ボッチな俺とスクールライフと02

文字数 3,758文字

入学式の時といい。かなりの面倒くさがりな印象がある俺の担任。けれど、やはり自分の授業になると真剣で、流石大人だな。と、感心をしていた。



淡々と話が進み、皆が黙々に黒板や机と睨み合いをしている中。俺が一番、心に・耳に・目に・記憶に焼き付いたもの。それは、教科書から語られる話ではなく。志紀先生、自らの考えを語った数の話だ。



「数は悪にも善にもなる。蠢く人々にとって、誰かが死のうが何も変わらない。が、数は人を動かす。人間とは、数に対し敏感に反応する生き物なのだ」云々。



その訴えにも似た自論。それに共感せざるを得なかった。



そして、多数決もまた、善を悪にする力をもつ。つまり、数とは絶対的な強みを人間界では持っている、との事だ。



イジメだってそうだ。一人でイジメる訳じゃないし。数が集うからイジメる。そう言った過去があるからこそ俺は、志紀先生の話に聞き入ったのかもしれない。





俺は、自分の気持ちを表しているような。何も無い、真っ白いノートにその話だけを書き留めた。



チャイムが鳴ると、呪縛から解放されたかのように静まり返っていた部屋が“ガヤガヤ”と喧々たるものに変わる。



振り向き、後ろの友達と会話をするものも居れば。立ち話に興じる奴もいる。



──充実させやがって!!



だが、一番「解放されたんだな……」と分かったのは志紀先生だ。



両手を、天井を触るかのように高く突き上げ、顎を引き、つま先たちをしながら“グイっ”と背伸びに興じていた。



「やぁあっっと、終わったー!!」



俺の席、そう、教室の後ろまで行き届く大きい声を出す志紀先生。そのメリハリのある喋り方から考えるに、本当に嬉しそうだ。



──だから、先生が良いのかよ……。





「所で長門君? さっきから携帯を眺めて何をしているの?? 携帯フェチなの?」

­­

俺が、あたかも凄い奇人じみた行動をしている。と言わんばかりに蒼葉優縁は生暖かい視線を横目で送る。

そう、こちらに振り向く事はせずに。

──なんだよ、携帯フェチって。どんな性癖だよ……。



「そんな奇怪なフェチなんか持ち合わせてないわ! 寧ろ、連絡取ってるのかな? とか思わないのかね??」



すると、蒼葉優縁は数秒間、すっとぼけた真顔で俺を見つめてから首を「はて?」と傾げた。



「……ごめんなさい。ちょっと聞き取れなかったの。ボッチの俺は、連絡とれるやつなんか居ない……かしら??」と、哀れむかのように口にした。



「……おい」



──悪意がありそうな言葉を、まったく悪意の感じることが出来ない眼差しで言うんだよな……こいつ……。



「まあ、これは小説投稿サイト。俺が好きな作家さんが投稿しているんだよ」



「──そう……」

だが、この言葉を言う頃には二人共、目を合わせることもなく。自分が、心を許せる物を見つめていた。



きっと、蒼葉優縁にとっての『ソレ』もそうなのだろう。と思う。



自分から、聞いといて聞き流すような素振りは若干、気持ちがいいものではないが。彼女の場合は仕方がないのかもしれない。



そんな事を考えつつ俺は、携帯小説に目を通す。



この作者『熊猫』さん、の作品は面白い。特に今連載中の作品『現実の狭間で俺は死ぬまで生きる』は堪らないものがある。三人称の特徴を活かした、手に汗握る戦闘における描写。変化自在で奇々怪々な生き物。それを、具現化される魔法や刀で挑んだりする。



俺は、熊猫さんの更新が楽しみで仕方がないのだ。



──しかし、くまねこって……。クマで猫とか、熊に頬擦りなんかされたら怖くて仕方が無い。



熊のように大柄だが、猫のように気分屋で甘えたな男が書いているのだろうか。



「はぁはぁはぁ……あ、そうだ。長門雄大と蒼葉優縁は昼休み、会議室に来るよーになっ」



息を荒らげながら慌てた赴きで、震えた膝を両手で支える志紀先生。後ろのドアからこちらを片目を瞑り苦しそうな表情を浮かべる。しかし、決して、こっちまで来ない。と言うのは意地なのだろうか。



蒼葉優縁は、その陸上部顔負けの出し切った感を出しまくる志紀先生の声だけに反応し軽く頷く。(本を読みながら)





「──えっと、昼食は??」



「そんなもの、はぁ、会議室で、はぁ、食えば良いだろ? 分かったな??」



「え……あ、はい。わかりました」



その言葉を確認すると、再び体を起こし、大きく両手を振りかぶり走り去った。その光景は、さながら大きく黒いネズミの走り方に思えて仕方が無い。



──つか、廊下を走るなよ……志紀先生……。



「って、昼食の時間を使ってでも話さなきゃいけない事って何なんだろうか……」

俺の一人言に蒼葉優縁は反応を示す。

「そんな事は行けば分かるんじゃないかしら」



至って冷静の蒼葉優縁。そんな対応に「確かにな」と頷く。



そして、休みの終を知らせる鐘はあっというまに校内に響いた。



志紀先生に呼び出しを食らってしまった昼まで後ニ時限。俺は、今までの遅れを取り戻そうと必死こいてノートに書き写した。



その間、手が空いた時間。本の僅かな時間。時折みた空は青く。校舎から聞こえる和気あいあいとした声は、健やかな風と重なり心地よいものだった。



だからこそ俺は、ノートにまとめ終わった最後に、こう綴った。



──これも青春。



そう思えばボッチだって構わない。そう思う事にした。



「──って、それじゃあ、駄目なんじゃねーか……」





「……何を、廊下で悶えているの? 気味が悪いわよ」



「それを、気味悪がっていないかのような無表情で言うなよ。逆に辛くなるわ」





そうだった。今考えるべきはそこにはない。



今考えるべくしてあるものは呼び出しを食らったことについてだ。



「と言うか、蒼葉、お前よく落ち着いていられるな??」



「何がかしら??」



平坦な口調で蒼葉優縁は背を向け先頭を歩きながら言う。



「いや、だから。呼び出しを食らっているのにだよ」



「……あ、そんな事より」



──こいっつ、話を逸らしやがった。



「そんな事より、なんだよ。て言うか、そんな事じゃ、片付けられない事かもしれないんだぞ!!」



「──そんな事より、長門君」



──くっそ!!



「な、なんだよ……」



「私、長門君に助けられる前の日にね」



「おー!! 早いじゃないかあ!! 感心感心!!」



何か言いたげな蒼葉優縁の小さい声を掻き消すように。大きい声が後方から響く。



「じゃあ、向かうとするかね!!」



ハキハキとした物言いは逆に俺の思考を鈍らせる。



それに。



「今、蒼葉は何を言おうとしたんだ??」



「まぁ、いいわ。次の機会にでも話す事にするわ。──それより、中に入りましょう長門君」



目の前には、教室の物とは比べ物にならない立派な扉が待ち構えていた。



その威圧感は、まるでこの先に計り知れない試練を感じさせるもの。俺は、覚悟を決め。恐る恐るドアノブに手を……。



──え?! ちょ!



掛けようとしたら、軽々と蒼葉優縁が開いた。



どうやら、俺の感じていた重みはそんなもののようだ。



目の前には長方形の形に机が並べられ。どこに座っても周りが見渡せる仕組みになっていた。



だが、その「何処に座っても」って雰囲気が困る。



「まあ、とりあえず……」



志紀先生は、何やら“ガチャガチャ”と椅子と席を弄り始める。



百五十センチ程ある長方形の机一つ。



志紀先生が座る、目の前に椅子が二つ。そして“コンコン”と人差し指で机を叩き俺達を見つめた。



どうやら、そこに座れと言うことらしい。



俺は、その言葉に出さない何かに不安を覚えながら蒼葉と一緒に席につく。





「よし、とりあえず飯を食べようか!!」



その不安感をぶち壊すように、志紀先生の声が響く。



「コンビニ弁当なんですね??」



「まぁ、作るの面倒いし……」



「そんなんじゃ、先生は独身ですね」



蒼葉優縁の言い放った鋭い矢。しかし、俺は登校した時の無残な彼女を見ている。



これは、蒼葉優縁は死んだな。と、恐る恐る、志紀先生の顔色を伺うと、その目には魂が抜けたかのように遠い目をしていた。



数秒、沈黙の後。我に返ったかのようにコンビニ弁当を睨みつけ。勢い良く割り箸を割り、豪快に封を開け、がっついた。



──言われたくないんだな……。



しかし、そう言った蒼葉優縁は、体通り少食なのか。売店で売っている小さいパンを少しずつ口に含み食べている。



「と言うか、志紀先生」



「はんだ??」



「いや、飲み込んでからでお願いします」



「そんな行儀の悪さじゃ、彼氏が出来ても振られますね」



「グッ…­…­」



目を伏せ、まるで興味が無いかのように毒を吐く蒼葉優縁。その言葉に耐性もなく、ダメージをくらい続ける志紀先生は「今日の飯の味は涙の味だ」なんて、言いそうな程に泣きそうだ。



「──と、とりあえず……なんで昼なのか。と聞いたな??」



──無理矢理感が凄い辛そうなんだよな……

「はい。言いました」



「それはな? 早く帰りたいからだ!」



──これ、もう先生失格だろ……。






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