朝霧唯の弱小ヒーロー01

文字数 3,127文字

──いやあ、まいった。流石に、登校中に蒼葉優縁に会う、と言うか出くわすとわ思いもよらなかった。



し・か・も・だ! 俺一人ならまだしも、隣に桜くくりが居る。と言う場面が何故か俺は、気まずくて仕方がなかった。



それもそうだろ、何も無かったとは言え。それでも、結果的に俺は、初めて女子と一夜を明かしたのだから。何故か後ろめたい気持ちになるのだろ普通。



え? そーゆうものであってるよな?



ともあれ、あの時の蒼葉優縁の瞳は何故か切なく見えた……いや、瞳じゃなく雰囲気が。だろうか?



彼女は何かを俺に言いたいんじゃないのか?



俺に? いやいや、それは自惚れと言ったものだろう。



教室に居る時も何一つ変わらず、会話もそんなに無く。それは病室に居た時から、なんら変わらない。



桜くくりも桜くくりで、一夜を明かした俺に対し恥じらいすら感じてないような赴きで接してくるし。





──なんだ? 俺は、そんな知り合いしか出来ないのか? 不思議ちゃんばかりかよ!!





「……でも、ラビといい、くくりといい。何かを言いたそうな感じだった。確かに俺にはまだ、知らない事が沢山ある。ありすぎる……けど」



俺は、今朝方くくりから言われた言葉を思い返しながら、思った。しかし、俺がそう言った過去を今考えているのも。蒼葉優縁のあの表情があってこそのものだろう。



と、言うか。なら、くくりはかなり前から夢渡りを行って居た、と言う事か。



あの小説が体験談ならば答えはきっとそうなのだろう。



あれが全てノンフィクションなら……。



「──いや、いや、今はそこに重きを置くべきじゃない。今重きを置くべきは、朝霧さんの事。俺は、何の為に図書室に居るんだよ……」



そう言いつつ、少し離れた貸出する場所に座る朝霧さんを俺は視界に入れる。



──特に変わった所はないよ……な。



別に違和感も嫌な感じもなかった。



初春の清々しく涼しい風に靡かれ運ばれる本の香りも、一ページ一ページ捲れる心地よい音も。それは、手伝っていた時と何も変わらない。



でも一つ引っかかる点があるなら、それは……。



「──あっ」



黙考しながら、ただ呆然と見つめてしまっていた朝霧さんと目があってしまい。



俺は、反応的に軽い会釈をする……が。



──今、確実に目を逸らされたよな……。いや、そりゃー俺だって逸らすかもしんねーけどさ。



仮にも、図書室と仕事を手伝った顔見知りにされると正直辛い部分がある。



それに……。



「って、それは夢の話だしな」



夢……か。そーいえば自分の夢を見なくなった気がする。見ているのだろうが見ている気がしない。



常に、そこに自分が居て、常に思考している為だろうか。



そう考えると気味が悪いな。



桜くくり、熊猫さんの小説にも事細かく書いている訳も無い。

やはりそれも含め、やはりアリスには話を聞かなくちゃ駄目、と言う事か。



何かを知っている桜くくり。全てを知っている……アリス──か。





「うーっわ!! まーじで!? それはやばいっしょ! 流石に!!」



「でも、マジおもしくね?? こいつの昨日の出来事さ?! 普通に爆笑もんだから!!」



それは突如、春雷の如く図書室内に響き渡る。



耳障りな程に喧々たるもの。それは周りに居る他人もその方角を嫌悪感を抱いているような目で射る。



だが、その視矢は声の正体である一人の一睨みによってねじ伏せられた。

その、この落ち着いた雰囲気に似つかわしくない風貌。一言で言えば不良だろうか。



彼等、数人は二階にある読書所を縄張りに騒ぎ立てていた。



肉食獣を目の前にした草食獣とでも言えるだろう、この光景。注意するものはいなく、彼等の雰囲気に飲まれないようにだろうか。

「ねぇ、もう帰ろうか?」

「だな……って、俺の本……二階だわ……」

「そんなの、委員長に任せればいいじゃん」

「だよな? そーすっか、これも、ちゃんと注意しない委員長が悪いんだし」

周りの他人は逃げるように席を立つ。それは自然と二階にある本を取った他人は、朝霧さんの方へと書物を持っていく。



それは、数冊に留まるはずがない。





──何を言われているのだろうか?



しかし、言われた内容を考えてみても、きっと良い事は言われてないだろう。



それは、帰り際に頭を下げる朝霧さんの苦しそうな表情を見ればわかる。



人とはとことん汚い生き物だな。



喧しい声のみが蝉のように鳴り止むことがない。

静かで秩序ある図書室は一変して、タダの溜まり場と化した。



目で追う、朝霧さんは胸に手を当て、二階を見据えて歩き出した。



注意でもするのだろう、委員長として。



俺もついて行くべきだろう。そう、思い立ち上がると、コチラをみた朝霧さんは笑顔で横に首を振る。



だが、それと相反し伸びる白く綺麗な脚は震えている様にも見えた。



それでも、彼女は委員長として責務を全うしようとしているのかもしれない。だとしたら、彼女の責任感とは相当なものだ。





俺は、小さく頷き。何かあったら、と警戒をしながら経過を見守る事にした。



その答えが本当に正しかったのか、と言う疑問を抱きながら。



「──あ、あのっ……!!」



──この透き通る声は朝霧さんか。



若干、声を張る音が、まるで空気を読んでいないかのように低い音に紛れ微かに聞こえた。



だが、その呼び声に応える者はいない。確実にシカトを決め込みやがったのだ。



──酷すぎる。



俺は、身に宿る怒りを握り拳を作り痛みとして感じる。



「……あ、あのっ!!」



「なあ? 陸。ここら辺、ハエが飛んでね?? 喧しいくて仕方ねぇーわ」





──ッ!! 喧しいのはどっちだ。ゴミ虫が!!



「確かに、害虫は駆除し……おやおや? そこに居るのはハエ……じゃなく、地味子じゃん」



「やば、地味子とか笑うんだけど。容赦無さすぎっ!!」



「んで、何かあるのかな? 俺達に」



「皆が……めい……わくをして」



「はぁ!? 何言ってんの? お前、俺らに逆らうって事だよな??」



「い、いや! そう言った訳じゃ……」



「はぁ、まじ雰囲気台無しだわ。お前、詫びとして今、服脱げよ。どーせ、地味子の体みる奴なんか一生居ねーだろうし。だから、せめて俺達がみてやるわ」



「いや……」



「お前、俺に俺達に逆らったらどうなるか分かってんだろ? また殴られてーのか??」



説き伏せる訳じゃなく捩じ伏せる、威圧感丸出しに震えた声の朝霧さんは沈黙した。



俺は、この時。自分の何かが切れる音が全身を震えさせる。



──そうか、これが武者震い、というヤツなのかもな。





“ダンっ!!”



その喧しい音に負けないほど大きい音を机を叩き出しながら俺は、立ち上がり叫ぶ。



「てめぇーら!! さっきからいい加減にしろや!!」



「は? お前、なに? つか、コイツのなんなん??」



──俺は……。ヒーローなんて言える訳もない。



「彼は──ッ」



「俺は、昨日、手伝いをした人夢粋幸部の一員だ!!」



「なにそれ? ダッセー名前」



──しっしってるし!! くそっ……後で志紀先生に苦言を呈してやる!!



「ぁあ、あれじゃね? なんか人の手伝いをするボランティア部」



「ぁあー、あの喧しい女が顧問の?? で、そのお前がなんのよう?」



「用事なんかねぇよ!! ただ、お前等をぶん殴る!!」



「言うねー、女の前だからって調子に乗んなよ? 立場ってーのを教えてやるよ! 地味男」



──じ、じみとかいうなし!! ふざけんなし!! くそっ!
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