桜くくりと夢魔の剣撃02

文字数 1,687文字

「ぉぉあぁああ!!」



──危ない。



くくりは、脱兎の如き速さで薙刀に向かい一閃を描く。



「そんなスピードじゃ、風は捕まえられない……」



まるで、風そのものがくくりを後押しするかのように、いや、この場合はくくり自体が風となり。そして鎌の刃先からは禍々しいと言ってもいい程の風圧が巻き起こる。



白い法服とフードを激しく踊らせ。そして、力任せに夢魔を押し返す。



──この夢魔は……邪鬼型。これなら、うち、一人でも……!





「──はやく」



端的に、重要な言伝をするくくりの言葉に、目尻に皺を寄せながら雄大は頷く。



その弱々しい声・表情はまるで、自分を責めているかのように、くくりの瞳には写っていた。



だが、そんな事を気にし続ける間も無く。夢魔=邪鬼型の太い大腕は弧を描き振り下ろされる。



夢魔から発せられる、地面すら揺れそうな程、低く響く呻き声。耳にも残り、記憶に焼き付きそうな程の嫌悪を抱きながら、くくりは、紙一重横へと受け流す。



「……そこっ!」



伸びきった腕に眼光を穿ちながら鎌を振り下ろす。

ブチ切れ消失した腕からは黒い霧が吹き出、それを再び一振りし吹き飛ばした。



「……こんなに、蓄えて……」



「うるあぁぁぁぁぐぁあ!! おれのぉお!!」



痛覚がないのだろうか。夢魔は、激痛に悶えることも無く、薙刀を持ち替え大口を開き猛り狂う。



その姿はもはや、尋常ではなく。その雄叫びは肌に静電気を走らせ、髪を靡かせる。が、くくりは臆することも慄然する事もしない。それどころか、感情が無い瞳には冷静に夢魔が写っている。



「うちには、じゃれ合う、時間、ない、最初から本気で……いく」



再び、風を巻き起こし高々と跳躍する。

そして、夢魔の肩に手を添え。それを、軸に軌道を逸らし、背中に鎌の刃先を入れ込み斬り込みなが着地する。



吹き出る黒い霧は止まることを知らず、腕から、背中から飛散し続けた。



しかし、それでも夢魔は倒れる事はなく。薙刀を握った手も緩むこと無く健在。



“ズスォン”



力任せに振られた薙刀は、くくりの脳天目掛けて空を斬り襲う。が、くくりは長い大鎌を何も無い地に勢い良く振り下ろし。そして、それを軸にバク宙をし交わす。



けして、夢魔の攻撃速度が遅い訳では無い。寧ろ、あれだけでかく太い薙刀。重力に任せるだけでも、相当なスピードだろう。



しかし、速すぎる。そう、くくりはその倍以上のスピードで、圧倒して見せているのだ。



「──なら、これは、どう」



次は、真横に跳躍し、正面に突っ込む。そして、すれ違い際に足を切り刻んでゆく。



息も切れることなく、くくりは何往復も繰り返す。それは吹き付ける強い風の刃の如く夢魔を襲う。



攻戦一方の状況。夢魔はなす術なく膝を地に舐めさせる。





「そろそろ、幕引き……」



立とうとするが、立てずに崩れ落ちる行為を繰り返す夢魔の目の前にくくりは立つ。



そして、大鎌を高々と天に翳す。



腕をもがれ、足首から下も無い夢魔は、その光景を間近で見ながら、呻き声を上げるのみ。



「……荒天に射す燦然たる刃。その光が導くは慈悲ではなく無慈悲の鉄槌。邪を討ち邪を払う鉄槌。それは神に与えられた一振りにも等しく美しい。穢れ全てを消し飛ばせ……テオス・エルピス!!」



縦一閃。その緩やかに・穏やかに、触れる空間を歪ませながら、その光はユックリと夢魔の体にくい込んでゆく。



「……混ざって──爆ぜろ」



夢魔の体内と言うよりも、傷口から光が漏れ始め。それは、水風船のように夢魔を膨張させ。



──そして、中から光が波のように溢れ出し広がった。

夢魔は形を残すこともなく、いや。塵一つ残す事なく、光に飲まれ消え去った。



「まだ、うちは……」



確かめるように、自分の掌を瞳に写す。



その、心に宿した代償は刻々と、くくりの体を取り込もうとしていた。



しかし、後悔はない。ただ、願いとしてくくりは思っていた。

あの部活に、絢美未来に、まだ会って、そして居たい。と、



「ゆーだい、貴方は、本当に……」

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