蒼葉優縁と過去と俺03
文字数 3,674文字
一人残された部屋。それは、意外と狭く感じる。それは、まるで俺に心の余裕が無いようにさえ思えてならない。
──まぁ、実際無いんだが。
それもその筈だろ。誰も共感してくれなくとも、俺にとっては一大事なのだから。
“ギシギシ”と誰も居ない部屋にはベットの軋む音のみが一人歩きをする。俺は、その耳に残る音に若干、喧しいさを覚えながらも、アリス・ラビに頼まれた事を思い出す。
思い出した所で、溜息しかでないそれを。
さながら、都市伝説のようなそれを。
「思い出した所で……何だよな。実際は。その後の行動、決意をどう固めるか……って事何だよな」
──だぁあ!! くっそ。死にたくはない。死にたくはないが辛い。
何が一番辛いって、人と親密になる事にトラウマを覚えている俺が人と親密になれ。と言う事なんだよ……。
べっ別に、コミュ障とかじゃねぇけどさ!
まず初めにどーやって声をかけるんだ?
例えば──。
「あの、ちょっと君っ??」
それは、鳥が気持ちよさそうに歌い。そして晴れ渡った早朝の優しい風が吹き付け。
俺の、目の前を歩く琥珀色の髪をした女性がハンカチを落とした時だった。
「あ、はい? 私ですか??」
風にスカートを踊らせながら振り向いた彼女。その少し、呼ばれて不安そうな表情を浮かべつつも。喉から発せられる声は俺を包み込む程に魅力的だった。
俺は、余りの美人ゆえに、顔を赤らめ。声を吃らせ、目を見ることを出来ずにハンカチを“ズイ”と渡す。
「え、あの。わざわざありがとうございます。これ、私の大切な思い出の品なんです……本当に良かった……」
「そ、そうなのか?? なら、良かったよ。もう、落とさないよーにな?」
「あ……あのッ!!」
「ん?」
「同じ……学校……ですよね?? 良かったら……その……一緒に行きませんか……ッ?」
──って、ふざけんな!! 何想像してんだ俺は!! と言うか、声をかけるどころか。『あの』の、あ行すら言えないは!! それに、大事なハンカチなら持ち歩かず大事にしまっとけよ!! この、フラグのバカヤロー!!
何なんですかね。あの落とし物イベント。
現実なんか、そっから発展すると言えば……。って危ない危ない。また悲痛に悶える所だったよ。
──ダメだ。考えても、いいキッカケなんか思いつきはしない。
俺は、医者から服用するようにと渡された痛み止めを飲み。現世に嫌気をさし。新たな死地に向かうべく目を瞑った。要はふて寝というヤツ。
──夢渡りか……。今日は、何事も無く眠れそうだな。
* * *
「……意識はある」
──ちょっと待てよ。クロノスと癒着したら俺寝付けない、なんて事無いですよね?
此処が一発で夢だと分かった。これも、良くも悪くも記憶の癒着と言うやつがあってこその結果なのだろう。
──しかし、何だろうか。この懐かしい景色は。
目の前に広がるのは、深緑生い茂る自然に満ちた場所。
三百六十度見渡せど、その緑が途切れることは無い。まるで、化石の様に、いつ・誰が。付けたのかすら分からない小さい足跡が先へと続いていた。
俺は、その先が気になり、探偵の如く。足跡を辿る。
「あーちゃん!! こっちこっち!! 」
「もー! 待ってよ!! なー君!」
若々しく、そして初々しい気持ちになる。幼い子供達の声が響く。
──でも、こんな森……の様な場所に遊びに来るなんて大丈夫なのか??
決して、視界がよく足元が良いとは言えない。目を背けながら歩けば枝に頭をぶつけそうな程だ。
その場所を風のように若い声が舞う。
「わぁー!! 凄いッ!! きれーい」
「だろっ?? こんな時間に羽化するなんて珍しいけどねぇ」
「そーなんだ? なー君は物知りさんなんだねっ」
何処か懐かしい声。その声に俺はの足取りは早まる。
自然はそれを邪魔するように、さながら幻覚を見せている。かのように視界に同じく広がり続けた。
──やっと見つけた。
二人して、魅入っているのは蝉の羽化をした直後のもののようだ。
確かに、あの色合いには神秘的な何かを感じる。
……確か、俺も前に……。
二人は、触ろうとせず。まるで見守る親のようにただただ、見つめていた。
手を繋ぎながら。
「自然って、本当にいいね。私、なー君と来るこの場所が大好き」
「俺も、あーちゃんと見る自然も大好きだよっ!」
「もっ! てなによ!! 酷いっ!! でも、良いの?? 私と居ると不幸になっちゃうよ……今だって……」
「何言ってるのさ? それは、禁句だって約束したろっ! 俺は、不幸だなんて思ってない。俺がしたいから、そうしてるんだよ!!」
──なに、この子チョーかっこいい……。
青い帽子を被り、白いティシャツに茶色のハーフパンツ。靴は、俺も好きだったヒーローの赤い靴。
そんな、お世辞にもお洒落とは言えない少年が口にする言葉。それに、照れているのか、同じく赤い帽子を被り。古臭い黒いワンピースを着こなす少女。
──これは、夢渡り……なのか??
いいや、でも今の俺は、こんな幼い子供達と知り合うキッカケなんか……。
羽化を見終わり、再び歩き出す二人。
時折見せる彼方此方を見渡す仕草は何かを探している様にも思えた。
──つーか……歩き慣れすぎだろ……歩く速度早すぎだっつーの!!
「なー君!! ココなんかどうかな?? 海も見れて綺麗だし!! わかりやすいし!!」
「馬鹿だなぁ! わかり易かったらダメだろっ? でも……うん。そうだね! この場所がいい!!」
「じゃあ──」
「ここにしよ!」
「ここだね!」
すると、二人は徐に土を必死に掘り始める。
無言でいて、笑顔の二人は幸せの二文字で例える他ない。と、思える程にこの時間を楽しんでいるように思えてならない。
──でも、何だろ……この感覚。この海が目の前に広がる場所……これは……俺の過去の夢……??
となれば、結果は分かりきっていた。見たくもないものを見てしまう。
「じゃあ、行こうかッ?」
──ダメだ!! 今立ち上がれば!!
「うん! 行こう!! なー君は優しいね??」
「なっ何だよ、急に」
「だって、足元が悪いからって、わざわざ場所を交代してくれるなんてさあー」
──場所を交代??
ぁあ、そうか。なるほど……。此処は並行世界。もう一つの可能性……。
こんな結末もあったんだな。
手を繋ぎ、小さい背中が、より小さく見えるまで俺は二人を一方的に見送った。
「こんな、幸せそうな二人を見殺しにしていいものなのか……。全ての意識が混合すれば、あの子達だって……」
そんな、酷な事。あんな表情を見せられて出来るはずがない。
この二人が作った大事な思い出も。俺達が作った思い出も。これからの未来だって……。
俺は、自分の秘めたる可能性に深く誓った。
今あるものを守ろうと。
──なー君に、あーちゃんか。そんなふうに呼びあってたんだな。やれやれ、大人になるってーのは寂しいもんだな。
少し、俺も歩こう。この可能性に満ちた懐かしい場所を。
「……って!! 冷たっ!!」
「あら、やっと目が覚めたのかしら? 何やら“ニヤニヤ”と気持ちが悪かったわよ?? 私、貴方に悪感情を抱いちゃったじゃない」
目の前には、見慣れた白い天井。そして、あの時とは、全く違うお洒落な、春をイメージしたようなワンピースを着こなす蒼葉優縁が居た。
「おまっ!! 目を覚まさせる。と言う行為をするのなら、冷えたペットボトルを頬に当てるのは止めろ!! 死ぬ所だったじゃねーか!」
「ふふふ。──死ねばいいのにっ」
──笑顔で言うな怖い。
「そう言えば、俺が退院したら。一緒に出掛けに行かないか?? 見せたいものがあるんだ」
──もし、アレが本当なら。あそこに何かがある筈なんだ。
だが、案の定。嫌な表情を霞んだ瞳で作る。
「……その、だから……少しでいいから……あーちゃん……?」
「──ッツ!!」
正直、激しく罵られると思った。しかし、彼女はそれと、真逆の行動をコンビニ袋を“ガサリ”と手放し。綺麗で細い指で口を押さえ、瞼を見開き今にも泣き出しそうな表情で作る。
「……わかったわ。行きましょう……なー君」
「ん? 最後なんて言った?? 上手く聴き取れなかったんだけど……」
「キモイと言ったのよッ」
──やっぱりか!! 俺の羞恥を少しは褒め称えろよ!!
まあ、でも。ともかく、彼女。蒼葉優縁との繋がりは俺にとっても大事なものだった。と言う結果に運命的な何かを感じたのも事実。
「ふざけろ! と言うか、蒼葉。学校は?」
「…………サボっちゃったッ」
──おい
──まぁ、実際無いんだが。
それもその筈だろ。誰も共感してくれなくとも、俺にとっては一大事なのだから。
“ギシギシ”と誰も居ない部屋にはベットの軋む音のみが一人歩きをする。俺は、その耳に残る音に若干、喧しいさを覚えながらも、アリス・ラビに頼まれた事を思い出す。
思い出した所で、溜息しかでないそれを。
さながら、都市伝説のようなそれを。
「思い出した所で……何だよな。実際は。その後の行動、決意をどう固めるか……って事何だよな」
──だぁあ!! くっそ。死にたくはない。死にたくはないが辛い。
何が一番辛いって、人と親密になる事にトラウマを覚えている俺が人と親密になれ。と言う事なんだよ……。
べっ別に、コミュ障とかじゃねぇけどさ!
まず初めにどーやって声をかけるんだ?
例えば──。
「あの、ちょっと君っ??」
それは、鳥が気持ちよさそうに歌い。そして晴れ渡った早朝の優しい風が吹き付け。
俺の、目の前を歩く琥珀色の髪をした女性がハンカチを落とした時だった。
「あ、はい? 私ですか??」
風にスカートを踊らせながら振り向いた彼女。その少し、呼ばれて不安そうな表情を浮かべつつも。喉から発せられる声は俺を包み込む程に魅力的だった。
俺は、余りの美人ゆえに、顔を赤らめ。声を吃らせ、目を見ることを出来ずにハンカチを“ズイ”と渡す。
「え、あの。わざわざありがとうございます。これ、私の大切な思い出の品なんです……本当に良かった……」
「そ、そうなのか?? なら、良かったよ。もう、落とさないよーにな?」
「あ……あのッ!!」
「ん?」
「同じ……学校……ですよね?? 良かったら……その……一緒に行きませんか……ッ?」
──って、ふざけんな!! 何想像してんだ俺は!! と言うか、声をかけるどころか。『あの』の、あ行すら言えないは!! それに、大事なハンカチなら持ち歩かず大事にしまっとけよ!! この、フラグのバカヤロー!!
何なんですかね。あの落とし物イベント。
現実なんか、そっから発展すると言えば……。って危ない危ない。また悲痛に悶える所だったよ。
──ダメだ。考えても、いいキッカケなんか思いつきはしない。
俺は、医者から服用するようにと渡された痛み止めを飲み。現世に嫌気をさし。新たな死地に向かうべく目を瞑った。要はふて寝というヤツ。
──夢渡りか……。今日は、何事も無く眠れそうだな。
* * *
「……意識はある」
──ちょっと待てよ。クロノスと癒着したら俺寝付けない、なんて事無いですよね?
此処が一発で夢だと分かった。これも、良くも悪くも記憶の癒着と言うやつがあってこその結果なのだろう。
──しかし、何だろうか。この懐かしい景色は。
目の前に広がるのは、深緑生い茂る自然に満ちた場所。
三百六十度見渡せど、その緑が途切れることは無い。まるで、化石の様に、いつ・誰が。付けたのかすら分からない小さい足跡が先へと続いていた。
俺は、その先が気になり、探偵の如く。足跡を辿る。
「あーちゃん!! こっちこっち!! 」
「もー! 待ってよ!! なー君!」
若々しく、そして初々しい気持ちになる。幼い子供達の声が響く。
──でも、こんな森……の様な場所に遊びに来るなんて大丈夫なのか??
決して、視界がよく足元が良いとは言えない。目を背けながら歩けば枝に頭をぶつけそうな程だ。
その場所を風のように若い声が舞う。
「わぁー!! 凄いッ!! きれーい」
「だろっ?? こんな時間に羽化するなんて珍しいけどねぇ」
「そーなんだ? なー君は物知りさんなんだねっ」
何処か懐かしい声。その声に俺はの足取りは早まる。
自然はそれを邪魔するように、さながら幻覚を見せている。かのように視界に同じく広がり続けた。
──やっと見つけた。
二人して、魅入っているのは蝉の羽化をした直後のもののようだ。
確かに、あの色合いには神秘的な何かを感じる。
……確か、俺も前に……。
二人は、触ろうとせず。まるで見守る親のようにただただ、見つめていた。
手を繋ぎながら。
「自然って、本当にいいね。私、なー君と来るこの場所が大好き」
「俺も、あーちゃんと見る自然も大好きだよっ!」
「もっ! てなによ!! 酷いっ!! でも、良いの?? 私と居ると不幸になっちゃうよ……今だって……」
「何言ってるのさ? それは、禁句だって約束したろっ! 俺は、不幸だなんて思ってない。俺がしたいから、そうしてるんだよ!!」
──なに、この子チョーかっこいい……。
青い帽子を被り、白いティシャツに茶色のハーフパンツ。靴は、俺も好きだったヒーローの赤い靴。
そんな、お世辞にもお洒落とは言えない少年が口にする言葉。それに、照れているのか、同じく赤い帽子を被り。古臭い黒いワンピースを着こなす少女。
──これは、夢渡り……なのか??
いいや、でも今の俺は、こんな幼い子供達と知り合うキッカケなんか……。
羽化を見終わり、再び歩き出す二人。
時折見せる彼方此方を見渡す仕草は何かを探している様にも思えた。
──つーか……歩き慣れすぎだろ……歩く速度早すぎだっつーの!!
「なー君!! ココなんかどうかな?? 海も見れて綺麗だし!! わかりやすいし!!」
「馬鹿だなぁ! わかり易かったらダメだろっ? でも……うん。そうだね! この場所がいい!!」
「じゃあ──」
「ここにしよ!」
「ここだね!」
すると、二人は徐に土を必死に掘り始める。
無言でいて、笑顔の二人は幸せの二文字で例える他ない。と、思える程にこの時間を楽しんでいるように思えてならない。
──でも、何だろ……この感覚。この海が目の前に広がる場所……これは……俺の過去の夢……??
となれば、結果は分かりきっていた。見たくもないものを見てしまう。
「じゃあ、行こうかッ?」
──ダメだ!! 今立ち上がれば!!
「うん! 行こう!! なー君は優しいね??」
「なっ何だよ、急に」
「だって、足元が悪いからって、わざわざ場所を交代してくれるなんてさあー」
──場所を交代??
ぁあ、そうか。なるほど……。此処は並行世界。もう一つの可能性……。
こんな結末もあったんだな。
手を繋ぎ、小さい背中が、より小さく見えるまで俺は二人を一方的に見送った。
「こんな、幸せそうな二人を見殺しにしていいものなのか……。全ての意識が混合すれば、あの子達だって……」
そんな、酷な事。あんな表情を見せられて出来るはずがない。
この二人が作った大事な思い出も。俺達が作った思い出も。これからの未来だって……。
俺は、自分の秘めたる可能性に深く誓った。
今あるものを守ろうと。
──なー君に、あーちゃんか。そんなふうに呼びあってたんだな。やれやれ、大人になるってーのは寂しいもんだな。
少し、俺も歩こう。この可能性に満ちた懐かしい場所を。
「……って!! 冷たっ!!」
「あら、やっと目が覚めたのかしら? 何やら“ニヤニヤ”と気持ちが悪かったわよ?? 私、貴方に悪感情を抱いちゃったじゃない」
目の前には、見慣れた白い天井。そして、あの時とは、全く違うお洒落な、春をイメージしたようなワンピースを着こなす蒼葉優縁が居た。
「おまっ!! 目を覚まさせる。と言う行為をするのなら、冷えたペットボトルを頬に当てるのは止めろ!! 死ぬ所だったじゃねーか!」
「ふふふ。──死ねばいいのにっ」
──笑顔で言うな怖い。
「そう言えば、俺が退院したら。一緒に出掛けに行かないか?? 見せたいものがあるんだ」
──もし、アレが本当なら。あそこに何かがある筈なんだ。
だが、案の定。嫌な表情を霞んだ瞳で作る。
「……その、だから……少しでいいから……あーちゃん……?」
「──ッツ!!」
正直、激しく罵られると思った。しかし、彼女はそれと、真逆の行動をコンビニ袋を“ガサリ”と手放し。綺麗で細い指で口を押さえ、瞼を見開き今にも泣き出しそうな表情で作る。
「……わかったわ。行きましょう……なー君」
「ん? 最後なんて言った?? 上手く聴き取れなかったんだけど……」
「キモイと言ったのよッ」
──やっぱりか!! 俺の羞恥を少しは褒め称えろよ!!
まあ、でも。ともかく、彼女。蒼葉優縁との繋がりは俺にとっても大事なものだった。と言う結果に運命的な何かを感じたのも事実。
「ふざけろ! と言うか、蒼葉。学校は?」
「…………サボっちゃったッ」
──おい