第7話 取調

文字数 1,009文字

「弟がわたしの部屋にいたことは話したね。インディアンとは逆に、頭の皮だけ残していった、事件現場のホテルの部屋だ」遠野は話を戻して、僕の目をみつめた、「わたしを尋問したのが弟で、刑事だって」
 僕は頷いた。
 遠野は愉快そうに笑った。
「刑事だよ。あいつが。といっても正規のルートで刑事になったわけがない。少なくともあいつは二人殺したことがあるのだ、凶悪なやつだよ。まあ、政府が国家の利益のために雇いいれている、あのうさんくさい警察官の一人というわけだ。何人もいるのだろう? そういうの。アンダーグラウンドからリクルートしている。千人単位で。あなたもその一人か?」
 僕は質問を無視した。
 遠野はテーブルの上の拳銃(9mm SIG SAUER P320)に目をやって賛美した。
「いいの使ってるね」そして吹き出した、「頭の皮ふっとばすタイプのガンじゃないけれど。……が警察組織によるものだという可能性をわたしは排除していないが、君島さんは噛んでないね」
 僕はべつに頷きもしなかった。僕は情報を取ろうとしているのであって、与えにきたわけではない。 
「ちょっと部屋を歩きまわってもいいかね。君島さんがわたしにむかってガンを構えるという条件下でいいから」
「かわまないよ」と僕はこたえた、「拳銃も構えたりしない」
 遠野は微笑んで肘掛け椅子から立ち上がって、室内を歩きはじめた。
「弟だが、健(たける)とう名前だ。君島さんとチームを組んでいるのか?」
 もちろん僕はこたえない。
「苗字が佐藤ならサトウ・タケルというところだが、遠野だからそうもいかない」遠野はなぜかつまらないジョークを云った。ジョークのつもりなのかも不明だ。彼はつづけて、「健は最初の殺しのあと、こんなことを云っていたよ。殺したあと、死体の頭をミリタリー・ブーツで踏んずけてやったそうだが、鳩サブレーのようにさくっと崩れたそうだ。靴底の下で、顔面が鳩サブレーのようにさくりと。君島さんはこの話、信じる?」
 遠野が僕に信じるかどうかを問うているのが今の話のどの部分を特定的にさしているのかが不明なので、僕は黙っていた。
 彼は無言の僕を窓際から振りかえった。真剣な表情で僕をみつめていた。夕陽が彼の顔を明るいオレンジ色に染めて美しかった。このようなときにあっても、美は確実に存在するのだ。
 この瞬間僕が弾丸を心臓に撃ち込めば、遠藤にとって、壮麗な死に様といえなくないかもしれない……
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