暗い部屋とアリスと01

文字数 3,392文字

──ここは??



俺が一番初めに疑問に思うのは自分の居場所についての事だった。ただただ、暗いだけの空間。その他に例えようがない。いや、ただ単に俺の兼ね備えている語彙がその程度のもの。だけに過ぎないのかもしれないが……。寒さも、暑さも何も感じなく・匂いも無く。それでいて無音。出した声は響く事なく遠くに消えて行く。それも、喉が震えた。と言う事実で確認出来る曖昧なもの。そう、今、俺が分かる事。と、言えば視覚・聴力・嗅覚と言った感覚を失った。とまでは言わずも消えたと言う意味の分からないものだけ。



──手探りでも、何でも一応歩いてみるか……。



遭難をしたら、歩かず。その場に居るのが良い。なんて話を聞いたことがあるが、今の俺から言わせれば、それは無理な話だ。



それは、何故か。と、聞かれれば。俺は、間を置く事なく「ただ待つ可能性より。自分で踏みしめる可能性の方が信用に足る」と。でも、きっとこれは他の人。俺以外の他人を信用出来ないから思うことなのかもしれない。いくら、それに足る材料を用いようとも、きっと俺は、信じきれはしないだろ。そう考えると、本当の俺とは、一体どんな人物なのだろう。時々それ自体が疑問になる。



──歩いているよな??



何故か、そう思う。まるで、進んでる気がしない。



両手を前に、おぼつかない足取りは、さながら盆踊り。



一体、どれぐらい進んだのだろう。一体、どれぐらい時間が経ったのだろう。俺が、目を瞑った時から……。



彼女は、蒼葉優縁は本当に無事だったのだろうか。突き飛ばした感覚はあったものの、その後の彼女を見ていない。



「……そう言えば……。初めてだ。正夢が正夢になる前に分かるなんて事……。それが、彼女から感じた違和感だったのか」



いいや、違う。それなら、自分自身に対して違和感を感じていたはず。なら、なんで彼女だったのだろう。



──予知夢? そう言えば誰かが俺に言って居たような……。誰だっけか……。



「──何、一人でウロウロとしているんだ? お前様は」



「……ッ!!」



俺は、久々に聞いた人らしき声に勢い良く振り向いた。この時の、俺の表情は一体どんなものだったのだろうか。

だが、それ以上に衝撃をうけた。それは、暗闇にも関わらず目の前に居る彼女をしっかり視認出来る。と、言う事。



暗い背景の中。異彩を放つ金色の腰まで伸びた長い髪・白い花の髪留めで、前髪を分けそこから覗かせる青と赤のオッドアイ・ピンク色をしたロリータファッションに身を包み・俺の胸下程であろう身長。それは、さながら西洋の人形だ。



しかし、無気力そうな瞳と声がそれと相反していた。いや、反しすぎていた、可愛げがあるわけではなく。どちらかとゆえば気だるさを感じるものがある。が、そのギャップみたいなものが余計に視点を彼女に寄せる。





「お前様は、もしかして。女性に声を掛けられる度にそんな、顔しているのか?? 正直……引くぞそれは……」



──ど、ど、ど、どんな表情してたんだし?! と言うか、今はたまたまビックリし……



「あの、どんな表情してました??」



「一言で言えば深海魚みたいな感じだなぁ。あの“ギョッ”と開いた瞳孔は流石に、キモイし怖いぞっ」



しんか……い……ぎょ……だと……。もはや、人で例えられることすら無いおれって……。





「ともあれ、無事でよかったね? 心配してたんだよ」



あれ、なんだろ。この人、人をからかうのが趣味なのかと思ったら意外といい人くさい。



「えっとありが」



「ラビが」



 ──完璧な悪意を、感じるぞ。今の間の置き方と言い、倒置法といい。





と言うか、今、確かに『ラビ』と言ったか? 俺は、その名前に聞き覚えがある。と、言うよりも。その、彼女に会ったことがある。そんな気がしてならなかった。



そう、俺の記憶が正しければ。俺に予知夢だの正夢だのを告知してきたのがラビだ。



「……って事は、ここは夢の中……な……のか?」



普通なら、死後の世界を連想しそうな状況だが。俺は、そんな関連付けよりも先に夢だと思った。それには確信があったからこその言葉。



「流石だね。と、言ってもボクを自らの意思で視認出来ている時点で癒着が完了している事を意味するんだけれどねっ」



手を、後ろに組ながら。小さい歩幅で髪を揺らし。リズミカルに近づきながら、彼女は八重歯を覗かせながら口を開く。



「癒着。と。いう言葉は、確かにラビが言っていた……。それは、後で聞くとして。自ら視認しているって……どう言った意味なんだ??」



彼女は、その瞳に似合う程の深い溜息をつく。それは、俺の質問が喧しい。と言っているような気がしてならない。



「……もー。質問・質問って。喧しいなあー」



見事的中したようだ。いい加減、この俺に抱く嫌悪に対しての的中力の凄さを違う事に活かしたい。



「いや……だって。ほら、俺は何も知らないしさ」



「知らなきゃ調べろっつーんだよなあ。じゃあ……。g!」



「g?」



「うん。そのままボクの言葉を繰り返してね。そこに答えが、あるから。g!」



「……g」



何で、繰り返す必要が? そのまま普通に教えてくれればイイと思うのだが。



「r!」



「rー」



「k!」



「k?」



「最後はぁー!! s!!」



「s??」



──ん? ジージーアールケーエス?



何だ? 分からねぇ……。何かの暗号か? そこに答えが……って。



「何がググれカスだよ!! なんだよ!! 此処はウィキったら出てくんのか!? 知恵袋に出てくんのか!?」



頬を膨らませる彼女に俺は、ありのままを訴えた。小刻みに震える肩は、どうやら笑いをこらえているものによる衝動らしい。



──ふざけんな!! 初対面で馬鹿にされる俺ってなんだよ!!



「……ぷはぁっ!! いやぁ、お前様はやっぱり面白い。揶揄いがいがあるよねっ!! にひにひ」





にひにひ、じゃねーよ。居ねーよそんな笑い方する奴なんか。



「と言うか、やっぱりって。前に会ったりした事あるのか??」



「……んー?? どーだったかな。と言うか、それよりも説明は良いのかな??」



「あ、そうだった。お願いします」



「んじゃ、ラビー!! ラビー!」



すると、胸元にある、見るからに高そうなペンダントが光る。それは、燦然たるものだ。



それが、暗い部屋に射す一対の矢の如く空高くに放たれる。





「──ぉお……此処から、召喚されるのか!!」



「…………」



「……はぁ……」

んー。まだ、召喚を終えないのか……。かれこれ、十分以上はこのままだし……。目の前の彼女は疲れたようで、ペンダントを地面に置き座るし……。



「アリス様。遅くなりましたですー」



「ぉお!! やっと召か……ん?」



何で、この幼女は俺の後ろに居るんだ? しかも、多少息が上がってるようにも感じるのは、気のせいだろうか。



「もー。ラビ! 遅いよっ!!」



「いや、ちょっと。遅いも、何も……召喚は??」



「召喚? 何を言っているの??」



「え? だってその眩い光の柱から召喚されるんじゃ??」



「ぁあ。これ? これはタダの道しるべだよ。この子、案内担当のくせに方向音痴なんだよねぇ」



「……はあ……」



「それに、加わりこんな、暗い場所じゃ。この子一生経ってもボクの元に着かなくなっちゃうから。この光を目掛けて向かってくるってこと!」



「何、意味わからない事ゆっているの?」みたいな、俺が頭おかしい事を言っているかのように。彼女は“キョトン”とした赴きで、ラビの頭を撫でながら口にした。



そうですね、召喚なんて、有り得ないですもんね!! くっそ!



ラビはと言うと、その手に体を委ねるが如く左右に揺れながら。顔を蕩けさせている。



──何それ、可愛い。



「ラビぃ? ちょっと、尻尾の毛。増えすぎたんじゃない? そーれ、モフモフー」



「……うひゃあっ……ア、アリスさまあー。し、尻尾わ、駄目ですう〜」



ラビは、顔を赤らめながら、口元を手で隠しながら口にした。

──だから、何それ可愛い。



もう、ずっと見ていたい。



「……ねぇ、お前様。だから、気持ち悪い……」



──ひゃあ……。



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