顔をしていた。
山田は泣いた後のようだ。
「どうしたんですか?」

『小吉君がな、殺されたんよ。』
山田が利作に耳うちした。

「ええ!嘘だ。」
「ホント。」
野村もにんまりとしながら、言った。

「わしな、人の死体は何度か見たことあったけど、首のない遺体は初めてやったわ。」
「わしも。」

「みんなが見つけたの?」

「そう。お前さ、いなくてよかったぞ。」
「うん‥。」

「誰がやったの?」

『多分、松陰の手下じゃない?』
山田が言った。
「松陰先生がそんなことするはずないじゃないか。」
利作は言ったが、3人は言い返した。
「いや、あいつは、酷いヤツだと思うよ。なぁ?」
「うん‥。絶対に裏の顔がある。でなきゃ、あんな美人とあいつが付き合えるはずがない。」

そのことではないが、松陰は捕まる。
安政の大獄という事件らしい。

松陰の家族は、自分達まで捕まることを怖がり、亡骸引き取りを拒んだ。

「伊藤君‥お願い‥。」
松陰の家族から泣きつかれ、利作は、松陰の亡骸を引き取ることになってしまう。

利作は松陰に会いに行く。
「先生。」
「ああ‥伊藤君だね。」

「何か私に?」
「あ‥。」
利作は、茶屋で買った餅を出した。

松陰は、どろのついた手で、哀れっぽく食べた。

「うまい。」

利作は目を落とした。

「私は明日処刑される。」

「‥止めて、みせます。」

「いいんです。光が見えるうちに、亡くなりたいですから。」

利作は泣いた。

松陰は処刑された。
処刑される時も、松陰は、抵抗しなかった。

利作が亡骸の所に行くと、すでに、木戸、野村、山田が来ていた。

「二度目。」
山田が涙目で言った。

「先生‥!!」
3人は泣いている。

「せめてこれを。」
利作は自分の帯を伊藤の手に持たせた。

「いい帯なの?」
「うん。昨日、女性からもらったものだから。松陰先生の知り合いなんだって。」

利作が言うと、野村が泣いた。
「多分、松陰先生の恋人だろうね。」

博文の夢に、松陰が出てきた。
「最後に、首の血管が動いたのを感じましたよ。」
「そうでしたか。先生、お気の毒に。でもきっとまた、夢で会えるでしょう?」
「それは分からない。」
「ええ‥。」

「伊藤君、今はすごくいい時代だと思う。全員に教養などないから、歴史に名を残せる。」
「でも、僕、戦が怖くて。」

「怖がる必要ない。でも、死なないでください。あなた達が、歴史に名を残してくれれば、私の名前も、歴史上からは、消えませんから。」
「はい、わかりました。」

「人とは、別のことをやりなさい。その方が、歴史に名を残しやすい。」

利作は、イギリスに留学し、英語を習得した。

博文と改名し、初代総理になった。
かつての仲間のおかげである。

かつての仲間と集まり会議し、日清、日露戦争に勝った。

1905年、韓国統監となり、朝鮮半島の政治体制を整える用意をしていた。


アンが家に訪ねてきた。韓国の青年である。
「どうしたのですか。」
「あなたが博文さん?」

博文は、カフェに、アンを連れて行き、話した。
「いいですか。私の先生は、あなたの年で、勉強を教えていたんです。」
博文が言うと、アンはうつむいた。

「でも、どこで学べるんですか?僕は韓国の役人になりたいのに、日本の教育しか受けられない。」
「そんなことはありません。ちゃんと韓国の教育をするように、学校に伝えてあります。」

ふん、アンは韓国語で何か言った。

「何か言いましたか?これから、もっと大きな戦争が起こります。自分達の権力を主張するための戦争です。韓国は私達が守らなければならない。」

アンは、ヘラヘラし、韓国語で何か言った。

「まずは、赤く染めてから、また青に塗りなおせばいいじゃないですか。」

「どういう意味です。まさか、アメリカに侵略を許してから、また独立を目指すという意味ですか。」

「そうです。」

「そんなこと、できるわけない。アメリカ人と、韓国人。髪の毛、肌の色、目の色も違う。下手すれば、韓国人は皆殺しになります。」

アンはひるんだ。



1909年、10月26日。
博文は、ハルビン駅で、亡くなったはずの父を見た。
見たような気がしたわけではなく、はっきりと見た。

「お父さん。」
博文はきょろきょろした。

すると、影から、アンが歩いてきた。

アンは拳銃を向けたので、博文は頭が真っ白になってしまった。

「間違ってる。」
パン
「あなたは間違ってる。」


博文は死ぬ間際、ニッコリと笑った。
アンは、博文にすがって泣いた。

『歴史に名を残す。』

博文はアンを想い、最後に背中を抱いた。

【糸】
By Song River










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