プロローグが繰り返されるなんて聞いてない03

文字数 2,763文字

しかし、下着を見た。いや、事故だし、見るつもりは無かっただけだし。なんて言い訳をした所で、事実には変わりはなく。



変な所で仲間意識が強い人間は、俺を「何この人、下着を覗くとか、サイテー」とか、言っているような目で見る。



完璧に、小学校なら噂は噂ではなく真実として、全てを捻じ曲げ広まる。まぁ、今回は真実だけどさ……。





俺は、冷たい視線を入学式当日に浴びながら登校する事になった。



本来なら、此処で仲のいい親友が肩を叩いて「やったな、お前。朝から付いてるじゃねーか!!」とか満遍な笑顔でじゃれて来て。それに対して幼馴染みの女の子が「何バカな事言ってんのー? 本当にサイテー」とか、なんやかんや始まって。気まづい空気だったのがいつの間にか、暖かい団欒に変わるはず。



──何それ……。俺、そんな人、一人も居ないんですけどっ……!!気まづいだけなんですけど!!



重い足取りで、一人の寂しい僕は高校に向かった。





目の前には、潮風で錆びた校門。陽に当たり、多少眩しく反射する白い建物が俺を待ち構えている。



その門を、最後面の魔王が住まう居城に挑む勇者の如く。緊張という気持ちを抱き。生唾を飲み込みながら踏み込む。



だが、俺以外の勇者達は、何のことは無い。軽い足取りで“ヒョイヒョイ”と、進んでいく。



──完璧に出遅れた。



そして、すれ違い際に聞こえるヒソヒソ話。



あ"あ"な"ぎだい。



きっと、此処にも中学校からの同級生も居るに違いないが。今の俺に、その言葉は必要が無い。と言うより、用いる事ができない。



だからこそ、俺は二人・三人で登校する、仲睦まじい彼等のように出来ないのだ。



要は、顔見知りは居るがボッチ。故に、一からスタートを切らなければならない。



──なのに、出だしがアレとか本当に付いてない。



俺は、“トホホ”と背中で語る様に肩を落としながら案内に従う。



長ったらしい入学式を終え。クラスを無事に見つけると、黒板には荒々しい文字で大きく『取り敢えず、自由に席に着いているように』と、書かれていた。

きっと、逞しい体躯会系の男性教師が書いたのだろう、その指示に従う。



都合がいい事に、他の生徒達は仲間内でまとまって立ち話をしてる為に席はかなり空いていた。中には数人、本を読みながらしっかり座って居る人も居たりするが。



──いや、きっとそれが本来の姿なのだろう。……ぅう……。



精神的にボディーブローを食らった気分になりつつ、俺は、窓際の席に着く。



──あれ、これも確か夢で……。



そんな事を考えながら、俺が窓の外に切ない想いを馳せていると“ガチャ”っと、椅子を引くような音が近くでなった。



朝の一件で神経が研ぎ澄まされた俺の耳は、些細な音も聞き逃さない。とか言って……。



「──隣り、いいかしら?」



「……はひっ!」



不意を突かれたために若干上擦ってしまったが。いや、女性に声を掛けられるのが慣れた男子生徒なら馴れ馴れしいく「ん? ぁあ、いいよ。座りなよっ。キラッ」的な感じ何だろうが。そんなスキル俺にはない。



だけど、流石に今のままじゃ恥ずかしいから言い直そう。



「──えっと、あの。宜しいですよ」



「……別に、言い直さなくてもいいんじゃないかしら??」



溜息混じりに、気だるそうに言葉を発した女性。

その、人と距離を置く物言いと相反して、凛とした透き通った声をしていた。



白いブレザーが良く似合う細身の体つき・後ろに結くかれた、腰辺りまで伸びているであろう長い髪・外人のようなしっかりした目鼻立ちが気品を醸し出している。



──何処かの、お嬢さまか何かなのか。



思わず横目で見蕩れてしまっていると、その本人である女性と当たり前の様に目が合ってしまった。



その目線は、まるで、関わるなと訴えるかのように細く、霞んだ眼光。まるで、人に興味が無いよう感じだろうか。



「はぁ……」



トドメに、深い溜息を吐かれ目を伏せる。



俺は、彼女に他とは違う、近寄り難さを覚える事となった。





何故か、異様な違和感を感じながら俺は、ひたすら、何処か気になる彼女を見ない様に空を眺める。



「いつまで、突っ立って、くっちゃべてんだ! 早く席に付けっ!!」



教室のドアが空きっぱなしだった為か。「ヤベッ、先生来たぞ」なんて、焦りイベントが発生する間もなく、速やかに席につく生徒達。



──最初から座ってた俺は、優秀、あは。



と言うか、目の前に居る先生は予想外の女教師だと言うことに驚かずには居られない。



ショートカットの髪型にも関わらず。分かる小さい顔。背は高く、タイトな黒いスカートから覗かす細い脚は、女性の大人としての魅力を遺憾する事無く知らしめるのには十分過ぎるものだ。



口元にあるホクロは色っぽさを出しつつ。口元からは“チュッパチャプス”のような白い棒が“ぴょこぴょこ”と動いていた。



──いやいや、先生がいいのかよ……。



「因みに、今着いた席が、一学期の君たちの席という事にするっ!」



俺にとって、そんなイベントはどうでもいい事だが、残念そうな声を出す彼女彼等は、そうは問屋が卸さないらしい。



思いの丈を一方的に伝える生徒に対し。先生は、茶色い髪の毛を掻き揚げ口を開く。



「……だって、面倒臭いじゃん」



──いやいや、だから先生がいいのかよ……。



それを最後に、生徒に背を向け黒板と向かい合うと“ガッガッ”と荒々しく文字を書き始めた。



やはり、あの男らしい文字は、この教師によるものだったようだ。





「えー、私は一のAを担当する志紀由美だ。これから、一年よろしくっ」



生徒等を見渡すように左右隅々に目を行き届かせるように、大きい瞳を動かしながら大きい声と笑顔で志紀先生は自己紹介を終えた。



「何か質問がある者はいるかっ??」



「えっとー!! 先生は結婚なさってますかぁ??」



定番と言ってもいいイベント。辺りが笑いで湧く中“パキッ”とチョークが折れる高い音だけが空気を読むことなく響く。



そして、コメカミを“ピクピク”動かしてそうな引き攣り笑顔で「居るわけないだろ」と答える。



──志紀先生……ドンマイ……。



志紀先生に、男絡みの話は禁句なようだ。



無言で居て、情報収集が出来る俺とか。天性の才能としか言えないな。



そして、明日の行事予定等などを、長々と話されて一日を終えた。



苦痛だったが、一つ幸いだったのは今朝の少女とは、同じクラスでは無かったという事。



ただそれだけ。結果的に、高校デビューも果たせる事なく中学経由で、ボッチと言う解だけが残った。



──正夢もまったく役に立たないし。くそったれ!!








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