酒に呑み疲れて 

文字数 340文字

酒に呑み疲れて
何かを取り繕ってみたくて
いつの日にかに買った煙草に火をつける
寒空に
ベランダの洗濯機にもたれかかって
呑み慣れない苦い煙を呑みながら
小さな地獄のようにチロチロと赤黒い火が燃えるのを
ぼんやりと眺めてみる
それにも飽きて
立ち並ぶマンションが抉る狭い空を
うつ伏せに眺めてみれば
半分にかけた月が昇っていた
もう少し昇れば
電線に差し掛かる
もう少しで五線譜に乗って
静かで長い長い全音符に変わるのだろう
でもその音を聞くことはない
酒と煙、それから不実に隔たれた自分には
その精緻で微小な音は
決して届くことはないのだから
それになにより寒いのだ
月と影の語りかける声を
聞くには自分はあまりに遠く
やりきれなさに
眠れるわけがないのだけれど
安らぐわけがないのだけれど
今日を閉じるように
冷たい布団の中に潜る
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