第5話

文字数 621文字

…………………………皮付きの毛髪をわたしの宿泊するホテルの客室に残していった、残りの体だが、なんとブエノスアイレスで発見された。それはマヌエル・プイグの『ブエノスアイレス事件』には描かれなかった類の事件だった。
  彼女はもちろん生身の人間であり、散弾銃のようなものの犠牲で髪は皮ごと飛ばされたものの若く美しい裸体をそのままに、機械人形というふれこみで輸出されており(いったい誰が何の目的で? 彼女は同意していたのか? それとも彼女がイニシアティヴをとって?)、ブエノスアイレスのとあるバーの壁に埋め込まれていたのだよ(誰が予想できただろう?)。人間そっくりの機械人形というわけだから、食事も与えられたし、シモの世話もされていた。前髪ぱっつんのピンクのボブ・ウィッグもかぶせられて夢のような魅力を放っていたから、かなりの人気で店も潤ったということだ。しかしあまりにも魅惑的であることが災いしたのだろう、不徳な酔っ払いの若者が閉店後深夜にしのびこんで彼女に性的な奉仕を求めたのだ。壁に固定されながらも自由な腕をふりまわして彼女は必死に抵抗したが結局は空しくも酒瓶でなぐられ、店主が翌日開店の準備にあらわれたときには(頭頂部さえ見なければ)ストロベリー・シロップを顔につけたアイドルのような姿で静止していた。ウィッグはタイル床に落ちていたということだ、かわいそうに。
 店主は彼女を機械人形だと信じきっていたから彼女は修理に出され…………………………
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