夢魔の脅威03

文字数 2,074文字

雄大の視界に入ったのは、目元まですっぽりと被さるフードで顔を隠し、白い法服のような物で身を包んだ一人の人物。そして、その人物が携えている大鎌。
自分の背よりより長い柄を片手で握り、緩やかな曲線を描く大鎌が、異様に存在感を引き立てる。

「ちょ! 何するの気だ!?」

雄大が、驚き声を荒らげる。

何故なら、味方だと思っていた彼? の腕を伸ばし向ける掌は夢魔では無く、雄大を捉えていた。

その直後、淡い光。それは暗い空間だからこそより目立つ、美しいエメラルド。

その光が、雄大の断裂した腕の傷口を包み込む。

──暖かい。

痛みで帯びる熱。では無く、太陽のような気持ちがいい暖かさを感じていた。……いや、この場合は錯覚になるだろう。しかし、それ程に包み込まれる何かを精神的に雄大は感じていた。

「血が……」

気がついた時には血は止まっており。それと、同時に平常心を取り戻す。

「あっちに行ってて」

女性のような声で、フードから覗かす口元だけを小さく動かし。そして、唯が居る場所を指さす。

「俺も戦」

「無理、邪魔」

確かに、その言葉には説得力しかない。片腕が無いことに加え。全くの素人ならば、尚言われて仕方が無い。
雄大は、自分の無力さを下唇を血が出る程噛み締め思い知った。

「ぉぉあぁああ!!」

夢魔も、こちらの会話が終えるのを待っている訳がなく。雄大に再び薙刀を振り下ろす。


──“ガキャン”

フード被った女性は、脱兎の如く跳躍し。風が遅れて来る程の早い速度で大鎌を振り抜いた。

そして、デカイ図体がたじろぐ程、思い切り薙刀を押し跳ね返しす。

その現実離れし過ぎている実力に雄大は、生唾を飲み込む。

「──はやく」

と、雄大の目の前へと着地をし。顔を横に向け伝える。

「分かった……」

その実力差を見せつけられ。もはや、一緒にと考えた自分に恥を感じ、その言葉を鵜呑みにするしかなかった。

蹌踉めきながら、後方から聞こえる剣撃のかん高い音に耳を傾け走る。

「長門さん、大丈夫ですか??」

唯が居る本棚へと、倒れるように腰を掛け座り込む。

雄大は、痛感した敗北に自分を責めずには居られなかった。

もし、あの人が助けにこなければ。

その言葉のみが雄大の脳内を跋扈する。

「……ごめん、朝霧さん……。俺、無力だったよ」

「そ、そんな事ありません! 私にとっては……その……ヒーローみたいでしたよ……本当に」

「ヒーロー……か」

本当のヒーローは、今あっちに居る人に違いない。

雄大は、心で醜い投げやりなセリフを吐きながら。
「ありがとう、その言葉のお陰で気が少し楽になれたよ。朝霧さん」

と、戦っている彼女を見据えながら口にする。

「あ、ありがとうだなんて! 私は何もッ……!!」
雄大の力になれたのが嬉しかったのか、唯は自分の膝を写し俯き、顔を赤らめながら否定をした。
「でも、あの人……凄いですね……」

「うん、確かに……」

素人である、二人ですらわかる程の実力。

それは、既に勝負が決まりかけているが為に余計感じるもの。

もはや、剣が交わる音は聞こえず。膝を折り、地に腕を付け体制を崩す夢魔。

畳み掛けるが如く連撃を放ち、彼方此方から吹き出す黒い何か。

動くスピードは早く、白い一閃。として捉えるのがやっと。そう、こちらから見る彼女は、彼女自体が一本の刃となっているように目視出来てしまっていた。

ここまで、圧倒する彼女の力に雄大は、嫉妬と尊敬を称える。

「何やる気なんだ……?」

動きが止まり、人として目視出来た。

──次の瞬間。

大鎌を天へと掲げる。すると、一定の速度で、彼女の方角から風が吹き付ける。それは、鼓動の律動が風となり伝わる感覚。

覇気とも呼べるそれを巻き起こし、大鎌は形を違う形へと構成されてゆく。

燦然たる剣に変わり。それは、剣先が視認でき無いほどに長い。

神の一撃。と言っても過言ではない、その周りが歪み見える極光の剣を、容赦なく振り下ろした。

夢魔の断末魔。なんてものは聞こえず、その光が広がり飲み込む頃には既に消失。

と、同時に彼女の姿も消えていた。

さながら救世主のように。

「あれ? さっきの方は何処に行って……」

「確かに。いつの間にか消えていましたね」

「不思議なか──」

──えっ??

急に声が途切れ、そして神隠しにあったかのように姿をくらます。
雄大は、立ち上がり。辺りを見渡すが、いる気配がない。

「まさか……」

「はいですー!!」

「うあ! なんだ……ラビか。なぁ、朝霧さん見なかったか?」

「夢の主は、これを夢として見るのですよお? 目覚める時間になったら普通に目覚めるのですよ?」

赤い目で、雄大を写し。ラビは当たり前な事を聞かれているような、呆然としたような表情で答える。

「なるほど」と、肩を落とし。再び座り込む。

その、正面に膝を抱えこじんまりとラビは座り込み。
ただ、一点、雄大を見つめる。


「雄大さんの答えは……それでいいのですね??」

雄大は、そう言えば。と、アリスに何も言っていないことを思い出し。「ぁあ」と頷く。

「──じゃあ、雄大さん。また会うのですー」
間を少し開け、ラビは別れを告げる。
懐中時計の針が重なり。雄大は、再び現へと導かれて行く。




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