第11話

文字数 821文字

戦友【エードの死】
開戦の直前、軍からは、富四郎とエードが逃げ出していた。
富四郎は、北海道に逃げた。
雪の森で、山賊と撃ち合いになったりしたが、生きていた。

軍から逃げ出したエードは、看護師の免許しか持っていなかったが、医師と嘘をついて、医者として働いたり、化学の教師をしたりしていた。
広島の原爆の日。
恋人のジナに会う日だった。

「ジナ、戦争が終わったら、名前、変えなよ。」
「この名前、気に入ってる。」
「変じゃん、爺ちゃんみたいでさ。」
太陽は、キラリと暑い。

遠くで、ブーという、車が走る音が聞こえた。
その奥の方に、雲の中を走る不気味な音が、エードには聞こえた。

「もし、空襲がきたら、どこにいたら、助かるだろうね。」
「え‥、昼間に、空襲はこないでしょ。」

エードは、太陽を見た。
エードの勘はよく当たる。

もう今からなら、広島から出られない。

「川に行く?」
「うん。」

2人は川に入り、橋の下でこそこそと話した。

飛行機の音は近くなった。
「もう仕方ないかな。」

「こっちだ。」
エードは、鉄の橋から、木の橋の下に移動した。
その様子を、自転車のオバちゃんが見ていた。

ドカン
ものすごい音と熱風が来た。

2人は、息を飲んだ。
川は一瞬で、お湯のようになった。
ジナは、へたりこんだ。
でも、エードもジナも生きていた。

自転車のオバちゃんが、うつ伏せで倒れている。

みんなが、一斉に、川にきた。
「行こう、俺達は。」
「うん。」

焼けただれた人がいる。

すると、二度目の熱風が吹いた。

ジナが目を覚ますと、遺体安置所にいた。
「おや、生きていたのかい。」
岸道さんがのぞきこんだ。
エードは赤い顔をして、眠っている。

手を握ると、握り返した。
「この方はね‥もうダメだと思う。」
岸道さんは5秒ほど、2人を見たが、行ってしまった。

エードは目を開けた。
エードの目は、薄い茶色になってしまっていた。
「ジナ‥。」
エードの目から、涙がこぼれた。
口はかすかに動いたが、なんと言ったか分からなった。
多分、愛してるだと思う。

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